iDeCo制度改正、積立期間の延長で考えたい「つなぎ年金」の使い方

令和4年は、老後の資産運用を後押しするiDeCo(個人型確定拠出年金)について、大きな改正が3点あります。

今まで加入できなかった方も対象になるなど、制度の幅が大きく広がったので、改正点を確認しながらiDeCoを活用する方法を考えてみましょう。特に、50代後半ですと、税額控除のメリットや運用効果を実感する時間がありませんでした。充分な時間とはいえないまでも、今後の資産形成の足掛かりになるチャンスといえます。


(1)令和4年4月 iDeCo受給開始年齢の延長

現行では、原則積立を60歳まで行い、60歳から69歳11ヵ月までの間に受取るという仕組みでしたが、受取の期限が74歳11ヵ月までに延長されました。昨今、就労年齢が徐々に後ろに下がってきたこともあり、働いて収入が得られるうちは受取らず、コツコツ積立ててきたiDeCoの資金を、少しでも長く運用できれば、老後の生活にも余裕ができるので、朗報といえるでしょう。

(2)令和4年5月 加入可能要件の見直し

現行では、iDeCoに加入できる期間(積立する期間)は60歳まででした。今回の改正により65歳まで加入期間が延びます。iDeCoは「国民年金被保険者」であることが加入の要件になっています。

基本、国民年金の加入は20歳から60歳までとなっています。ですが、自営業などの第一号被保険者のほかに、サラリーマンや公務員のように、厚生年金に入っている方たちは、厚生年金保険料の中に国民年金保険料も含まれており、自動的に「国民年金被保険者」でもあります。60歳以降も会社に勤め厚生年金を支払っている場合は、65歳までiDeCoに加入できることになりました。高齢期の就労拡大で、定年が60歳から65歳に変わりつつあることも要因でしょう。

(3)令和4年10月 iDeCo併用の拡大

企業にお勤めの方は、会社で企業型確定拠出年金に加入しているという方が多いと思います。現行では、会社の企業型確定拠出年金の規約で同時加入が認められている企業はごくわずかなので、多くの会社では、iDeCoに同時加入することはできませんでした。

今回の改正で、多くの方がiDeCoに同時加入できるようになります。会社の掛金上限額(確定給付企業年金がない場合5.5万円、ある場合2.75万円)まで掛金が達している方は全体のほんの一部と言われています。多くの方は上限額までまだ枠がありますので、iDeCoとして決められている上限金額(企業型確定拠出年金が導入されている会社は2万円、さらに確定給付企業年金も導入されている会社は1.2万円)を積み立てていくことが可能になります。節税しながら老後の資金を貯められるiDeCoの活用枠拡大は大きな改正といえます。

60歳年金受取開始のつなぎ年金(個人年金)をiDeCoに活用

公的年金の受給開始年齢が60歳から65歳へ引上げが決まったのは、平成12年のことです。経過措置なども取られていますが、男性は昭和36年4月2日以降生まれ、女性は昭和41年4月2日以降生まれの方からは65歳受給開始に変わっています。

改正当時、定年は60歳、年金の受取開始は65歳。この5年間の穴を埋めるため、つなぎ年金を作りましょう、と民間の個人年金保険へ加入された方、多数いらっしゃるのではないでしょうか? そんな目的で積立てを始めた個人年金保険の受取が、そろそろ始まるという時期になっています。

今となっては、60歳定年もだんだん少なくなり、役職定年や雇用契約の変更などで、収入は減るものの60歳以降も同じ職場で働く方、新たな職場で働き始める方など、まったく無収入の方は少なくなっています。60歳から65歳までのために貯めてきた個人年金保険をすぐに使わなくても生活ができそうです。

コツコツ積立ててきた、個人年金保険。60歳から65歳まで、毎年契約の年金が振り込まれてきます。趣味やご家族のために使うことも一つですが、定期的な収入があり、つなぎ年金を使わなくても生活が保てるのでしたら、75歳以降の自分に仕送りするという方法を考えてみてはいかがでしょうか?

今回の改正で、iDeCoの積立期間が延長になっています。収入が多少減っていても、つなぎ年金の原資があれば、iDeCoの積立にまわすことができます。預貯金にそのまま入れておくと、日々の生活費になんとなく使ってしまう危険がありますから、この積立期間延長を有効に使いましょう。iDeCoであれば、積立をしている間、掛金が全額所得控除になるので、節税にもなります。

仮に毎月10,000円をiDeCoで積立てれば、年間120,000円。所得税率10%の方でしたら年間12,000円所得税の節税になります。プラス、翌年の住民税も1年間で12,000円の節税になりますので、合計24,000円の節税。計算すると96,000円の出費で120,000円貯金ができたことになります。使える限りiDeCoを活用した方が断然お得ですね。

気をつけたい注意点も

今回の改正では、積立期間も受取開始の期間も延長され、もう少し資産形成を続けたいという方には朗報ですが、注意点もあります。

iDeCoは基本的には加入期間が10年に満たない場合は受取開始年齢が遅くなる決まりです。現行、55歳から始めて60歳まで積立をした場合、60歳すぐに受取ることはできず、63歳以降から受取れるようになります。

改正により、55歳から始めても要件を満たせば65歳まで続けられますので、10年をクリアすることは可能になりました。ただし、60歳以上で初めてiDeCoに加入する場合は、加入期間を問わず、加入から5年経過した日からの受取となります。お仕事の都合で加入要件を満たさなくなり、63歳までしか積立を続けられない場合は、65歳まで運用だけを続けることになります。この際、月66円ですが毎月口座管理手数料が資産残高から引かれますので、注意してください。

また、iDeCo、または企業型確定拠出年金の老齢給付金をすでに受取った場合は、60歳以上で加入要件を満たしていても、同じ仕組みに再加入することはできませんので気を付けましょう。企業型で受取った後に個人型のiDeCoに加入、個人型のiDeCoで受取った後、新たに再就職した企業で企業型に加入することは可能です。


5年間の積立が終わっても、75歳まで受取期間が伸びていますので、生活に支障がないのでしたら、少しでも長く運用しましょう。運用中の運用益は非課税ですので、貯めるだけではなく、有効に殖やせます。

人生100年時代。万が一のリスクに備えることも大切ですが、長い人生を豊かに歩むために、国の制度を上手に活用しましょう。

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