医療的ケア児を知っていますか?人工呼吸器、たんの吸引…推計2万人 付きっきりの親「5分以上目を離せない」ようやく各地に支援センター立ち上げの動き

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医療的ケア児支援法の成立を求める署名を提出した子どもの親ら=2021年5月、国会

 日常的に人工呼吸器の装着やたんの吸引といった措置が欠かせない子どもが、全国に推計約2万人いる。医療技術の向上によって救うことができた大切な命。ただ、親は自宅で昼夜を問わず付きっきりでケアに当たらなければならない。「5分以上目を離せない」と言う親もいる。保育所など、受け入れ先が不十分なため、のしかかる負担は大きい。現状を変えてほしいとの親たちの要請を受け、政府や自治体に支援の責務があると明記した法律が成立してから1年。あらゆる相談に乗る「支援センター」立ち上げの動きが、ようやく各地で出始めた。(共同通信=沢田和樹、味園愛美)

 ▽保育所への受け入れ難航、入園まで3年

 岐阜県恵那市の看護師渡辺優さん(38)は「1歳までは15分に1回たんの吸引が必要で、夜もずっと起きている感覚でした」と話す。
 次男剛樹ちゃん(4)は2017年に生まれた。呼吸がしづらい病気で生後1カ月半のころに気管を切開。喉に息をしやすくする器具を付けている。当初は夜中も呼吸を確認するモニターを付け、ケアをする毎日。夫の大樹さん(39)は救急救命士で夜に不在となることもあり、優さんはストレスと不眠にさいなまれた。今は吸引の頻度が減ったが、それでも1時間に1回は必要だ。

 

 優さんは出産に際し、2年の育児休暇を取得した。勤務先の診療所への復職を目指し、早い時期から恵那市に保育所探しを相談。ただ、何度足を運んでも、市は「ケアできる人を確保できていない」と繰り返した。
 育休期限が迫り、失業手当の相談にハローワークを訪れた。「なぜ育休後に仕事を辞めるんですか」と言う担当者に対して、優さんが「子どもが医療的ケア児だ」と説明すると、メモを取る担当者の手が止まり、「今後も働けないんでしょ」と突き放された。優さんは「ケア児を理解していない」と悟った。手当の受給を認めてもらえず、7年勤めた診療所も辞めざるを得なかった。
 恵那市への最初の相談から3年が過ぎた21年春。親の同伴を条件に剛樹ちゃんの市立保育所への受け入れが決まった。すぐに看護師が確保されたものの、ケアに慣れるまでの約2カ月間、同伴を求められた。緊急の時に対応できるよう、園長もたんの吸引の研修を受けていたが、受け入れ直前にあった市の人事で異動になってしまった。「軽視されている」。大樹さんと優さんは、市役所などの担当者が代わるたびに痛感した。「あらゆる場面でケア児を知ってもらうことから始めなければいけない」

 ▽働かなければケアの費用をまかなえない

 沖縄県の豊見城市に住む大城雅美さん(44)は、4人の子どもを1人で育てるシングルマザーだ。長男の羚桜君(9)は、脳性まひがあり肢体不自由。3年以上前から要望してきた通常学級への入学はかなわず、特別支援学校に通う。
 羚桜君が特別支援学校に入学してから2カ月間、たんの吸引など注意点を学校の看護師に伝えるため、雅美さんは付き添いを求められた。仕事を休まざるを得ず収入は激減した。シングルマザーにとって収入減は死活問題となる。雅美さんは「なぜ付き添いに2カ月も必要なのか疑問だ。ケア児の親も、健常児の親と同じように働いている人が大勢いるという考えが抜け落ちている」と指摘する。
 仕事をしなければケアの費用をまかなえないのに、ケアするために労働時間を抑えなければならない。ジレンマに悩む親は多い。

 ▽ケア児を受け入れる保育所は1・2%

 厚生労働省が親たちに調査(2019年)すると、悲鳴にも似たこんな声が多数寄せられた。「命の危険と隣り合わせで目が離せない」「1時間以上眠れない」「常に気を張った状態でイライラが収まらない」
 ケア児は過去10年で倍増した。病院に新生児集中治療室(NICU)が整備され、昔は失っていた命を救えるようになったためだ。一方、受け入れ体制は脆弱なまま。全国3万6千カ所の保育所のうち、ケア児を受け入れたのは438カ所、わずか1・2%に過ぎない。

 厚労省調査によると「5分以上、目を離せない」と答えた親は40・8%で、ケア児の年齢に関わりなく30%を超える。成長してもケアの程度は変わらないことがうかがえる。また、71・1%の親が慢性的な睡眠不足と答え、希望する形で仕事ができていないとの回答も75・6%に上った。
 ケア児のきょうだいへの影響も大きい。親の59・3%が「きょうだいがストレスを抱えているように感じる」と答えた。きょうだい自身も自由記述で「いつもひとりぼっちか後回し」「(ケア児の)妹のことでたくさん我慢している」「お母さんとたくさん遊びたい」と訴えた。

 ▽「人生終わった」と思うお母さんが減ることに期待

「医療的ケア児」や家族に対する支援法を全会一致で可決、成立した参院本会議=2021年6月

 悲惨な現状を変えるため、昨年6月の国会で、医療的ケア児支援法が成立した。健やかな成長と家族の離職防止のため「社会全体で支える」趣旨だ。法制定を求める署名活動に参加した女性は涙した。「障害のある息子で『人生終わった』と思った。法律ができれば同じようなお母さんが減ると思う」と期待した。
 法律の目玉の一つが、都道府県に支援センターの設置を求めたことだ。ケア児にまつわる相談は、医療や保育、教育など多岐にわたる。これらの悩みを受け止め、病院や学校、市町村などと連携し、支援につなげることが求められている。
 

医療的ケア児支援法成立後、国会議事堂前に集まった関係者=2021年6月

 支援センターに関して共同通信が今年3月、47都道府県の担当者に取材すると、39都道府県が開設済みか2022年度中に整備すると決めたことが分かった。支援センターの数は1カ所が多く、愛知(7カ所)や鳥取(3カ所)など複数設けるところもある。
 一方で茨城、群馬、滋賀、大阪、和歌山、広島、鹿児島、沖縄の8府県は準備・検討中と回答した。大阪と和歌山は23年度の設置を予定する。
 全国医療的ケア児者支援協議会の小林正幸・親の部会長は「支援センターの設置を先送りした場合、子どもが失うものは多い。相談を通じて子どもの預け先が見つかれば、親の雇用維持にもつながる。まずはセンターを作り、不十分な点は走りながら見直してほしい」と強調した。

 ▽支援センター、自治体との連携が課題

 岐阜県には2015年から支援センターがある。県看護協会が運営する支援センター「みらい」(岐阜市)だ。県内3カ所に支所があり、看護師が相談に乗る。ケア児の親からは「窓口があるだけで安心感がある」との声が寄せられる。
 設立当初から勤務する看護師の市川百香里さん(60)は「市町村との連携が課題」と話す。医療、福祉、行政の関係者が集まる研修会で「顔の見える関係」を作ろうと取り組むものの、出席者は毎回同じメンバーになりがちだ。「対応に地域差があり、こぼれ落ちる子がたくさんいる」と言う。

岐阜県の医療的ケア児支援センター「みらい」で相談に乗る市川百香里さん=3月、岐阜市

 自治体の支援の責務が法律で定められたものの、いまだに「支援センターに任せておけばいい」と言われることがある。実際には、支援制度に関する手続きで親がやりとりするのは市町村であることが多い。市川さんは「市町村が何もしなくていいわけではない」と話し、自治体を巻き込む仕組み作りが必要だと指摘する。
 市川さんは言う。「『みらい』に来たら安心だよということをもっと広めたい。多職種と連携しながら支援が必要な人に伴走し、こぼれ落ちている人を救いたい」