リニア「神奈川県駅」報道公開 2つの開削工法で掘り進められる広大な地下空間

リニア中央新幹線「神奈川県駅(仮称)」工事現場。写真は工事現場中央付近の桟橋から西(名古屋方)を眺めたところ

JR東海は2022年5月30日(月)、建設中のリニア中央新幹線「神奈川県駅(仮称)」を報道陣に公開しました。

同駅が設置されるのはJR横浜線や京王相模原線の橋本駅南側。リニア中央新幹線の中間駅では唯一の地下駅で、国道16号線との交差部を除くほとんどの部分では、地下深くまで掘り進め、底部から駅を構築していくというスタイルで工事が進められています。珍しい工事現場の様子や、2022年5月末時点での進捗状況などを見て行きましょう。

工事現場中央付近の桟橋から東(品川方)を眺める。写真左上に見えるのが京王相模原線の高架。車窓から工事の様子を眺めることもできる

駅は地下3層からなる大規模地下構造物

「神奈川県駅(仮称)」は延長約680メートル、地下3層からなる大規模地下構造物です。

最大幅員は約50メートル、深さは約30メートル。ホームが作られるのは最深部にあたる地下3階です。構造は2面4線。中央に上り線・下り線の本線2本、両脇に上り線・下り線の副本線が通ります。

地下函体(ちかかんたい)の縦断図(画像:JR東海配布資料)

2019年11月の着工から2年と半年が経過し、現在は中央部付近で地上から約17メートルの深さまで掘削が完了した段階です(地下1階・2階部分まで)。駅そのものはまだ影も形もありませんが、中央部付近では今年度中に最下層まで掘り進め、駅構造物の構築に移ります。

駅中央部付近。2022年5月末時点では17メートルほど掘削済み。ここから更に15メートルほど下へ掘り進めていきます。地質的には現在掘り進めているあたりまでが関東ローム層、この下が砂礫層です。法面は約5メートルごとの段になっています(最上段を除く)

JR東海が採用する2つの開削工法とは

神奈川県駅(仮称)工事の大部分は開削工法で進められています。本工事で特に興味を引かれるのは、中央部と端部で異なる開削工法を採用していること。

一般に、工事現場の近くに構造物があり、ヤードを広々と使えない都市部では、「地上から地下に向かって仮土留壁を構築し、これを突っ張り棒のように支える支保工を設置しながら段階的に掘削を行う」という方法を採用します。神奈川県駅(仮称)の工事現場でも、駅部の端の方ではこちらが採用されています。

都市部での一般的な工法(画像:JR東海配布資料)
神奈川県駅(仮称)工事で都市部の一般的な工法を採用しているところ。地上から地下に向かって仮土留壁を構築し、内側に倒れてこないよう支保工を設置して突っ張り棒のように支えます。写真両側の仮土留壁はここから更に地下に向かって伸びています
入り組んだ支保工の間をバックホー(油圧ショベル)を使いながら掘り進めていきます。実際に使うバックホーは写真のものより小さいそう

一方の駅中央部は、周囲に建物もなく、県立相原高校の移転跡地を広々と使える状況でした。また地層も締め固まった関東ローム層であり、上から斜めに掘り進めても崩れない安定した地盤であることから、法面で掘削する工法が採用されています。

施行イメージ図(画像:JR東海配布資料)
法面に触れる中央新幹線建設部 吉川太郎担当課長。乾燥を防ぐため、上から金網をかぶせ、モルタルを吹き付けていくことで白い法面になります

地上から一定の深さ(本工事では地上から約17メートル)までは法面で掘削し終えると、今度はそこから地下へ向かって仮土留壁を構築します。先に述べた一般的な開削工法では仮土留壁を支えるため支保工を使いましたが、こちらではアンカーを打ち込んで仮土留壁を支えているため、掘削も駅構造物の構築も効率良く進められます。

このように駅中央部と端部で異なる開削工法を採用すると、掘削を開始する時期をずらせることから、使用するダンプの数を抑えられるといったメリットがあります。参考までに、現在の工事では、普段は150~200名ほどが掘削作業に従事しており、最大で1日400台ほどのダンプが出た実績があるそうです。

高圧噴射でタイヤを洗浄する様子。関東ローム層の土は他の工事現場や受け入れ先に運び、砂礫層の土は一部をヤードに残して駅構造物の埋め戻しに使います

リニア中央新幹線の品川―名古屋間開業自体は、静岡県との協議が難航していることから当初の予定より遅れるものと思われますが、神奈川県駅(仮称)の工事は現在のところ順調に進んでおり、工程に遅れもないそう。

JR東海は工事の様子をこうした報道公開で発信するほか、工事や区分地上権設定の内容などを紹介する『さがみはらリニアブース』を開催したり、近隣の小学校に通う児童や保護者を対象とする見学会を催すなど地域連携の取り組みにも力を入れています。

記事:一橋正浩

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