台湾独立…似て非なる「支持しない」と「反対する」

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#22」

2022年5月30日-6月5日

【まとめ】

・ブリンケン国務長官は「米国の政策は不変」「台湾独立を支持せず」と述べた。

・中国は米国に「台湾の独立に反対する」旨表明するよう働きかけてきたが、米国は「反対する」とまでは表明していない。

・米国の「台湾独立不支持」は1972年のニクソン訪中時から変わっていないと見るべきだ。

今週ご紹介する英語の蘊蓄はnot supportopposeの違いである。今回も米中外交関係を例に、ご説明しよう。先々週はacknowledgeの意味を詳しく説明し、米国は「中国は一つであり、台湾は中国の一部」とする中国の立場をacknowledge(認知)はするが、必ずしもrecognize(承認)はしていない、と申し上げた。

では「台湾独立」はどうか。5月26日、ブリンケン国務長官はワシントンのジョージワシントン大学で行った対中関係に関する外交演説の中で概要こう述べている。

「米の政策は不変であり、①台湾関係法、3つの共同声明、6つの保証に基づく『一つの中国』政策を維持し、②一方的現状変更に反対し、③台湾独立を支持せず、④意見の相違を平和的に解決することだ」

As the President has said, our policy has not changed. The United States remains committed to our “one China” policy, which is guided by the Taiwan Relations Act, the three Joint Communiques, the Six Assurances. We oppose any unilateral changes to the status quo from either side; we do not support Taiwan independence; and we expect cross-strait differences to be resolved by peaceful means.

写真)ジョージワシントン大学で講演するブリンケン米国務長官(2022年5月26日)

出典)Photo by Alex Wong/Getty Images

台湾独立部分の原文はWe do not support Taiwan independence。文字通り読めば、米国は台湾独立を支持しない、となる。これに対し、中国は長年米国に対し公式に「台湾の独立に反対する」旨表明するよう強く働きかけてきたが、幸い、これまでのところ、米国は「台湾独立に反対する」とまでは表明していない。

確か、事情を知らないホワイトハウスの高官が一時そうした中国の誘いに乗りそうになってハラハラした思い出があるが、誰だったかは言わない。いずれにせよ、現在米国は「台湾独立」を「支持はしない」ものの、「反対する」とまでは決して言わないのである。でも、この2つの表現、似たようなものではないか、一体どこが違うのか。

この点を詳しく論じた米中の公式文書は見当たらない。されば、今は筆者が勝手に推測するしかない。筆者の見立てはこうだ。

つまり、中国は米中国交正常化前から、「台湾の独立に反対」してきたが、米中国交正常化の際、ニクソン大統領は中国に対し「米国は台湾独立運動を支持しないが、それを抑圧することはできない、と保証したPresident Nixon assured the People’s Republic of China during his historic 1972 trip to Beijing that the U.S. would not support, but could not suppress, the Taiwan independence movement.」ようである。

写真)大統領専用機から降りて周恩来国務院総理と握手をするニクソン大統領(1972年2月21日 北京空港)

出典)Photo by Bryan Schumaker/PhotoQuest/Getty Images

つまり、米国は台湾が独立を宣言してもそれを支持することはないが、だからと言って、台湾独立の動きを米側が一方的に抑圧したり、力によって止めさせたりすることもできない。その意味で、米国は台湾独立に「反対する」という中国側と同じ表現を使うことはしない、というのがニクソン以来の米国の立場ではないだろうか。

されば、「支持しない」と「反対する」はほぼ同義語どころか、かなりニュアンスの差がある表現ということだ。最近、国務省HPの台湾ファクトシートで「台湾独立を支持しない」と書かなくなったことに注目する向きも一部にあったが、米国の「台湾独立不支持」は1972年のニクソン訪中時から変わっていないと見るべきである。

〇アジア

中国外相がフィジーで太平洋島嶼国10カ国の外相と会合したが、中国が策定し提案した貿易と安全保障に関する声明は結局合意に至らず、安全保障の部分はなかったという。中国はソロモンに続き南太平洋での安全保障関係の枠組み拡大を狙ったが、米豪等が何とか食い止めたのか。だが、こんなことで懲りるような中国ではない。

〇欧州・ロシア

EU首脳会議で「ロシアから加盟国に供給される原油および石油製品を対ロシア制裁第6弾の対象とするが、陸上パイプライン経由の原油は暫定的に制裁対象外とする」旨の声明に合意したそうだ。ハンガリーやスロバキアなどへのパイプライン経由の輸入は暫定的に対象外だが、それにしてもハンガリーが反対したのは如何なものか。

〇中東

ベイルートのパレスチナ人墓地で1972年のロッド空港乱射事件50年の記念集会が開かれ、レバノンに政治亡命している元日本赤軍の岡本公三が参加したという。彼ももう74歳だが、あの殺人犯を英雄扱いすることには、70年安保闘争の同時代人として、どうしても抵抗がある。パレスチナ人ももう少し理性的になって欲しいものだ。

〇南北アメリカ

米国テキサスの小学校で18歳の犯人による自動小銃乱射事件があり、児童19人と教師2人と犯人が死亡した。今年に入り、この種の乱射事件は全米で確か100回以上起きており、日常茶飯事だ。トランプ前大統領は「教師を武装させればよい」と言うだけで最小限の銃規制強化にすら反対している。米国は全く変わらないようだ。

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真)台湾の蔡英文総統

出典)Photo by Carl Court/Getty Images

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