第4回未来まちづくりフォーラム③ 企業と自治体との連携の最前線

第4回未来まちづくりフォーラムでは、企業と自治体、関係者のコラボレーションによる「協創力」に焦点を当てたリレーセッションが行われた。「日本SDGsモデルの最前線―より良き回復(Build Back Better)に向けてー」のテーマのもとに、社会課題の解決に向け、地方自治体と企業がタッグを組んで取り組む事例や、製品や産業そのものに新たな価値を見出そうとする業界の動きが報告されたセッションの内容を2回に分けて紹介する。前編は損保ジャパン、日本製紙、JTBの3社による発表だ。(岩﨑唱)

損保ジャパン×地方自治体の「レジリエンスが高まる好循環」

陶山さなえ氏・秋田県 理事
諸橋和行氏・中越防災安全推進機構 地域防災力センター 業務執行理事
酒井香世子・損害保険ジャパン 取締役 執行役員
中條美恵子・損害保険ジャパン 秋田支店 支店長
土田達夫・損害保険ジャパン 長岡支店 担当部長兼長岡支社長

最初のリレーセッションは、損保ジャパンと、地域の社会課題解決に向けたパートナーである自治体やNPOの関係者が登壇。初めに損保ジャパン執行役員の酒井香世子氏が、2018年度には国内保険会社における火災保険金の支払いが史上最高の1.6兆円に達するなど、気候変動により激甚化する自然災害の影響を大きく受けていることを説明した。

保険会社にとって身近な気候変動問題以外にも貧困や格差、少子高齢化などさまざまな課題について、解決するには自治体やNPOなどとのパートナーシップが重要だ。そうした観点から、同社は、子どもに防災意識を根付かせる「防災ジャパンダプロジェクト」や地域の生態系保護を行う「SAVE JAPANプロジェクト」など、NPOとの共創に長年取り組んでいる。さらに最近は、水災害に強い地域社会を目指したプラットフォームづくりに力を入れており、全国各地でその基盤となる動きが出ているという。

地域の防災力向上へ新潟・長岡市と連携協定

セッションでは具体事例としてまず、新潟県長岡市の取り組みを紹介。損保ジャパン長岡支店の土田達夫氏と、公益社団法人中越防災安全推進機構の諸橋和行氏にマイクのバトンが渡された。両者は昨年、防災力向上に関する連携協定を締結し、防災教育を中心に活動を共にしている。

土田氏によると、「地域住民と自治体やNPO、そして当社のような民間を交えた『三方よし』の精神」で防災減災活動に向き合う中で、志を同じくする中越防災安全機構と出合った。同機構は、2004年の中越地震をきっかけにつくられた組織で、現在は「持続可能な地域づくりの推進に向け、よりよく生きるための防災に取り組んでいる」(諸橋氏)という。

長岡を拠点に進む地域防災のネットワーク。土田氏は、「未来を担う子どもたちへの防災教育がより一層重要だと考える」、諸橋氏は「お互いの特長を生かしながら、さまざまな活動を展開して地域を守っていきたい」と抱負を述べた。

秋田県とは女性活躍推進、LGBTの理解促進を軸に

次に紹介されたのは、損保ジャパンと秋田県の間で昨年8月に締結された、女性活躍推進とLGBTの理解促進に重点を置く包括連携協定だ。秋田県は人口減少と高齢化が深刻で、女性管理職の比率は全国40位と遅れている。そこで、損保が事業活動を通じて培ってきたノウハウを秋田県と共有し、両者の緊密な相互連携と協働による活動を展開することで、持続可能な地域づくりに官民一体で取り組むことを目的としている。

セッションでは、協定締結の翌月に「秋田県SDGsパートナー登録制度」が制定され、1期2期で500件近い登録があるなど大きな反響を呼んでいることや、「秋田県多様性に満ちた社会づくり基本条例」や「あきたパートナーシップ宣誓証明制度」が施行されるなど同県でSDGs達成に向けた動きが一気に加速していることが報告された。

協定を通じた活動について、損保ジャパン秋田支店の中條美恵子氏は、「秋田県との連携がより広いパートナーシップを生み出し、レジリエンスが高まる好循環となっている」と手応えを強調。秋田県側を代表して登壇した、同県理事の陶山さなえ氏は「多様性を認め合う寛容な秋田をつくることが、持続可能な地域の成長につながる。どのような制度をつくっても正確に、強く発信することが重要であり、『秋田モデル』と呼ばれる日まで皆さまと共に頑張りたい」と決意を語った。

地産地消から「地産世消」へ 日本製紙の取り組むバイオマス素材

金子知生・日本製紙 バイオマスマテリアル事業推進本部 バイオマスマテリアル・コミュニケーションセンター センター長

木材に含まれている食物繊維の一種であるセルロースを1mmの百万分の1まで微細に砕いたセルロースナノファイバー(以下、CNF)が、いまさまざまな分野で注目されている。続くリレーセッションでは、日本製紙の金子知生氏が、そのCNFを食品づくりに応用し、地域と連携する事業についてプレゼンテーションした。

日本製紙は、木を植え育て、パルプをつくり、そこから紙をつくることが本業だが、IT化の進展による印刷用紙の需要減少などを受け、現在ではアグリカルチャー、エネルギーなどの分野や新素材開発に力を入れ、『木を余すことなく使う総合バイオマス企業』に変身しようとしている。

CNFは食品添加物としての期待も大きく、同社は「セレンピア」という商品名の食品向けCNFを、島根県の工場で生産している。金子氏によると、セレンピアは、保水性や保形性、気泡安定性などに優れ、食品に用いると食感や食味が改善する。そうした特長は生産性向上や賞味・消費期限の延長、食品の廃棄ロス削減などを可能にするなど、SDGsにもつながるといい、“どらやき”の賞味期限を2日間延長したり、これまで膨らみにくく製造が困難だった“おから配合パン”の製品化に成功した事例が紹介された。

同社はこの食品向けCNFを活用した商品開発を全国47都道府県に提案している最中で、既に連携が始まっている、一般財団法人四国産業・技術振興センター(STEP)と熊本県の公益財団法人くまもと産業支援財団からは「四国発のSDGs型食品として世界に発信していきたい」「熊本の伝統的な菓子メーカーも興味を持っている。地域性や持続可能性など注目のキーワードにマッチした取り組みだ」といったメッセージが会場に届いた。

金子氏は、「地産地消から、世界への広がりをもつ『地産世消』の食品づくりを目指したい」と力を込め、強く連携を呼びかけて話を終えた。

自然や文化を守りながら持続可能なツーリズムを 国立公園の可能性広がる

大塚氏、岡野氏、山下氏

岡野隆宏・環境省 自然環境局 国立公園課 国立公園利用推進室 室長
山下真輝・日本アドベンチャーツーリズム協議会 理事
大塚大輔・JTB ツーリズム事業本部 事業推進部 地域交流チーム 地域交流担当MGR

この日、3つ目のリレーセッションは、その土地の自然や文化を守りながら観光客を呼び込む持続可能な旅行として注目を集める“アドベンチャーツーリズム”をテーマに、その効力を、とりわけ、自然保護法に基づいた国立公園を舞台にどう展開していくかについて、JTBと環境省、一般社団法人の担当者が意見を交わした。

初めにJTBの大塚大輔氏が、同社の取り組む地域交流事業について、「“地域のタカラを日本のチカラに”を合言葉にデジタルとヒューマンバリューをつなぎ合わせ、新たなイノベーションを起こすものだ」と説明。食農観光や観光ICT、カーボンオフセットの仕組みを活用した旅行など、社会課題の解決に向けたテーマに意欲的に取り組んでおり、海外では「自然とのふれあいとフィジカルなアクティビティ、文化交流の3要素のうち2つ以上を主目的とする旅行を指す」アドベンチャーツーリズムもその一つの位置づけだという。

すべての体験に意味を持たせることが重要に

日本アドベンチャーツーリズム協議会の山下真輝氏は「コロナ禍で世界的に自然資源が注目され、世界の国立公園に多くの人が出かけるようになった」と指摘。裏付けとして世界経済フォーラムのホームページにも昨年、「国立公園のような保護された野外エリアを訪れることとメンタルヘルスやウェルビーイングの向上には関連性がある」とする記事が掲載されたことを挙げた。

山下氏によると、アドベンチャーツーリズムとは、従来の旅行産業の概念にとどまらず、「その土地の自然環境や文化を保護し、持続可能な地域社会をつくるという視点」で企画された旅行商品をいう。単にトレッキングやカヤックなどのアクティビティを盛り込めばよいというものではなく、「そこでなぜカヤックを漕ぎ、歩くのか」というようにすべての体験に意味を持たせることが付加価値として重要になる。そうした観点からもその体験のフィールドとして今、国立公園の持つ可能性が注目されているのだ。

日本のアドベンチャーツーリズムの先進事例としては、亜寒帯気候とカルデラに育まれたアイヌの文化を伝える阿寒摩周国立公園を「生きるとは、自然と向き合うとはどういうことかに気付かされる。自然ガイドが特別な旅を演出してくれる」と紹介した。

「旅行者が楽しく、事業者が潤い、地域が活性化する三方良しは当たり前のこと、そこに自然環境を守る四方良しという視点がこれからは重要だ」(山下氏)

始まった「保護と利用の好循環」の仕組みづくり

その国立公園を整備する立場からは、環境省の岡野隆宏氏が登壇し、全国34カ所にある日本の国立公園が自然保護法に基づいて保護され、自然を守るだけでなく国民の健康や休養、教育的な効果に役立てることを目的としていることを説明。つまり、「保護と利用がセットになっている」のが大きな特徴であり、コロナ後の観光復興に向け、この保護と利用を好循環させるための取り組みを自治体や民間事業者と連携して進めているという。

最大の魅力は自然そのものだが地域資源としてその価値を向上させ、産業を活性化し、地域の持続可能な発展につなげるためにも、展望台やビジネスセンターの再整備や案内機能の強化など、国立公園の「磨き上げ」に着手。各公園のブランド力を高めて国内外の誘客を促進し、利用者数だけでなく滞在時間を延ばし、自然を満喫できる上質なツーリズムの実現を目指す。

キーワードは「保護と利用の好循環」。例えば朝日に照らされる紅葉の景色が美しい十和田八幡平の鷺沼では、昨年から日の出時間帯の完全予約制と協力金制度を運用し、「限られた人数で静かな時間を満喫できる」と高評価を得ているだけでなく、オーバーユースによって植生の破壊が懸念されていた湿地環境の保全にもつながっている。日本アルプスでは、高山帯の希少種であるライチョウの観察ルールハンドブックを作成し、山岳ガイドによるモニターツアーを行うなど、唯一無二の感動を提供する自然体験コンテンツを充実させるとともに、協力金により自然環境や野生動物をまもる仕組みづくりが始まっていることが報告された。

「アドベンチャートラベルを求めている人は、今、私たちが国立公園でお迎えしたいと考えている人の最上位にある」。観光復興を見据え、岡野氏は、国立公園が持続可能なトラベルのフィールドとして大きく飛躍することを示唆してセッションを終えた。

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