<社説>国連弁務官が新疆訪問 人権抑圧は許されない

 バチェレ国連人権高等弁務官が中国新疆ウイグル自治区訪問を終えた。だが、焦点となっていた少数民族ウイグル族抑圧の実態には迫れず、中国側に懸念を伝えるだけにとどまった。 少数民族への抑圧を批判する国際社会の声を、中国政府が「内政干渉だ」と切り捨てるのは誤りだ。中国は国連人権理事会の理事国である。人権擁護で「最高水準の規範」が求められ、人権抑圧は許されない。国際社会の一員として中国はウイグル問題を説明する責任がある。

 ウイグル族の間では中国による強権的統治への反感が根強く、中国当局が「テロ」と呼ぶ事件が数年前まで相次いだ。当局は街頭のカメラや住民らのスマートフォンを通じた監視網を整備した。イスラム教を信仰する多数のウイグル族を各地の「職業技能教育訓練センター」と呼ぶ施設に収容し、思想改造を進めているとみられている。

 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は昨年、中国政府によるウイグル族らへの弾圧を「人道に対する罪」だと非難し、弾圧規模について「近年で前例のないレベルに達している」と指摘していた。

 バチェレ氏は中国滞在中に、中国当局による少数民族ウイグル族への人権侵害が懸念されている新疆ウイグル自治区のほか、広東省を訪問した。習近平国家主席は中国を訪れたバチェレ氏とオンライン会談し「教師面して偉そうに他国に説教する必要はない」と語り、干渉しないよう求めた。国際社会の疑念の声に耳を傾けない姿勢こそ問題だ。

 中国は、訪問団を新型コロナウイルス対策を理由に外部との接触が禁じられる「バブル方式」にした。国際社会が非難する収容施設は「既に廃止した」と説明し、実情は分からなかった。明らかに透明性に疑問がある。

 さらに中国は「新疆でバチェレ氏は少数民族の伝統の保護や生活水準向上の様子を体感し、反テロ政策の成果を詳細に理解した」と決めつけた。これでは訪問そのものが、中国の政治的宣伝に利用されたと言われても仕方ない。

 一方、英BBC放送電子版は24日、新疆ウイグル自治区で少数民族の収容施設を建設するよう習近平国家主席が指示していたとする内部資料の内容を報じている。

 2018年当時の記録で、「過激な思想」を持つ200万人を収容することが目標だったという。自治区トップは逃走者は「射殺しろ」と発言していた。内部資料は政府幹部の発言記録など複数あり、新疆の警察のコンピューターから流出したという。毎日新聞も25日、「ウイグル公安文書流出」と報道している。中国外務省は「反中勢力の中傷」と反発した。

 日本をはじめ国際社会は「前例のないレベルの」人権侵害を放置してはならない。

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