強打の原動力は強靱な足腰の粘り 首脳陣の信頼は絶大、DeNA・牧秀悟

ソフトバンク戦の4回、同点ソロを放ち、ナインに迎えられるDeNA・牧=横浜

 マスコミの野球報道は話題先行だ。首位を走るチーム、人気球団の巨人や「令和の怪物」ロッテ・佐々木朗希の活躍などが大きく取り上げられる。

 だが、記憶にとどめておいてほしい選手はまだいる。DeNAの牧秀悟はその筆頭格だろう。

 セパ交流戦がスタートした直後の対ソフトバンク戦では、連日のホームランに安打量産、気がつけばセ・リーグの打率トップに躍り出た。

 本塁打と打点もヤクルト・村上宗隆、巨人・岡本和真らと上位を争っている。現在、最も三冠王に近いのはこの男なのである。

 プロ2年目なのに、どこか風格すら感じる。強打を誇るDeNA打線の4番に座り、三浦大輔監督ら首脳陣の信頼は絶大なものがある。

 178センチ、93キロの体は球界では大柄の部類には入らない。それでいて、放たれる打球は鋭く、勝負強い。ヒットポイントを多く持っているから、右にも左にも広角に打てる。強靭な足腰の粘りが強打を生む原動力だ。

 ルーキーだった昨年の活躍も特筆ものだったが、新人王は広島の栗林良吏に奪われ、話題性では阪神の佐藤輝明の後塵を拝した。

しかし、5月の阪神戦では新人史上初のサイクル安打を達成。シーズン成績では打率3割、20本塁打もマーク、こちらは史上4人目の快挙。球団の新人打撃記録をことごとく更新する活躍だった。

 精神力の強さにも感心させられる。1月にはコロナに罹患してキャンプは2軍スタートとなった。開幕直後にも再びコロナの陽性判定を受けて戦列を離脱している。

思わぬアクシデントは調整を狂わせ、焦りも呼ぶ。だが、こんなピンチに動揺することなく戦列に戻り、誰よりも成績を残している。

 二塁手は守備範囲も広く激務のポジションだが、それも難なくクリア。1年目よりさらに凄みを増した牧に、欠点は見当たらない。

 前年の最下位から巻き返しを誓うベイスターズだが、開幕から大きくつまずいた。エースの今永昇太は左前腕部の炎症で出遅れ、打線の中核であるタイラー・オースティンはコンディション不良のまま一時帰国。宮崎敏郎、佐野恵太らも故障で戦列を離れた。

 そこにコロナ禍による離脱者が続出して4月上旬の阪神戦は中止に追い込まれた。

 これだけ戦力がそろわなければ下位に低迷するのも仕方がないが、それだけにファンは牧の獅子奮迅の働きに希望の光を見いだしているのだろう。ちなみに本拠地・横浜での打率は4割近いハイアベレージを残している。もう立派な「ハマの顔」だ。

 打撃の成長には二人の名伯楽の存在も追い風となっている。今季から古巣に復帰した石井琢朗野手総合コーチと鈴木尚典打撃コーチの存在である。

 中でも石井コーチは広島、ヤクルト、巨人で打撃コーチとして指導してきたキャリアの持ち主、熱心な指導には定評がある。

 鈴木コーチは元首位打者。伸び盛りの牧には彼らの経験とアドバイスが、この先も生きてくるはずだ。

 「自分はタイトルを狙えるほどの力はまだない。とにかくチームの勝利に結びつくような打撃を心掛けていきたい」

 派手なスター性はないかもしれない。だが、気がつけば打撃各部門で上位に顔を出す職人のような味が牧にはある。

 長野県中野市出身。古くは日本球界最初の三冠王に耀いた中島治康を輩出した長野県勢も、近年は大物選手が出ていない。

 スキー、スケート王国に現れた久々の野球の申し子。更なる活躍で球界を盛り上げてほしい。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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