米露のプロパガンダに踊らされるな!|山岡鉄秀 主流メディアで流される情報がいかに恣意的に操作されているか、骨身にしみて知っているはずだ。それを思い知らされたのが1991年の第1次湾岸戦争である。油にまみれた水鳥、そして、泣きながらイラク人兵士の蛮行を議会で証言したクウェート人少女。それらは戦争広告代理店によって仕組まれたフェイクニュースだった――。親ウクライナか、親ロシアか、の二元論で喧嘩している場合ではない!

虚偽の情報が飛び交う情報戦の実態

地上波、ネットを問わず、主流メディアでは連日ウクライナの善戦とロシアの劣勢が伝えられ、ロシアの敗北は確実なようである。実際、プーチンにも誤算があったことは事実だろう。予想に反してゼレンスキーは逃亡せず、キーウやハルキウは直ぐに陥落しなかった。

したがって、政権崩壊は起きなかった。プーチンにはウクライナとベラルーシを内包する古代帝国再建の悲願があったことは間違いない。それは帝国主義の謗りを受けるだろう。

西側主流派メディアによれば、ロシア軍撤退後のキーウで多数の市民の遺体が発見され、郊外のブチャではロシア軍による市民の虐殺があったとされ、ロシアとプーチンへの非難がますます高まっている。これらの情報の真偽についての議論もあるが、著名人も含めて多くの人が西側主流メディアの内容をそのまま信じ、疑問を呈する人は陰謀論者のレッテルを貼られる傾向がある。

無残に破壊された都市と逃げ惑うウクライナ国民の姿に胸が痛まない人はいない。プーチン、つまりはロシアの行為は完全な侵略行為であり、国際法違反であることに疑いの余地はない。

しかし、現代の戦争がハイブリッド戦であり、情報戦もまた戦争の一環であることは指摘するまでもない。明らかに双方から相手を貶める目的の虚偽の情報が飛び交っている。

ロシアのプロパガンダには直ぐに嘘とばれる粗雑なものが多いのに対し、ウクライナ側のプロパガンダはより洗練されていて、明らかに欧米情報機関や広告代理店の支援を受けていることが伺われる。

戦争広告代理店によって仕組まれたフェイクニュース

「地獄からのラップトップ」は陰謀論ではなかった

我々は主流メディアで流される情報がいかに恣意的に操作されているか、骨身にしみて知っているはずだ。それを思い知らされたのが1991年の第1次湾岸戦争である。

油にまみれた水鳥、そして、泣きながらイラク人兵士の蛮行を議会で証言したクウェート人少女。それらが戦争広告代理店によって仕組まれたフェイクニュースだったとは夢にも思わず、世界中が信じて怒りに震えた。2003年の第2次湾岸戦争では、サダム・フセインが大量破壊兵器を隠し持っていることが安保理決議違反とされたが、結局まったくの虚偽だった。

2020年の米大統領選挙に関する報道も酷かった。不正の可能性を指摘すれば陰謀論者と罵られたが、粘り強い調査の結果、1年以上経って、何が起こったか、かなり明らかになってきた。主流メディアはこぞってハンター・バイデンのいわゆる「地獄からのラップトップ」を陰謀論と断じていたが、いまになってニューヨークタイムズもワシントンポストも本物だったことを認めている。

ことほど左様に、主流メディアの報道は鵜呑みにできないのが常識だと言っても過言ではない。彼らは自由な立場から発信しているのではなく、一定の方向性を持つイデオロギーに支配されている。上位の株主がほとんど一緒であることからもそれがわかる。

さらに地上波のみならず、ネットのプラットフォームも言論統制のツールになってしまっている。だから、個人的心情は横に置いて、どちらサイドから流される情報も鵜呑みにはせず、真実が判明するにはしばらく時間がかかると思っていなければならないのである。

これは、ロシアのような独裁性の強い国家発の情報であろうと、米国など西側発の情報であろうと、同じことである。

西側メディアの情報だけを鵜呑みにすると…

日本人の多くは、狂ったプーチンが無謀な戦争を起こし、国際社会で孤立した挙句、国内でも権力基盤を失って自滅すると信じているようだが、そうならない場合も想定する冷静さを失ってはならない。

たとえば、前述のように、キーウとハルキウを攻め落とせなかったのは誤算に見える。包囲すればゼレンスキーが亡命して政権が崩壊するという目論見が外れたのは事実かもしれない。そして、プーチンには大ロシア帝国回帰の野望があったことも間違いない。

プーチンの論文を読めば、プーチンの野望は、軍事的合理性よりも、歴史観、宗教観に基づくことがわかる。しかし、2014年からウクライナ軍を立て直すNATO担当者だったジャック・ボー元スイス参謀本部大佐が指摘するように、ロシアは最初から危険な市街戦をするつもりはなく、南南東のウクライナ軍を破壊するという主目的を果たすためにウクライナ軍を分断し、背後から攻撃させないための陽動作戦であったという見方もある。

さらに、ロシアが戦力を分散して侵攻したことが軍事的にあり得ない愚行であるとほとんどすべての専門家が口を揃えるが、分散奇襲攻撃は昔からロシアが得意とする戦法であるという。

ジャック・ボー氏は3月25日の段階で南南東に集結していたウクライナ軍は3方から侵入したロシア軍に作戦通りに包囲され、いわゆる「クラマトルスクの大窯」のなかで少しずつ無力化されていると指摘するが、西側メディアでは絶対に報道されない。

つまり、ジャック・ボー氏が指摘するのは、ロシアの軍事思想は西側のそれとは根本的に異なるのにもかかわらず、西側の専門家は西側の常識だけで状況を判断し、西側メディアがそれを伝えるので、正しい状況を把握することは非常に困難なうえ、視聴者をミスリードするというのだ。

実際、ジャック・ポー氏の論考をグーグルで検索しても見つけられず、DuckDuckGoで検索したら出てきた。

「ロシア擁護派」というレッテル

フランスの歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は、ロシアについて完全に予想が外れたことが2つあると指摘している。ひとつは、軍事的に想像していたほど強くなく、大きな損害を出したこと。もうひとつは、逆に脆弱だと思われていた経済が想定外に強く、一旦暴落したルーブルも制裁前のレベルに回復し、国内情勢も落ち着いていることだ。

制裁による需給ひっ迫でエネルギー価格が上昇を続ける一方で、ドイツを始めとするEU諸国はロシアからの天然ガス輸入を続けているし、中国やインドが輸入量を拡大しているから、ロシアの収入が大きく落ち込むことはなかった。逆に制裁に回った国々が急激なインフレに見舞われている。

ロシアの軍事的な弱さとしては、多くの指揮官の戦死が象徴的に伝えられるが、騎馬隊を本流とするロシアの機甲部隊にとって指揮官は師団長であろうと、たとえ戦死しても先頭を走るのが誇りなので、指揮官の戦死は珍しくないとの見方がある。

また、旗艦モスクワの撃沈がロシア軍の大苦戦を印象付けたが、キーウやハルキウとは対照的に、ロシア軍は南東部のマリウポリは明らかに占領する前提で猛攻撃をかけ、すでに占領。東部のドンバスの支配地域を拡大し、南部のクリミアの北部を水源地として確保し、その2つを繋ぐ黒海沿岸部分とマリウポリを占領すれば、ロシアは戦略的目標の完遂と勝利を宣言できるだろう。

ウクライナは大きいので、これでもヨーロッパの一国ぐらいの面積に相当してしまう。ロシアはこれを新たな緩衝地帯とし、ノヴォロシア(新ロシア)と呼ぶことになるかもしれない。

そして、ゼレンスキー政権とNATO不加入などを条件に停戦合意する。ゼレンスキーは逃亡せずに奮戦したヒーローとして称賛され、政権を維持するか、あるいはイスラエルなどの外国に亡命し、ウクライナの西側ではポーランドの影響が強まるかもしれない。

ロシアからヨーロッパへの天然ガス輸出は継続し、徐々に拡大して元の水準に戻る。ノルドストリーム2も使用開始される。アメリカの軍需産業は莫大な利益をあげる。こういうシナリオも想定しておかねばならない。

しかし、このように複眼的な視点を持って考察し、意見を述べるとロシア擁護派だとレッテルを貼られる。ロシアをひたすら敵視し、好戦的な言動を保持しないと非国民呼ばわりされてしまうのがいまの日本だ。

オーストラリアから衝撃的なニュース

では日本は今回のヨーロッパの戦争から何を得ただろうか。

今後、中国とロシアの連携は確実に強まるだろう。ロシアの孤立と苦戦を見た中国が、距離を置くためにロシアの外交上の格付けを下げたという指摘もあるが、もしロシアが戦略的勝利を成し遂げれば、中国が優位に立ちながらも関係が強化されていくだろう。

イギリスのタイムズが、ロシアのウクライナ侵攻直前、中国からウクライナへのサイバー攻撃が行われたとする情報機関の文章を入手したと報道した。攻撃は2月20日の北京冬季五輪閉幕前に開始され、ロシアがウクライナ侵攻を開始した2月24日の前日である23日にピークに達したとのこと。

攻撃対象はウクライナの国防省関連機関、国境警備当局、銀行、鉄道、核関連機関で、ロシアが中国に侵攻計画を伝え、中国が支援を約束していたことが伺える。北京で会ったプーチンと習近平は間違いなくこの話をしていただろう。習近平はプーチンのウクライナ侵攻計画を聞いて、支援を約束しながら、北京冬季五輪閉幕を待ってくれるように頼んだのだろう。

一方で中国は、得意のサイレント・インベージョンを着実に進めている。

オーストラリアから衝撃的なニュースが届いた。

中国がソロモン諸島と安保協定を結んでしまったのである。協定が準備されている事実は、草案がネット上に流失したことで発覚した。草案には、中国艦艇の寄港の許可、物資補給、治安維持目的での中国の武装警察や軍の派遣を可能にする内容が含まれているという。

第2次大戦中の激戦地、ガダルカナル島を含むソロモン諸島はオーストラリアのすぐ北に位置し、この協定の実現はオーストラリアとニュージーランドの国防に深刻な影響を与える。
なぜこんなことが起きてしまったのか。

中露の分断を図るのが日本の戦略目標

南太平洋の国々は弱小だが、政治的な汚職も蔓延している。現地からの情報によると、ソロモン諸島の首相は弾劾されて失職寸前だったが、中国から賄賂を貰った議員たちが首相の支援に回り、弾劾を免れた経緯があったそうである。その見返りとして安保協定を結んだというわけだ。

これは中国の常とう手段であり、かつてフィリピンでも似たようなことがあった。1991年、フィリピンの上院で、米軍のスービック海軍基地の用地のリースを延長するかどうかの評決が行われ、米軍から10年間延長の要望があったにもかかわらず、投票の結果、リースを延長しないことになった。後でわかったのは、中国共産党が組織をフィリピンに送り込み、上院議員を買収していたということである。

リース契約が終わり、米軍が撤退すると、待ってましたと言わんばかりに中国はフィリピンが領有を主張していたミスチーフ礁を占領して軍事施設を建設し、北部ルソン島沖のスカボロー礁にも公船を常駐させて実効支配を進めた。フィリピンは慌てて米軍との協力強化を求めたが、後の祭りだ。

このように、汚職や腐敗があるところを狙って中国は干渉工作を仕掛けてくる。世界の目がウクライナとロシアの戦争に気を取られている間にも、それは着々と進行して行く。そして、今後は中国とロシアが協力し合うケースが増えることが予想される。

ウクライナに感情移入してロシアを敵視する日本の政治家は忘れているのかもしれないが、日本は地政学的にロシアと中国に挟撃される位置にあり、さらに、中露の支援を受ける北朝鮮まで隣にある。中国とロシア、そして北朝鮮が日本を共通の敵として共同作戦を実行したらどうなるのか。

中国が台湾・尖閣を攻撃するとき、ロシアが北方から何らかの軍事行動を起こし、北朝鮮がミサイルを撃ち込んできたら、自衛隊の対応は分散されてしまい、台湾の応援も尖閣の防衛もできなくなってしまうかもしれない。三正面作戦という、軍事的には最悪の状況となる。つまり、たとえプーチンが嫌悪の対象であったとしても、常に中露の分断を図るのが日本の戦略目標でなければならない。

余計な挑発よりも、防衛力強化を急げ!

では、日本の防衛戦略であるクアッドは機能するだろうか。

まず、アメリカは核保有国とは戦わないことが今回明確になった。台湾が攻撃されれば傍観はできないかもしれないが、尖閣を率先して防衛することはあり得ない。オーストラリアは前述のように、ソロモン諸島が中国の基地化したら、軍事的能力が大幅に制限されることになる。インドは独自路線を歩んでいる。反中だが、今回ロシア制裁には加わらなかった。ロシアから防衛装備の供給を受けているからだ。また、インドはアメリカに対しても不信感を持っている。

また、オーストラリアでは保守的なモリソン政権が破れ、リベラルで親中的な労働党政権が誕生してしまった。モリソン政権下でのパンデミック対応に批判が集まったこともあるが、中国系移民が増加し、モリソン政権の対中強硬策を嫌って労働党に票が流れた選挙区も複数見受けられた。自国に対して敵対的な国から大量に移民を受け入れることの危険と矛盾が露呈した。

つまり、日本はウクライナに同情し、ロシアを犯罪者呼ばわりしながら、気が付けば「不良に囲まれたのび太」状態になっているのである。ドラえもんはいないし、タケコプターで逃げることもできない。ただ敵を増やしただけで終わる可能性がある。

だから、ロシア苦戦のメディア報道を見て安堵したり喜んだりしている場合ではまったくないのだ。ウクライナへの人道支援はしっかりすべきだし、西側の一員として、ロシアの軍事行動を非難し、早期停戦を呼び掛けることも必要だ。

しかし、アメリカの言いなりになって、自らの脆弱性を省みずに、こちらから先にロシアの外交官を追放するような敵対行為を取るのは無駄な報復合戦を招くだけで、日本の安全保障の向上に1ミリも貢献しない。こちらから余計な挑発はせずに、大急ぎで自らの防衛力強化に務めなければならない局面なのだ。

ランボーの異名を持つ新任のラーム・エマニュエル米国大使に煽られたのか、自衛隊の備品をウクライナに送ったのも痛恨の失敗だ。陸上自衛隊の正式な迷彩服を着て誰が戦うと思っているのか。

親ウクライナか、親ロシアかという悪しき二元論

先日、アゾフ連隊の司令官と思しきウクライナ軍の男が自撮り動画を2本投稿した。1本は、日本の公安調査庁が、アゾフ連隊が白人至上主義のネオナチ集団だという記述を2021年の国際テロハンドブックから取り下げたことを自慢し、諸外国にも取り下げを求めるメッセージ。

もうひとつは、今回の戦争に関する神話を否定すると称し、ロシア軍はロシアでもスラブでもなく、黒い悪魔(黒人)と黄色い羊(東洋人)の混成であり、この戦争は邪悪な多国籍アジア人部隊との戦争だと吐き捨てるもの。

彼らは未だに正式にナチ武装親衛隊のマーク(ヴォルフスアンゲル)と黒い太陽を正式に使用する白人至上主義者集団なのだ。そんなアジア人蔑視の連中が自衛隊の迷彩服に身を固めて戦うことは到底容認できない。ちなみに、この司令官の部隊はアゾフを名乗るが、正式な国家親衛隊のアゾフではないという指摘があったが、同じことだ。ウクライナで主に市街戦を戦っているのはアゾフ及びそれに類する過激な民兵集団なのだ。

もちろん、極右勢力はどの国にも存在する。しかし、正式にナチのシンボルを使う部隊が正規軍となり、創設者が政府の中枢に入っているのはウクライナぐらいなものだ。そういう国でありながら、いや、そういう国だから、昭和天皇をヒトラーやムッソリーニと並べて侮辱することに頓着ないのだ。アメリカやNATOは承知の上でそんなアゾフに武器を与え、軍事訓練を施してロシアにけしかけた。

無論、一般のウクライナ人はネオナチでもなく、被害者である。日本は感謝などされなくてよいから、人道支援は惜しまず行い、あとは自国のエネルギー供給源の確保、憲法改正、防衛力の強化に黙々と取り組むべきだ。

ウクライナは対ロシアの噛ませ犬として徹底的に利用された挙句に侵略された。日本も極東で中国に対する噛ませ犬として利用されかねない。同盟国アメリカには様々な人々がいる。戦争を忌避する人々もいれば、無理やり定期的に戦争を起こそうとする人々もいる。

アメリカが決して一枚岩ではないことを理解し、同盟を日本の国益に照らして機能させる努力をしながら、自国は自分たちで守り抜く決意を固めねばならない。こうしているうちにも北朝鮮はミサイルを乱射し、そのなかにはウクライナ製のエンジンを積んだものもあるのだ。

このままでは日本は極めて危険な状況に陥る。そのことに多くの日本人が気付く頃には、手遅れになっているかもしれない。親ウクライナか、親ロシアか、の二元論で喧嘩している場合ではない。メディアを鵜呑みにせず、日本人は頭を冷やして真剣に自らの心配をすべき時なのだ。

著者略歴

山岡鉄秀

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