70万円で「稼げる情報」買った大学生の末路 団体入会費やインフルエンサーになる方法…リボ払いで手数料かさみ「甘かった」

若狭高校の生徒が企画し、クイズやゲームから消費者トラブルについて学んだ授業=2022年4月、福井県小浜市の同校

 「クーリングオフできる期間は絶対覚えておいて」。福井県立若狭高校で4月に行われた消費者教育の授業で、同校国際探究科3年の兼松香乃さん(17)と田原友結さん(17)が教壇から声を張り、同級生に呼び掛けた。

 成人年齢の18歳への引き下げを見据え、2人は2年生のときから若者の消費者トラブルをテーマに探究活動を行ってきた。同世代に注意を促す授業を企画し、自分たちが講師役を担ったのは危機感からだ。「私たちが狙われるかもしれない、と知って驚いた。人ごとじゃないし、まだ知らない人も多いはず」

 18、19歳は4月から、クレジットカードや携帯電話、ローンといったさまざまな契約を親の同意なしで結べるようになった。一方、民法の「未成年者取り消し権」の対象外となり、契約を結んだ後は簡単に取り消せない。悪質な業者の標的になる可能性があり、トラブルの増加が懸念されている。

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 福井市の会社員男性(24)は、県内の大学に通っていた19歳のとき、トラブルに巻き込まれた。「稼げる情報を教えてもらえる」との誘い文句でセミナーに参加したことをきっかけに、主催団体への入会金などの名目で70万円ほどの支払いを背負った。「自分のような人がもっと出やすくなる。甘い話をうのみにしないで」と訴える。

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 改正民法が施行され、成人年齢が20歳から18歳になった。当事者世代のオトナ像や「18歳成人」を取り巻く課題を考える

「考えが甘かった。視野が狭かった」。福井市の会社員男性(24)は、大学2年の出来事を苦々しく振り返る。SNS上の知人から「稼げる情報を教えてもらえる」と、ある人物を紹介され、大阪で開かれた無料セミナーに参加した。

 稼ぎたい一心だった。県外にある実家は決して裕福とはいえず、アパート代以外の生活費は自分で工面し、親に仕送りもしたかった。怒られてばかりのアルバイト先も辞めたかった。

 セミナーで語られたのは「成功者のマインド」。大金を稼いで海外のリゾート地で暮らす人の話などに引きつけられ、主催団体に入会した。十数万円の入会金は、クレジットカードで支払った。毎月一定額を返済するリボルビング払いで、手数料がかさんだ。

 入会後に教えられたのは、「インスタグラムでインフルエンサーになる方法」。より詳しい情報を求め、言われるままに2回に渡って計60万円を追加で払った。2回目の支払いは、自動車学校代とうそをついて親に借りた。それでも十分な情報が得られないばかりか、「同じような団体を立ち上げれば稼げる」と言われた。「まるでネズミ講じゃないか」。我に返って、団体と縁を切った。

 クレジットカードで払ったのは計約40万円分。毎月アルバイト代から1万円ほどを返済に充てたが、手数料もあり、なかなか残額は減らなかった。

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 国民生活センターによるとここ数年、20~24歳の相談件数は18、19歳の約1.5~2倍に上る。サプリメントなどの定期購入契約で初回は安価だが2回目以降は高額になるケースや、エステや美容医療で数十万円のコースを強引に勧められ契約してしまう例があるという。福井県消費生活センターの担当者は「18、19歳も一人でクレジットカードを作ったりローンを組んだりできるようになった。(トラブルが)前倒しされるかもしれない」と懸念する。

 株取引や投資信託の利用も18歳で可能になるが、福井銀行(本店福井市)と益茂証券(本社福井市)の担当者は「高校生の商品購入は想定していない」と口をそろえる。福井銀行は消費者保護の観点から、カードローンの利用を引き続き20歳以上に制限している。

 福井県内の各高校は1、2年生を対象に消費者教育に力を入れているが、県消費生活センターの担当者は「数時間の授業で、どんなトラブルにも巻き込まれないようにするのは難しい」。若狭高で消費者教育の授業を企画した3年の兼松香乃さんと田原友結さんは、同年代にもっと当事者意識が必要と考えている。「自分のお金を使うようになったとき、授業を思い出して気を引き締めてほしい」

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