知床の観光船事故、埼玉・長瀞にも打撃 水難事故を心配…人気のラフティング、利用客は例年の半数以下に

ラフティング用ゴムボートの安全点検を入念に行う、アウトドアセンター長瀞の従業員=27日午後、長瀞町長瀞

 4月に北海道・知床半島沖で発生した観光船「KAZU I(カズワン)」の沈没事故の影響で、水場のレジャーが打撃を受けている。ゴムボートで川を下る「ラフティング」事業を手がける埼玉県長瀞町長瀞のアウトドアセンター長瀞は、今年のゴールデンウイーク(GW)期間中の利用客数が例年の半数以下に落ち込み、過去最低に。同社の大沢匡社長(62)は「ラフティングも観光船と同じアクティビティーだが、ツアーに絡む水難事故は町内で一度も起きていない。安心して利用してほしい」と呼びかけている。

 長瀞町の中心を流れる荒川区域は、四季折々の自然や名所・岩畳を眺めながら渓谷を下るウオータースポーツが人気で、春から秋ごろにかけて県内外から多くの利用者が訪れる。同社は、ラフティングやカヌー、ボードにつかまって川を下る「リバーブギ」などのツアー事業を展開し、休日の施設内は、若者や子ども連れの家族客でにぎわう。

 大沢社長によると、ラフティングツアーは特に人気が高く、毎年GW期間は千人近くが利用する。コロナ禍の2020年、21年も、感染対策が徹底されたアウトドアスポーツの需要は高く、約600人が来場した。「行動制限が解除された今年のGWは、客足回復を大いに期待していたが、ふたを開けたら500人以下。ラフティング事業を始めて以来、過去20年で最低の入り数だった」と大沢社長は肩を落とす。

 利用客が激減した要因の一つとして、大沢社長はカズワンの沈没事故の影響を指摘する。事故後、同社には「川に落ちて溺れる心配はないか」「救助体制はどうなっているのか」など、団体客から安全面に関する問い合わせが増え、「水難事故を心配し、川遊びを避ける客が増えた」ことを痛感しているという。

 同社のラフティングツアーでは、空気を入れた大きなゴムボートに利用客最大9人と従業員1人が乗り、パドルを使って荒川の急流約7キロを下る。川に転落した場合に備え、全員がヘルメットとライフジャケットを着用。出発前は、経験豊富なインストラクターがこぎ方を丁寧に指導し、安全な利用の徹底を図っている。

 大沢社長は「ラフティングは怖いスポーツと思われがちだが、各社が十分に安全対策を取っているため、泳げない方や高齢者でも楽しめる。これからウオータースポーツのシーズンを迎えるが、安心して長瀞に来てほしい」と話す。

 同社を含む、長瀞地域のラフティング事業8社で構成する「長瀞ラフティング業者協議会」は毎月6月、秩父署、長瀞消防、町と合同救助訓練を開催するなど、安全啓発と商業ラフティングの健全な発展に努めている。

 カズワンは、不安定な天候の中での無理な出航が問題視された。同協議会員でアウトドアツアー会社「アムスハウス」(同町中野上)の平井琢社長(46)によると、長瀞の各事業者は、ゴール地点下流の玉淀ダム(寄居町)に入る水量が毎秒200トンを超える場合はツアーを中止するなど、ガイドラインを順守しているといい、「水難事故が起こる可能性はゼロではないが、全従業員が最大限のリスク回避に努めている」と安全性を強調した。

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