ポルシェvsアウディでまさかの“兄弟同士討ち”「感情に支配され、脳が働かなくなった」と兄/ニュル24時間

 ローレンス・ファントールとドリス・ファントールの兄弟は、2022年ニュルブルクリンク24時間レースの決勝序盤で接触、ローレンスがクラッシュしてリタイアに追い込まれたティアガルテンでの出来事をともに後悔しているが、互いに「恨みはない」と語っている。

 兄・ローレンスが駆る昨年覇者のマンタイ・レーシング1号車ポルシェ911 GT3 Rと、弟・ドリスがドライブするアウディスポーツ・チーム・フェニックスの15号車アウディR8 LMS GT3 エボⅡは、5月28日にスタートしたレースの序盤、ポジションを争うなかでサイド・バイ・サイドの状態に。

 軽い接触の後、ローレンスのポルシェはスピン状態に陥って右側のバリアへと激しくクラッシュ。コースを横切ったところで停止し、マンタイのニュル24時間“防衛戦”は、レース開始3時間半というところで早々に幕を閉じた。

 ローレンスはこの出来事の後、ソーシャルメディア上にコメントし、弟とのバトルであったことが、より大きなリスクを冒すことにつながったと説明した。

「このことを言葉にするのは、おそらく無理だろう」とローレンスはインスタグラムに投稿している。

「昨日起きたことは、悪夢だった。僕は本来もっと賢いし、24時間レースにおいてあれほどのリスクを取らないことも分かっている」

「これを公にすることは苦痛だが、自分の弟とレースをしていた、ということが背景にはある」

「自分の感情に支配され、脳が働かなくなった。僕らは互いに子どもの頃から競い合い、一歩も引かず、負けるくらいなら脚が折れる方がいい、という関係だった」

「残念ながら、昨日はこの競争心が勝ってしまった。とても後悔している。プロフェッショナルではなかった」

 31歳のローレンスは、彼とドリスの間に悪意はなかった、と述べている。

「ドリスに対する恨みはない。それどころか、とても誇らしい弟だ」とローレンス。

「将来的には互いに争うのではなく、お互いの関係を取り戻すだろう。今日は僕のキャリアにおける、暗黒の一日だった。長い間後悔することになるだろうが、人生とはそういうものだ」

マンタイ・レーシングから参戦したポルシェ・ファクトリードライバーのローレンス・ファントール

■優勝した弟・ドリス「兄は非難されるべきではない」

 このアクシデントの後も走り続けた弟・ドリスは、最終的には総合優勝を果たすことになるが、彼もまた兄と同様の感想を後に述べている。

「最初の数時間であれだけのリスクを冒すというのは、僕らふたりにとって、いずれも最も賢いやり方ではなかったかもしれない」とドリスは語った。

「何が起こったのか? これについては、皆それぞれに見方があるだろう。だけど、彼のせいでも、僕自身のせいでもないんだ」

 ドリスはさらに、ポルシェのファクトリードライバーである兄・ローレンスが、ソーシャルメディア上で不必要な非難を受けたと感じているとし、兄を擁護している。

「僕は何も間違ったことはしていないと思うし、彼も何も悪いことはしていないと思う」とドリス。

「単純に、僕らが賢くなかっただけだ」

「たまにソーシャルメディアを読むけど、実際にはそれらは完全なジョークだ。彼が何かを非難されるべきではない。彼らが書いていることには感心しない。彼がいつも素晴らしい仕事をしていることを、尊重した方がいい」

「いつも計画どおりにいくとは限らない。彼らはそれを尊重すべきだよ」

 24歳のドリスは兄のことをとても尊敬しており、「彼のおかげでレースができている」と語り、アクシデントのあとはふたりで話もしたと説明している。

「僕らはいつも、レースをするときは全開だぞ、と言っている」

「たぶん、僕らは競い合うのではなく、お互いを助け合うべきだったのかもしれない」

「これが、僕らふたりが学んだことだ。今後、このようなことは二度と起こらないだろう」

ケルビン・ファン・デル・リンデ、フレデリック・バービシュ、ロビン・フラインスとともにニュル24時間を制覇したドリス・ファントール(左端)

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