【追う!マイ・カナガワ】どうする?丹沢の空き家 解体手伝う「申し出」に行政は

2018年3月に撮影された新大日茶屋。既に営業休止状態だったが、屋根や壁はまだ崩れていない(猪野義春さん提供)

 「丹沢表尾根の新大日山頂にある『新大日茶屋』の崩壊が進み、危険な状態です。解体に向けた動きがあれば仲間と手伝いたいのですが…」。厚木市に住む丹沢ハイカーの女性(50)から心意気を感じる投稿が「追う! マイ・カナガワ」取材班に届いた。そこで所有者への取材を何度か試みたが、話を直接伺うことはできず―。  

◆契約した方が安上がり

 山小屋関係者らからは、所有者は高齢や体調不良などから山へ行けなくなったという話も聞いた。引き継げる人もおらず「空き家」になったのだろうか。

 同茶屋について、秦野市は2009年の調査で既に「営業休止」扱いとしている。市も小屋の状況は認識しており、「丹沢大山国定公園内で県の管理になる。景観的にも問題なので対応したいのですが」と打ち明けた。

 県自然環境保全センター(厚木市)に尋ねると、「1965年の国定公園指定以前からの建物で、県が管理しているわけではない」と素っ気ない答え。「土地は国管理なので、林野庁に聞かれてはいかがでしょうか」。行政の縦割りにイライラしつつ、同庁の東京神奈川森林管理署(平塚市)に問い合わせた。「関係者とは連絡が取れていますよ」。期待が膨らむ答えが返ってきた。

 担当者によると、新大日周辺の土地は61年ごろに秦野市から譲り受け、国管理の土地になった。山小屋などの営業は、許可を得て賃貸借契約を結べば可能になる。「小屋の管理者とは現在も契約があります。営業休止は所有者の判断ということです」。廃屋のようで、廃屋ではない?

 契約を更新しない場合はどうなるのか。

 「所有者は建物の解体と植生回復を行う必要があります」と担当者。つまり、多額の解体費を払うよりは契約を継続した方が安上がり、というわけだ。

 「小屋の状況は把握しています。関係者と連携して最善な方法を探しています」とし、解体するなら手伝いたいという投稿者の話を伝えると「大変ありがたい。皆さんの協力を得られるのであれば、必要な助言をさせていただきます」と話した。

◆ボランティアが一役買った例も

 かつて丹沢では、ボランティアが山小屋の解体作業に一役買った例が二つある。一つは新大日近くの「書策(かいさく)小屋」、もう一つは塔ノ岳(標高1491メートル)直下の「日の出山荘」だ。

 どちらの解体にも関わった、NPO法人丹沢自然保護協会の中村道也理事長は「書策小屋は、小屋主の渋谷書策さん(故人)を慕う水道や土建関係などのファンも多かった。10年以上前に解体する際、その人たちが中心となり手弁当で作業した。一般の登山客にも思い出深い小屋だったからね」と振り返る。

 03年に解体された日の出山荘については「解体に動こうとしたボランティアの熱量が行政を動かした。景観保全を目的に県の水源環境保全税を使い、ヘリコプターで廃材を運んだ」と解説する。

 当時の本紙にも約130万円の運搬費用に、同税が活用されたと記述がある。この方法を新大日茶屋にも活用できないのか。中村理事長は景観保護の観点から解体の必要はあるとしながらも「山の中にあるけど空き家。町の空き家解体に使えない税金を、山だから使うことに理解が得られるのか。安易に税金を使わず、クラウドファンディングで資金を募るなど工夫することが必要」と提案する。

 また、県内で活動する山岳ガイドの男性は「宿泊客がメインの日本アルプスと違い、日帰りメインの丹沢で山小屋はもうからない。今後、後継者や建て替えで多くの課題が出てくるので、行政と民間が連携した仕組みを作るべき」と話す。

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