苦い経験を糧に。冨林勇佑/平木玲次の若きふたりが駆るマッハ号が第3戦鈴鹿で2位を得る

 5月29日、三重県の鈴鹿サーキットで開催されたスーパーGT第3戦鈴鹿。GT300クラスでは、冨林勇佑/平木玲次組マッハ車検 エアバスター MC86マッハ号が、タイヤ無交換作戦を見事完遂。2位に食い込み、嬉しい初表情台を獲得した。もともとTEAM MACHが最も得意とし、タイヤ無交換作戦でこれまでも好結果を残しているのが鈴鹿だが、その作戦実行はハードルも高い。ふたりの若手が、これまでの経験を糧に、完璧に作戦をこなしての2位となった。

 TEAM MACHは2022年、継続参戦となる平木玲次のパートナーに、ルーキーの冨林勇佑を起用した。2020〜2021年にはスーパー耐久ST-3クラスでチャンピオンを獲得した冨林だが、それよりもその名はeスポーツの世界で知られている。2016年にはグランツーリスモ世界王者となっており、バーチャルの王者がリアルでも勝てるのか……ということを証明し続けている。

 そんな冨林にとっても、スーパーGT参戦は目標のひとつでもあったが、TEAM MACHから参戦した開幕2戦は苦戦続き。第1戦岡山では、冨林がドライブした予選Q1でクラッシュ。さらに第2戦でもQ1に臨んだものの、走路外走行でベストタイム抹消。ルーキーの“洗礼”を浴びていた。

 しかし今回はしっかりとQ1と突破を果たすと、Q2で平木が6番手につけてみせた。そして迎えた決勝では、冨林が序盤からしっかりと6番手を守っていく。軽量なマザーシャシーでのタイヤ無交換作戦はこれまでも数多く行われている作戦だが、後半に向けてタイヤを守ることと、ある程度まで順位を守りながら、ペース良く走ることを両立する繊細なドライブを続けなければならない。

「今回は路面温度が50度を超えていたので、未知な部分も大きかったのですが、スーパー耐久でもふだんスタートドライバーをやらせてもらっていて、僕たちのクルマ(レクサスRC350)のタイヤの攻撃性が高いので、マネージメントという点では少し自信がありました」と冨林は高いペースを保ちながら周回を重ねた。

 また冨林らしいのが、バーチャルの経験が活かされたことだ。「eスポーツでも意外とタイヤマネージメントが重要なんです」という。

「そういった経験もありましたが、唯一心配していたのが、タイヤの内圧が低い状態でのスタートだったことです。集団に飲み込まれることも心配していましたが、思ったより良い位置取りもできて、イメージどおりのマネージメントができました」

マッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号(平木玲次)とリアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R(ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)の2番手争い

■2021年の悔しい思い。「二度とああいうレースはしたくなかった」

 冨林は16周を走りピットイン。平木に交代する。作戦は成功し順位も上がるが、トップを走っていたStudie BMW M4、さらに異なる作戦を採ってきた埼玉トヨペットGB GR Supra GTには先行を許すが、しっかりと3位を守っていた。

「プランどおりで、うまくタスキを渡してくれました。タイヤ無交換なのでレース後半は難しい戦いになるとは思いましたが、すぐ前に7号車が出てきて、競り合ったりもしましたが、前に出るまではいかなくて。また52号車にも前にいかれてしまったのですが、あちらもタイヤが厳しそうで、ペースは同じくらいか、こちらの方が良いか……という状況でした」と後半を振り返ったのは平木だ。

 終盤、HACHI-ICHI GR Supra GTとRed Bull MOTUL MUGEN NSX-GTのクラッシュによるセーフティカーランが明けたとき、埼玉トヨペットGB GR Supra GTがコースオフを喫したことで「楽に順位が上げられた」マッハ車検 エアバスター MC86マッハ号だが、今度はジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ駆るリアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R、小暮卓史駆るweibo Primez Lamborghini GT3が近づいてくる。

 タイヤマネージメントを続けながらの防戦となった平木だが、「ブレーキングなどはあちらの方が有利で、逆にセクター1などはこちらが速かったです。要所要所を抑えるようにしていきました」と冷静に対処し2位をキープ。嬉しい初表情台を掴んだ。

 特に平木にとっては、2021年の鈴鹿では同様の作戦で表彰台圏内を争いながらも、暑さなどから来るスピンなどもあり表彰台は得られなかった。「昨年、ああいったかたちで最後に抜かれてしまって……。二度とああいうレースはしたくなかったですし、今日もすごく苦しいレースでしたが、チームの皆さんが頑張って良いクルマを作ってくれましたし、絶対に順位を落として帰るつもりはなかった」と平木は昨年の悔しさを見事結果で晴らしてみせた。

2022スーパーGT第3戦鈴鹿 GT300表彰台

■次に狙うはもちろん優勝

「ベテランドライバーさんをしっかり抑えることができたのは自分のレース経験でも糧になりました。でも“もうひとつ上”があるので、次の鈴鹿も距離は長いですが、その鈴鹿、そして次の富士も相性は悪くないので、狙っていきたいですね」と平木は表彰台を喜ぶとともに、さらに優勝を狙いたいと語る。スーパー耐久、スーパーフォーミュラ・ライツと活動の場を広げ、ドライビングの幅も広がっている。

 そして3戦目での表彰台となった冨林も「嬉しさ5割、ホッとしているのが3割、悔しさが2割……という感じです。優勝はできなかったというところもありますしね」と振り返った。

「開幕戦は僕のミスで予選ができなかったり、前回も良いタイムだったのが走路外走行だったりと、チームにご迷惑をおかけしていたので……。でも今回はQ1を良いタイムで通れましたし、応援していただいている皆さん、スポンサーさん、チームに恩返しをできたと思います。そういう意味でホッとしていますね」

「素晴らしいチームメイトとチーム、ヨコハマタイヤさんもすごく調子が良いので、どうにか今年もう一度表彰台、そして優勝できるように頑張ります」

 異なるバックグラウンドをもちながら、難しいマザーシャシーで作戦を完遂してみせたふたり。“マッハ号”がJGTCに登場してから今年で20年。さらなる飛躍の舞台はどのレースだろうか。

© 株式会社三栄