力蔵の力量で行きそうなJ1。ポゼッションを貫くアルビレックス新潟が熱い

まもなく前半戦が終了するJ2で、快調に勝ち点を積み重ねているチームがある。第19節を終えて2位と好調のアルビレックス新潟だ。

2020年シーズンから2年に渡りチームを率いたアルベル・プッチ・オルトネダ氏がFC東京の監督へ就任し、コーチから昇格した松橋力蔵氏が後を継いだ今シーズン。

開幕から3試合連続ドローと苦しんだが、第5節・ヴァンフォーレ甲府戦で初勝利を挙げると、その後は安定して勝ち点をゲット。第8節・ロアッソ熊本戦からは8戦負けなし(6勝2分)を記録するなど、勢いに乗った。

写真は2020シーズンのもの

今回の当コラムでは、昇格戦線をリード中の新潟にスポットライトを当て、攻守のコンセプトやチームを支えるキーマン、そして新監督の巧みなマネジメントに迫っていきたい。

今季の基本システム

まずは、直近リーグ戦5試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神は森保ジャパンへの選出経験もある小島亨介で、最終ラインは右からボランチにも対応する藤原奏哉、組み立てでも貢献する舞行龍ジェームズ、ムードメーカーの千葉和彦、キャプテンとしてチームをまとめる堀米悠斗の4人。

ダブルボランチは攻守を繋ぐリンクマンの高宇洋、サイドでも機能する星雄次、正確なパスでリズムを作る島田譲らがポジションを争う。

2列目は右サイドがU-21日本代表の三戸舜介、左サイドは注目の新星である小見洋太、トップ下は技巧派の伊藤涼太郎が主に起用されているが、ほかにも新潟が誇る至宝の本間至恩、得点源のひとりである高木善朗や松田詠太郎、イッペイ・シノヅカら多士済々のタレントが揃い、競争はかなり熾烈だ。

1トップはエースの谷口海斗のほか、高い決定率を誇る鈴木孝司、抜け出しを武器とする矢村健、ベガルタ仙台でもプレーしていたアレクサンドレ・ゲデスら実力者が顔を揃え、こちらの争いも激しい。

バトンを受け継いだ新監督の手腕が光る

ここまで2位と好調をキープする大きな要因が、今季より指揮を執る松橋力蔵監督の存在だ。

コーチから昇格する形で、前任のアルベル氏からバトンを受け継いだ新指揮官は、前任者が築いたスタイルを日々アップデートさせながら、攻守に完成度の高いチームを作り上げている。

(就任会見での松橋力蔵監督)

攻守のコンセプトは、アルベル時代から不変だ。攻撃時はセンターバックとボランチを中心とした丁寧なビルドアップから流麗なパスワークで崩していく。

その特長がいかんなく発揮されたのが、第17節・横浜FC戦での2点目のシーン。

敵陣にて細かなパス交換とダイレクトプレーで相手守備陣を翻弄すると、最後はペナルティエリア内に侵入した小見が右足で冷静にゴールへ流し込んだ(動画は1:36~)。

選手間の距離が絶妙だったこの崩しはまさに理想とする形で、組織的な攻めはリーグ屈指の破壊力を誇る。

守備では、ボールロスト後に積極的なプレスでボールを奪い取り、再び攻撃に繋げる形が基本的な約束事となっている。この“即時回収”が難しい場合は、コンパクトなブロックを構築し、粘り強いディフェンスで耐え忍ぶ。

イレブン全員が守備のタスクを怠ることなく、集中力の高いハードワークが徹底されており、ここまでの16失点はリーグ2位タイの数字。ポゼッションに目が行きがちだが、失点の少なさも好成績に繋がっている。

戦術を体現するキーマンたち

最終ラインからのビルドアップを基調とするチームに欠かせないのが、舞行龍&千葉のベテランCBコンビだ。

ともに足下の技術に優れ、鋭い縦パスでパスワークを加速させるのに加え、機を見たロングフィードで攻撃にアクセントをつける役割も担う。

両名ともJリーグでの経験が豊富で、精神的支柱としても頼りになる。特に明るい性格で知られる千葉は盛り上げ役としても存在感を発揮しており、先日J通算400試合出場を達成した背番号35はピッチ内外でチームを支えている。

また、タレント揃いの2列目もバリエーション豊かな攻撃に不可欠だ。誰がポジションを奪ってもおかしくないほど実力は拮抗しているが、その中でも右サイドハーフまたはトップ下で起用されている三戸は要チェック。

6月1日からウズベキスタンで開催されるU-23アジアカップに選出された若武者は、果敢なドリブル突破とスピードに乗ったプレーを武器とする。第18節・水戸ホーリーホック戦では、自陣でのインターセプトからスピードあふれるドリブルで一気に抜け出し、勢いよくシュートを沈めてみせた(動画は3:05~)。

クラブのみならず、世代別代表での飛躍も楽しみな有望株だ。

また、主戦場とする左サイドで輝きを放つ本間も更なる成長に期待したい逸材である。かねてよりテクニックの高さ、そして観客を魅了する独特のドリブルで将来を嘱望されてきたが、今季はよりゴールに直結する働きを披露している。

ここまでリーグ戦16試合で4得点を記録しており、キャリアハイである7得点(2020シーズンに記録)を超えてほしいところだ。

このままの勢いをキープできればJ2優勝も

注目の上位対決となった第19節のモンテディオ山形戦を制して、見事3試合連続で3-0の勝利を収めた新潟。文句なしの強さを見せており、このままの勢いをキープできれば、J1昇格はもちろん、J2優勝の可能性も十分だ。

とはいえ、群雄割拠のJ2。昇格争いはここから激しさを増しそうだが、松橋監督のマネジメントを見る限り、最後まで昇格争いに絡むと予想する。ターンオーバーが上手く機能しており、後半戦に向けて大きなプラス材料となっているからだ。

タレント揃いの2列目が出場機会を分け与えられているが、特に連戦が続く際は、各ポジションで選手を入れ替えながら上手く乗り切っている。

例えばセンターバックでは、田上大地と早川史哉がベテランである舞行龍&千葉の負担を軽減。更にボランチでは、星が存在感を高め、高卒ルーキーの吉田陣平が堂々としたプレーで確かな戦力になっている。

試合を重ねるごとに選手層は厚みを増しており、怪我人が出たり、夏場の戦いで疲弊したりした際にも問題なく対処できるだろう。

指揮官の采配に応えるように、選手たちが結果を残している点も見逃せない。第15節・東京ヴェルディ戦では、3点リードを追いつかれる嫌な展開で、途中出場の矢村が決勝点を奪ってみせた。

また、第19節・山形戦では、4試合ぶりにスタメン起用された松田と田上がゴールを決め、快勝劇に大きく貢献している。

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このように、”日替わりヒーロー”が今後も要所で出てくれば、長丁場のリーグ戦を戦い抜けるはず。確固たるコンセプトを掲げる指揮官と采配に応える選手たちがJ1昇格の切符を手に入れられるか、大いに注目したい。

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