【新・日本紀行】ドヤ街、飛田新池のあの西成に大中華街構想|羽田翔 大阪市の南西部に位置する西成区。宿泊費の安さから外国人バックパッカーが増え、かつては日雇い労働者向けの安宿”ドヤ”もWi-Fiが完備されるなど現代的なホテルへと変化。商店街はシャッターを下ろしている店が目立っていたが、一方で「カラオケ居酒屋」が急増するなど変化する西成を、「大中華街」にしようとする構想が進んでいた……。(初出:月刊『Hanada』2019年6月号。肩書などは当時のママです)

中華街構想が既成事実に

「年を越えて二月なかばだったかな。彼らが・新年会・をやるということでよせてもらった。そうしたら、新年会ではなく、再開発委員会の結成式だという。西成のね」

「彼ら」とは、大阪市西成区における「大阪中華街構想」を進める福建省出身、大阪華商会会長の林伝竜氏らだ。

話を聞いたのは、西成区商店会連盟の村井康夫会長である。

「(再開発委員会の名称は)中華街開発委員会とかなんとかいったかな。商店街(中華街構想地域に十ある)の何人かの会長さんには、地域の友好ということで案内状を出していたみたいだったね。

中国総領事(李天然大阪総領事)も来られてました。もう、大いなるご挨拶をなさいましたよ。約十分程度、中国語で、十枚程度あったかね、ちゃんと原稿用紙に書いてあった。

一応、翻訳したものをスライドで流していたけれど、遠いんで見えなかったけどな(笑)」

商店街の会長などに、事前の根回しなどはなかったという。

「中華街構想と言うけど、これは地名変更みたいな話やからね。一般的に考えて地名変えますよってなったら、相当な話し合いをしますからね。

なのに、その時点で(中華街構想の)パンフレットもできていて……正直、そこまで(計画が)進んでいるとはまったく思ってなかった。

彼らのニュアンスとして、活性化になるんだからいいではないか、ということなんだよね。ただ、いまどきイオンみたいな大型店が出店しても成功するかどうかわからない時代でね。そんな日本の状況が全然頭にないよね」

大阪都構想の住民投票実施を巡り、またもやざわついてきた大阪府であるが、その陰で大阪という街の色を変えかねない、ひとつのプロジェクトがひっそりと、あるいは大々的に繰り広げられている。それが、大阪市西成区における「大阪中華街構想」だ。

筆者がこの”構想”を知ったきっかけは、2018年9月26日、朝日新聞デジタルの有料会員限定記事。タイトルは、「大阪・西成に中国マネー居酒屋街 カラオケ1曲100円」というものだった。

その内容をざっくり言えば、日本最大級のドヤ街・大阪西成のあいりん地区(釜ヶ崎)周辺で、2012年頃から中国人経営のカラオケ店が流行り始め、いまや商店街の半分を占めるほどにまでなった。喜ぶカラオケ店利用者がいる一方、その影響で地価などがあがり、街が急激に変化を遂げたことに困惑する地元住民もいる……というものだ。

構想は二年前から

林伝竜氏。

その記事のなかで、カラオケ店仕掛け人のひとりである、大阪華商会会長・林伝竜氏はこう話している。

「華商会を拠点に、力を合わせて本場の料理店や物産品店を出して西成に大きな中華街をつくりたい。街をにぎやかにして西成を変えたい」

後述するが、この記事が報じられた2018年9月の段階では、地元商店街のほとんどの人が、「中華街構想」なるものを認知していない。だが、それが12月に府議会で取り上げられ、2019年になるとテレビ・新聞などで「中華街構想」として大々的に報じられることになった。

地元が困惑するなか、あれよあれよという間に、中華街構想はまるで”既成事実”のように話が具体的になっていったわけだが、それはなぜなのか。

現段階での進捗状況などを当事者に聞くべく、中華街構想の中国側中心人物である林伝竜氏に会った。中国籍の林氏は、働き盛りの大手ゼネコンビジネスマン風だ。

「日本では横浜、神戸の南京町、それに長崎……中華街があります。でも、大阪には中華街がない。そんな話を以前から中国人の友人としていました。

僕は22年前にこの大阪西成にきて、それからずっと住んでいます。十数年前、居酒屋を始めたのが飲食(店経営)の始まり。そしていまから2、3年前くらいかな、空き物件を買ってカラオケ店に貸し始めた。正直、その頃までは中華街のことは考えたことはなかった。なんとなく考え始めたのは、一昨年(2017年)の6月くらいからです。『この街をもっといい街にするにはどうすればいいか』と思って。

そんなこともあって、一昨年末に一般社団法人大阪華商会を作りました。作ったのは福建出身の七人の仲間。ほとんど西成の人です。貿易商、不動産業、飲食業、建設業とばらばらですが」

林氏が言うように、横浜、神戸、それに長崎には古くから中華街があり、また観光名所として地域の活性化にも大きく貢献している。しかし、それらは歴史的な経緯があってできた中華街だ。なぜ西成なのか?

「中華カラオケ店ができる前、商店街はいまよりシャッターが閉まっていた(空き店舗が多かった)。僕はいま約二十店舗ほどカラオケ店に貸していますが、それはみんなシャッターが閉まっていたところです。

いま、うちの物件を含めて中華カラオケ店は100~150店舗。そのうちの半分以上は中国人経営でしょう。たしかに、中華カラオケ店が増えたことで、騒音問題、ごみ問題があったことは事実です。それでも、商店街の人たちと話し合いをして努力していきたいと思ってます。

また、店がうるさいと言いますが、たとえうるさい店でも、なかったら(商店街は)静かなままじゃないですか? 何度も言ってますが、僕は二十年以上西成に住んで、この街を良くしたいと思っている。にぎやかに、活性化ですか? それを願ってます。中華街構想はその考えによるものなんです」

さらに、林氏はこう続ける。

「いまこの商店街はシャッターが閉まっている店が多いですが、街の立地条件はとてもいいです。まず駅が近い、地下鉄(御堂筋線・堺筋線)の動物園前駅があって、新今宮駅(南海・JR)がある。それに、道を一本越えたら新世界、ジャンジャン横丁、通天閣。あべのハルカスだって、歩いて十分もかかりませんよ。

それに、これから大阪万博もありますし、時期もいい。なんとか年内にでも、中華門のめどは立てたいのです」

シャッター商店街の理由

降って湧いたような中華街構想の「予定地」となった西成であるが、今回、林氏たちが中華街の範囲に考えている場所は、行政区分的に言うと山王・太子、天下茶屋北の一部を含む。そして南北に縦断する形の飛田本通商店街を中心にして、(風水による)東西南北に中華門を建てるというのが、構想のとば口である。

その北門が位置する場所は、動物園前駅の目と鼻の先であって、林氏が言うように、道を一本渡ればジャンジャン横丁から新世界という観光名所と直結する。中華街ができるとすれば絶好の立地であり、また集客上も有利であることは間違いない。

さらに、2022年には新今宮駅前に星野リゾートが進出する(行政区分的には浪速区)など、観光・商業的には好条件が続く。

しかし、である。そんな観光地と目と鼻の先にある場所がなぜ、「シャッター商店街」となっていたのか。それには、西成独特の事情があった。

まず、南に向かって飛田本通商店街を越え、さらに大きな通りを横断すると萩之茶屋という街になる。ここは、かつて高度成長期に日本の経済を支えた日雇い労働者たちの町である。彼らのための簡易宿泊所が建ち並び、「あいりん(釜ヶ崎)」と呼ばれる”ドヤ街”だった。

だが、現在は労働者たちも老齢期に入り、生活保護を受給する人も少なくない。それは、東京・山谷、横浜・寿町(このふたつにあいりん地区を加えて、日本三大ドヤ街とも呼ばれる)も同じなのだが、それだけに町はかつてのような活況はなかなか取り戻せないでいるのだ。

もっとも、橋下市政下の2012年、これら西成の状況を改善すべく、特区構想が始まっている。西成区役所の担当者によれば、

「特にあいりん地区でのごみ問題、また治安等を含めて、(特区構想は)地域住民の方に評価をしていただきました。現在の吉村市長のもと、2017年から特区構想は二期目に入り、さらに住みやすい街を目指していきます」

シャッターが降りた商店街にはためく「大阪華商会」の旗。

とにかく安い中華カラオケ

実はこのドヤ街の高齢化──そんな街の変化が、中華街構想のきっかけとも言える中国人経営のカラオケ店、「中華カラオケ店」の需要を生んだ。

そもそも、「中華カラオケ店」とはどのようなものなのか。

村井会長によれば、「特に看板が派手な店はほとんど中国人経営」だという。実際、商店街にあるカラオケ店のほとんどが派手な看板で、店内をガラス越しに覗き見ることができる作りとなっている。なかには、中国人らしい若い女性が歌ったり、笑顔で酒を作っている様子が見られる。そんな一軒に入ってみた。

「イラッシャイマセ~~」

中国語訛りの日本語を話す女性が三人、うちひとりは妙齢の女性でママのようだ。残りのふたりは、あとで年齢を聞いたところ20代前半だという。店内は質素だが小奇麗で、イメージとしてはひところ流行ったガールズバー(若い女性がバーテンを務める)に近い。

そして、何よりも驚くのがその値段の安さだ。カラオケは一曲100円、ドリンクは概ね500円。二杯飲んで3曲歌っても1300円で、この廉価設定から、対象とする客層があいりん地区に住む高齢者・生活保護層であることがわかる。

そして、すでに飽和状態にあるとはいえ、「中華カラオケ店」がここまで増えたのは、その”商売”が当たったということに他ならない。

西成には、あいりん地区以外にももうひとつ独特な色合いがある。飛田本通商店街の東側の山王には、「小料理飲食店」が立ち並ぶ飛田新地という街が位置するのだ。かつて、知事になる前の橋下徹氏が組合の顧問弁護士をしていたことで知られている。

この飛田新地、タテマエ上は飲食店であるが、実際には飛田遊郭以来の「男の遊び場」であることは周知の事実だ。ちなみに林氏らによる構想では、南門は飛田新地の入り口近くを想定しているという。

このように西成という地区はドヤ、色街という特殊性も相まって、大阪のなかでもひときわ特徴のある街となっている。大阪のゴンタ(不良)のなかには、「西成でケンカできれば一人前」という都市伝説もあるくらいだ。

実際、街を歩いてみても、あいりんはドヤ独特のザラっとした雰囲気に満ちており、また中心にある要塞のような西成警察署(西成暴動の余波と思われる)も他では見られない光景だ。

一方、飛田新地では「お兄さん、かわいい子いるよ」と遣り手婆が道行く男に声を掛け、艶やかな若い女子が微笑む……。そこにもってきてシャッター商店街である。

見慣れていない人には異質な風景に見えるだろうし、また、ある種の人には魅力的な街ともなる。

突然、別地区の議員が……

ところが、その西成の土地がここ数年、高騰しているという。

国税庁の発表によれば平成30年、西成(花園南一丁目)の最高路線価は対前年比5.6%増と上昇。また、あいりん地区周辺も軒並み上昇した。その大きな原因に、インバウンドによる需要がある。

先の西成区商店会連盟の村井会長は言う。

「西成地区の昨年のインバウンド数は、40万人とも50万人とも言われています。近年、簡宿さん(簡易宿泊所)が安い宿ということで、バックパッカー相手のホテルに転換していった。それがいまひと段落して、安くて空いている土地を買って普通程度のホテルが建っていっている状況です。要するに、客層が変わってきている」

縷々述べてきたように、西成といえども一本道を隔てればがらりと性格が異なる街になる。その街々には林氏らよりも遥か以前から住み、商いをしている住人たちがいて、それぞれの歴史と事情がある。日本人にはそれがわかっている。が、中国人には関係ないだろう。

そんな独自の色合いを持った街を中華街に変えようという計画である。

村井会長はこう続ける。

「最初に林くんたち(中国人側)と話し合いを持ったのは、2018年の12月。そのときは、今池商店街のKさんと、山王地区の町会長さんと柳本顕先生(前大阪市議)と私と。

彼らは『何か地域活性化のための”中華イベント”的なものをやりたい』と言っていた。具体的には、南海天王寺線の廃線跡地を整備しているのでそこを使ってやりたい、と。

我々としては、『おやりになるのは結構だと思う。しかし、一部は公園として完成しているところだから、収益イベントではなく活性化イベントとしてならいいのではないか』と話しました。これまで林くんたちと話し合う機会はなかったので、これからも地域の活性化のためには、こういう機会を作っていくのはいいのではないかとなったのです。

それというのも、いままで現実問題として、中華カラオケ居酒屋の騒音問題とか営業時間の問題とかゴミ出しとか……運営しているママさんや女の子たちと地域のコミュニケーションがうまく取れていなかったので、お互いの理解を深めることも必要だろうと」

この時点では、前述した朝日新聞のぼんやりとした「中華街をやりたい」という情報以外なく、当然、村井会長らもイベントの企画と相互理解のための会合をもった……という認識だったことがわかる。

それが一変したのは、村井会長と林氏らの話し合いのあと、12月14日の大阪府議会における大阪維新の会・今井豊議員の質問だった。今井議員は現在、大阪維新の会副代表であり、元府議会議長。2017年5月からは、大阪府議会日中友好親善議員連盟会長でもある。

村井会長はこう話す。

「泉南の貝塚の先生(今井議員)が、西成のエリアで中華街を作ってはどうかというような発言をした。それを聞いた市の商業課がびっくりして、僕のほうに連絡してきたんです。僕は大振連(大阪府商店街振興組合連合会)の副理事長もやっているからね。

そのときの議員の発言は、地域の半分くらいの商店街会長がそれを了解している……ということやった。それで、『村井さん、そんなことになってるんですか?』と(市の商業課が)訊いてきたんです。僕もそのとき初めて聞く話だし、地元の商店街の会長の話のなかで、ひと言もそんな話になったこともない。実際、そんな話ならみんなでわあわあ言わなあかん話やから。

しかし、西成の府会議員ならそれなりの理由もあるかもしれんけど、(質問した議員が)貝塚やからな。なんでやねん(笑)、みたいな話になって」

つまり、この府議会の質問時点で林氏ら中国人側と今井議員らは中華街構想の概要を把握していたが、肝心の地元商店街幹部をはじめ、地元住民は蚊帳の外にいた、ということになる。村井会長らにしてみれば、まさに青天の霹靂、寝耳に水といったところだっただろう。

今井豊氏。

日本一の規模の中華街?

今井議員の府議会での質問は、次のようなものだった。

「次に、日本最大といわれる大阪中華街構想について、質問させていただきます。

2025年大阪万博の開催でありますが、この年に大阪中華街構想も具体化すると聞き及んでいます。(中略)

2025年大阪中華街プロジェクトは、中国大阪総領事いわく『今世紀最大と言われる規模の中華街となり、まさに日本一となります』、『新時代の多文化共生社会と地域経済活性化、関西経済の起爆剤にしたい』、『あるいは一流の料理人を大阪中華街に集結させたい』、『あるいはほんまもんの中国料理を食べてもらいたい』というふうに語られています。

万博開催の2025年オープンを目指した大阪中華街プロジェクトの主体は、天王寺に本部を持つ福建省経済文化促進会と、日本国籍を有する華僑・華人団体、そして在阪中国領事館と伺っています」

そして中華街構想について説明したあと、こう述べている。

「既に空き店舗の商店街に公募を始め、半数以上が参画の意思表示とも伺っています。G20サミットまでに、その具体計画も明らかになると言われています。まさに、これも万博効果と考えます」(平成30年12月14日、大阪府定例会本会議)

ここで時系列を整理してみよう。

林氏らは約2年前に中華街構想を思いつき、華商会を立ち上げて準備を整えていた。そして、与党の重鎮であり、大阪府議会日中友好親善議員連盟会長でもある今井議員にも府議会前の・根回し・を済ませていた、ということになる。そして2018年12月には村井会長らと接触し、同月に今井議員の府議会での質問があった。

一方、地元商店会側は、今井議員の質問がなされるまで具体的な中華街構想の話は聞いていなかった。さらには、2019年2月に”新年会”に出たつもりが、それは開発委員会の結成式で、構想のパンフレットまで出来上がっている周到な準備を知った……。

林氏は、今井議員の府議会での質問に関してはこう述べた。

「僕は政治のことはわからない。だから(知己の)李総領事から今井さんに相談してもらった」

今井議員は事情を次のように説明する。まず、中華街構想自体について。

「(中華街構想を知ったのは)昨年(2018)11月頃だったと思います。僕だけではなく、日中西日本大会(2019年1月)のオオサカニューオオタニホテルの準備会の席上、総領事から資料にもとづき説明、ガイドライン的なものがありました。数十人の関係者が聞いていたと思います」

また、「商店街の半数以上が中華街構想に参画」という件については、

「情報は中国総領事から伺いました。その後、華商会の方からも伺いました」

この「商店街の半数以上が参画」という件は、村井会長の話によれば事実ではない。

取材を進めていくと、村井会長らと林氏らには、話の進め方やスピード、中華街構想に関する認識に大きな違いがあること、そして李総領事が積極的に関与していることがわかる。

「日本最大の中華街に!」

林氏らが進める計画の概要は、「大阪中華街プロジェクト企画書」というパンフレットに詳しい。

「大阪中華街開発委員会」が作っているプレゼン資料といった趣きの28頁からなるもので、開発委員会は住所を林氏の「華商会」に置いている。

表紙には「大阪中華街(北門)」の完成したイメージが描かれ、「日本国在留外国人・在留中国人の推移」 「大阪中華街来客数と経済効果」などの項目に必要なグラフを添付。「大阪中華街での売り上げ予想 2025年で日本最大の中華街に!」の項目には、2019~2020年、2022年、2025年に分けて、観光客全体、大阪中華街の人数、店舗数、中華街売上の予想をはじいている。

ちなみに2025年の予想店舗数は120、中華街の売上予想は224億円だ。

そして「大阪中華街経済効果算出(2025年)」という項目には、中華街だけでなく、周辺の新世界や天王寺公園、あべのハルカスなどをあわせて「合計 約1000億円規模の経済効果が期待できる」と赤字で書かれている。

また「新しい雇用機会の創出」には、「労働者の街に新しい雇用の機会を創出する」 「大阪中華街建設、店舗、その他サービス関連に新しい雇用のチャンスが生まれる」 「それによって、あいりん地区解消に拍車を掛ける役割を果たす」 「人が集まり、若者が集まり、収入が増え、税収に増え、そして区民に優しい街づくりが出来、子育てしやすい街づくりを提案してく」とある。

他に西成の歴史や地図、大阪中華街完成イメージなどの説明とともに、「李天然中国総領事様からのアドバイス コンセプト」という項目もある。

そこには「大阪中華街の特徴を出す」 「多くの店舗に出店してもらうための魅力的な提案」と書かれており、たとえば「中国各地の有名な中華レストランの参画」や「中国の事を知って頂くために色んな教室を作ること」「西成区の商店街には4つの門が有る。そこの門の名前を付けて、名前を描いてもらう有名な書道家を探すこと」とあり、「注意することは、大阪中華街に出店してくれる人が絶対に損しない様にシステムを検討していかねばならない」。

そしてパンフレットの最後には、中長期の事業推進ロードマップまで用意されている。

北門イメージ。

多くの中国人が協力を

村井会長はこう話す。

「ともかく新しい形態を、ましてや中華街構想をというのやったら、ある程度の店の準備があって然るべきだよね。すでに中華料理の店が、あるいは中華物産店がいくつか(あるとか)……。

しかし、それは一切ない。(カラオケ店以外の)違う業種が出てくることには大賛成です。ただ、準備ができているのかどうかが見えてこない。具体的なグランドデザインが見えないんです。とりあえず提案だけして承認してくれと言われても、それはできない話。今後、もっと具体的な話が出てくるなら話し合いをすることは可能だと思うけどね。

中国の方が本当に西成のことを思って、長いスパンで考えていくというならきちんと話します。その代わり、コンセンサスも含めて時間をかけてね。まずは中華門を先に、とにかく箱がありきというなら、どこまで行っても平行線です」

一方、林氏は具体的な”案”としてこう述べた。

「総領事が管轄しているエリアは名古屋から広島まで。本当に中華街が大阪にできれば僕ら七人(華商会中心メンバー)だけじゃなく、多くの中国人が協力してくれる。資金も数百人は払ってくれる人(中国人)はいる。

それと、これだけは話したい。

これは噂ですが、中華街ができると西成は中国人の街になる……そんな話があるとか。そんなことはないです。どこまで行ってもここは日本、税金も払うのだし。それに中華街構想には日本人にもたくさん、参加してほしいんです」

資金集めなど、中国人ネットワークを利用するためには、中国総領事の存在は大きいようだ。

もっとも、同じ西成に住む中国人社会が中華街構想に向かって一枚岩かと言えば、そうとも言えないようだ。福建省(林氏の出身地)の出身ではないカラオケ店のママはこう話す。

「福建の人、多いからね。でも、それ以外の出身、私なんかにはあまり興味ない。中華街でなくても、お店が儲かればそれでいい」

このような話は、何軒かの中華カラオケ店でも聞いた。少なくとも地元の中国人社会では、中国独自の地方閥が、若干の温度差として存在している面もあるようだ。

日本中の商店街の問題

日本人と中国人。一言に文化の違いと言うが、双方の事にあたるスピードには相当な隔たりがある……取材をしてみて、つくづくと感じた。

さらにこの中華街構想の根底にある問題は、西成だけではなく、日本中にあるシャッター商店街にも共通するものだとも思える。

村井会長が言う。

「中華カラオケが雨後の筍のようにできた理由は、箱があったから。(商店街で)20、30%くらいの空き店舗が出ていたしね。正直、大変に借りやすい状況にあった。

林くんの手法としては、借りるどころか、地面から全部買い上げている。店舗だけじゃなく、周辺の空き家・空き地も。

単にカラオケ居酒屋をやるだけなら、土地までは買わない。しかし、彼らは土地から買っている。大阪(市)で一番安い西成の土地を。それで、なにを意図としているかやな。

これらの話は、単にうち(の商店街)だけの問題ではないと思うよ。日本国中の商店街の問題であるし、そのためには、国なり地方行政も考えてもらわなければならない」

日本全国に無数にあるシャッター商店街。そのなかには西成ほどではなくても、再生の可能性を秘めた街は多くあるだろう。まさに、日本人全体が考えなくてはならない国土の問題とも言えるのではないか。

羽田翔 | Hanadaプラス

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