「よしお兄さん」との縁つながる NHK体操の鈴木さん、絵本を出版 医療ケア児支援 ユーチューブ連動も

絵本を手に大きく伸びをする鈴木大輔さん=3月、埼玉県坂戸市

 埼玉県坂戸市で保育園や障害児支援施設を運営するNHKテレビ・ラジオ体操指導者の鈴木大輔さん(40)は、障害の有無や年齢に関係なく一緒に楽しめる体操の絵本「のび~!」を出版した。鈴木さんやNHK「おかあさんといっしょ」で体操の「よしお兄さん」として親しまれた小林よしひささんら、日本体育大学体操部の同窓生4人でつくる「シジュージムナスティックス」が企画。動画投稿サイト「ユーチューブ」に絵本と連動した体操動画も公開し、鈴木さんは「自分も元から器用な方ではなく、苦手意識を持つ人の気持ちが分かる。そういう人も絵本で楽しく体操を教えられる」と自信を示した。

 絵本ではさまざまな個性を持つ5人の子どもたちが遊ぶ前に、それぞれ大きく伸びをする様子がかわいらしいイラストで描かれる。最初に運動が得意な男の子が伸びをするとシャツの色がグレーから黄色に変わり、明るい笑顔とおなかが見える。他の子どもたちも続き、見事な伸びとともに、それぞれバレリーナや忍者、アイドル、金メダリストに変身する。

 制作には体操のプロだけではなく、保育士や医師など、さまざまな立場の意見を取り入れた。鈴木さんは「自然に楽しく遊べるボール遊びとは違い、体操は教える側の指導力が問われる」としつつ、絵本では「遊ぼうね」ではなく「遊べるね」と書くなど、指導的な言葉を避けた。

 「一つ一つの文に『こういう声がけをしたら子どもの気持ちが乗ってくるよ』と思いを込めた。体を動かす楽しさを感じてほしい」と説明。保育所や家庭で子どもが楽しむ用途のほか、高齢者が地域で絵本の読み聞かせなど社会参加を行うことで、認知症予防にも役立ててほしいという。

■亡き娘を巡る縁

 絵本のイラストを担当したのは、医療的ケア児を育てる親たちのNPO「ママケア」のロゴなどを手がけた女性(40代)だ。約10年前に亡くなった女性の娘は車いすを使う医療的ケア児で、「よしお兄さん」が登場する番組を見て踊るのが毎日の楽しみだった。女性はスタジオ収録に応募し、小林さんら番組側も受け入れに前向きだったが、収録目前に体調が悪化し、ついに参加はかなわなかった。鈴木さんから、小林さんも関わる絵本のイラストを依頼され「娘が亡くなった時にお兄さんやお姉さんから贈られたメッセージカードは今でも宝物。よしお兄さんも娘のことを覚えていたと聞き、『まさか再びつながるとは』と驚いた」と語る。

 絵本には車いすに座った「ゆいちゃん」が登場する。伸びをしたゆいちゃんの視界に皆の笑顔が映るシーンは鈴木さんのお気に入りでもある。女性は「ゆいちゃんは元々、娘のために作った絵本の主人公だったんです」と振り返る。10年の時を経て、絵本を通じ娘とよしお兄さんが再会したことに「娘がこの絵本を見たら、きっと喜んで踊ると思う」と小さく笑った。

■社会に思い広げる

 絵本の収益金はママケアを通じ、医療的ケア児や家族の支援に充てられる。鈴木さんは「地域での読み聞かせなど社会貢献活動のためにこの絵本を買うと、医療的ケア児の支援にもつながる。一つの点だった自分の思いが社会に広がる絵本になった」と喜ぶ。

 出版を担った小宮山印刷工業=新宿区=の斎藤栄一さん(56)も「絵本は120点の出来栄え」と称賛。「本来商業ベースでは不可能な絵本だが、ソーシャルアクションとして思いを形にし、ものではなくことを売ることで実現した」と意義を強調した。絵本は1冊1500円(税別)。購入は同社ホームページの販売ページから。

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