出会い偶然、広がる客層 「長崎鯨つけちゃんぽん」誕生の舞台裏 

 ちゃんぽんと鯨肉-。長崎を代表する名物をそれぞれ取り扱う老舗がタッグを組んで生まれた「長崎鯨つけちゃんぽん」が、2021年度の県特産品新作展の最高賞、県知事賞に輝いた。コラボレーション実現までの舞台裏を聞いた。

長崎鯨つけちゃんぽん。説明書を見ながら手軽に調理できる

■イベント出店
 1926(大正15)年創業の製麺業「佐藤製麺所」と、1904(明治37)年創業の鯨肉専門店「井上商店」。長崎市内で代々営む2店が偶然出会ったのは2020年1月。長崎商工会議所主催の展示即売イベント「きらめきながさきマーケット」への出店だった。
 もともと佐藤製麺所の3代目佐藤茂樹さん(68)は「鯨肉が好物」。一方、長女の4代目坂本千恵さん(44)は「苦手」だったが、井上商店の鯨汁を飲んで「何これって驚いた。癖がなくておいしい」と衝撃を受けた。共同での商品開発を誘われた井上商店の営業部長、井上貴嗣さん(47)は「新たな流れに乗せてもらいたい」と快く引き受けた。

長崎鯨つけちゃんぽんを開発した(左から)坂本さん、佐藤さん、井上さん=長崎市銭座町、佐藤製麺所

■病みつきの味
 新商品の土台となった佐藤製麺所の「長崎つけちゃんぽん」は、業績不振を打開しようと企画された。坂本さんは「家庭でも手軽に楽しめる『つけ麺』で勝負したい」と意気込んだが、歴史を重んじる父は「邪道だ」と否定。「店は俺の代で閉める」と激高する日もあった。それでも、同商議所や食のコーディネーター中野幸浩さん(62)=現在は県よろず支援拠点所属=の仲介もあり、粘り強く開発。佐藤さんが納得する味に仕上げ、17年に商品化にこぎ着けた。
 今回のコラボも同商議所と中野さんが支援。新型コロナウイルス感染拡大でイベント出店機会が激減する中、試行錯誤を重ねた。
 ちゃんぽん麺とスープ、鯨肉の冷凍3点セット。かんすいを使う伝統製法でモチモチ食感の麺に、いかに鯨のスープのうまみを絡ませるかが肝だった。肉の部位、厚さ、ゆで時間、分量-。井上商店の井上さんは、解凍調理する特性や真空パックの見栄え、価格との兼ね合いなども考慮し、「脂とダシのバランスがいい皮須(かわす)を使う。1人前の量は25グラムがベスト」と決めた。約2年かけて完成した商品は、試食した大石賢吾知事から「一度食べたら病みつきになる逸品」との評価をもらった。

■ロゴに心意気
 家庭向けに坂本さん手書きの説明書を添付し、麺のゆで方などを温かみのある文字と絵で紹介した。ロゴは佐藤製麺所の初代らが愛用した前掛けにある、丸字に「サ」を入れたデザイン。歴史を受け継いで前へ進もうとする作り手の心意気も表している。
 知事賞受賞から約1カ月。各メディアに取り上げられ「長崎の味を思い出した」「ぜひ食べたい」と県内外から反響があった。佐藤さん父娘は「コラボして長崎の味を再発見できた。違う切り口から店を知ってくれる人が増えて客層が広がった」。顧客に井上商店を紹介する機会も多く、波及効果を実感しているという。


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