眉山の崩落シミュレーション 溶岩ドーム対策を参考に前進 未来へ 災害に備える島原半島・上

小規模な崩落が発生し、土煙を上げる眉山=島原市(4月18日撮影)

 「眉山が崩れた」-。
 4月18日朝、長崎県島原市内に衝撃が走った。市街地の西側にそびえる眉山の東側斜面の表層が土煙を上げながら崩れ落ちた。長さ約30メートル、幅約20メートル。市街地への影響はなかったが、2カ月近くたった今も爪痕が残る。
 眉山は七面山(標高819メートル)と天狗山(同712メートル)の二つの峰があり、数千年前、雲仙岳の火山活動で流出した溶岩が固まってできた。国内最大の火山災害といわれる1792(寛政4)年の「島原大変」では、山体の6分の1が崩れ、土砂崩れや津波で1万5千人が犠牲となった。
 雲仙・普賢岳と市街地の中央に位置するため、平成の噴火災害では火砕流の盾となり、市民の生命と財産を守った。火成岩で崩れやすい性質を持つゆえ、大雨などによる土砂移動や表面剥離がたびたび発生。「眉山は大丈夫か」-。市民が口々にする言葉は、災害の恐怖と常に隣り合わせの状況を物語る。

■ ソフトで遅れ

 確認できる目立った崩落は2016年以来、約6年ぶり。これまで普賢岳噴火災害や溶岩ドーム対策に重点が置かれてきたため、眉山の崩落を想定したシミュレーションがなく、地震の規模や雨量などに応じた危険度、危険範囲が示されていない点が長年、課題とされていた。「基準や数値がない現状では、避難計画の策定など防災対策を作ることができない。『危険だから全員逃げろ』はあまりにも乱暴」。市担当者は、崩落を想定した住民避難方法などソフト対策の遅れを危惧する。
 これに対し、ハード整備は一定進展。国が1916年、眉山直轄治山事業所を設置して以来、国有林内の各渓流に治山ダム約100基や導流堤約60基などを整備。崩落による被害を最小限にとどめる工事が続く。
 一方、普賢岳山頂に不安定に堆積する溶岩ドームは、直下型地震などによる大規模崩壊の可能性が残る。国は崩壊被害が及ぼす影響の範囲を試算したシミュレーションを策定。流出土量に応じた5段階の想定があり、規模に合わせた避難計画もある。

■ 危険度を把握

 5月、普賢岳の溶岩ドーム対策で培った知見を参考にした眉山の災害対策が一歩前進した。市は崩落を想定したシミュレーション策定を林野庁に要請。同庁長崎森林管理署は今後、有識者から策定に必要な調査項目などの提案を受ける方針。吉田幸一総括治山技術官は「土砂量などの把握は可能。前向きに進めていきたい」と述べ、島原市市民部の吉田信人部長は「震度や雨量などに応じた危険度が把握できれば、的確な避難指示が出せる」と期待する。
 「眉山は非常に不安定な山。崩落は予測や予知が難しく、今後も対策が重要」。九州大地震火山観測研究センター(同市)の松島健教授はあらためて警鐘を鳴らす。
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 43人が犠牲になった1991年の大火砕流惨事から6月3日で31年。溶岩ドームや眉山の崩壊などの懸念が残り続ける島原。防災への取り組み、未来への展望を考える。


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