テデスキ・トラックス・バンドが語る4作連続発売プロジェクトの詳細と第一章全曲解説

新世代3大ロック・ギタリストの一人と称されるデレク・トラックスとシンガー/ギタリストのスーザン・テデスキの夫妻が結成した12人組バンド、テデスキ・トラックス・バンド(Tedeschi Trucks Band)。

彼らが4枚のアルバムから成る壮大な新スタジオ・プロジェクト『I Am The Moon』の第一章で2022年6月3日に発売となる『I Am The Moon: I. Crescent』についての36分にも及ぶ映像がアルバムのリリースに先駆けプレミア公開された。[(https://www.udiscovermusic.jp/stories/unusual-history-derek-dominos-layla)

テデスキ・トラックス・バンドの5枚目のスタジオ作品である4部作『I Am The Moon』は、アメリカ最高のロックンロール・ビッグバンドがこれまでに制作した作品の中で最も野心的であると同時に、とても親密な録音となっている。

本プロジェクトは、4枚のアルバムに24曲のオリジナル曲を収録した壮大なプロジェクトで、パンデミック時代の孤立と断絶に感情的に駆り立てられる中、バンド全員で12世紀のペルシャの詩人ニザーミーの書いた「ライラとマジュヌーン」の物語にインスピレーションを受けて創造したもの。合計2時間以上に及ぶ音楽は、ジャンルを超えたサウンドで展開される。

この記事では、このプロジェクトについて、そして第一章『I Am The Moon: I. Crescent』の全曲解説を彼らのインタビューを交えてご紹介する。

壮大なプロジェクトが始まり

このプロジェクトに関するバンドの最初のインタビューで、トラックスはこのように話している。

「この曲のほとんどは、かなり短期間で書き上げたから驚きだ。テーマやヴァリエーション、歌詞の引用など、アルバムの他の曲と同じようなコード・チェンジも入っている。いつも何か大きなテーマ性のあることをやりたいと思ってきたが、今回初めて自然にそうなったんだ」

また、インスピレーション元となった「ライラとマジュヌーン」の恋人たちのことについては次のように語る

「自分たちが作っている音楽のすべてを理解するのに時間がかかった。他人の視点から正確に書くのは難しい。同時に、人間の感情について書きたいと思う。私たちが経験してきたことの多くは、彼らも経験してきたことだと思うから」

9歳で初めて演奏し、15歳で自分のグループを結成、オールマン・ブラザーズ・バンドで四半世紀を過ごし、エリック・クラプトン、バディ・ガイ、グレイトフル・デッドのフィル・レッシュ、故マッコイ・タイナーなど多くのミュージシャンと仕事をしてきたトラックス。彼は今回壮大なプロジェクトについてはこう話している。

「こんなプロジェクトに参加したことがない。すべては同じ時間と頭脳空間で構想された。ただ書き続けた音楽だった。それがどれほどのものかは考えなかった。しかしいつも大きなテーマ性のあることをやりたいと思っているのだけど、今回、初めて自然にそうなったんだ」

コロナ禍での制作

2020年5月、テデスキ・トラックス・バンドがロックダウンによってツアーを断念せざるを得なくなった2カ月後、ヴォーカルのマイク・マティソンはトラックス、テデスキ、シンガー兼キーボード奏者のゲイブ・ディクソン、ダブル・ドラム軸の半分であるタイラー・グリーンウェルにメールを送り、グループ・リーディングを提案。

ガンジャヴィの詩は1188年に書かれ、バイロン卿によって「東洋のロミオとジュリエット」と呼ばれ、クラシック・ロック時代にはクラプトンがデレク・アンド・ザ・ドミノスとして1970年にリリースした2枚組LP『Layla and Other Assorted Love Songs』のタイトルにもなっているものだ。

そこには、すでに強い血のつながりと音楽的な結びつきがあった。トラックスはそのアルバムでのクラプトンのペンネームから「デレク」と名付けられ、テデスキはそのアルバムがリリースされた日に生まれている。そしてテデスキ・トラックス・バンドは、このアルバムの全曲をライヴで演奏したばかりだった2019年8月、フィッシュのトレイ・アナスタシオをゲストに迎えたそのライヴは『Layla Revisited (Live at LOCKN’)』として2021年にリリースされた。

デレク・トラックス・バンドからテデスキ・トラックス・バンドに移籍したマティソンは、「Midnight In Harlem」や「Bound For Glory」といったテデスキ・トラックス・バンドのセット・リスト定番曲を共同作曲している。そんなマティソンは以前の名盤を比較して今回のプロジェクトについてはこう語っている。

「あのアルバム(『Layla and Other Assorted Love Songs』)は、レイラを愛の対象として、『あなたが欲しい、しかし、あなたを得られない』という一つの視点で描かれている。(しかし、マティソンは原作を読んだ後)異なる視点から様々なことが起こっていることに気づいた。バンドとして、作家として、この原作を見直そう」

マティソンが最初にデモとして送った曲の一つである「Where Are My Friends?」は、2002年からのトラックスのバンドメイトで、2019年にわずか57歳で亡くなったシンガー・キーボード奏者のコフィ・バーブリッジや、また同年末に他界したデレク・トラックス・バンドのドラマー、ヨンリコ・スコットらについての歌だ。トラックスはこのデモを聴いた時のことをこう話す。

「ちょうどその頃、僕らの仲間の状況について考えていたんだ。マイクのデモを聴いたとき、彼の歌い方には、コフィと彼の声が聞こえてきたんだ」

トラックスとテデスキは、『I Am The Moon』のタイトル・ソングとなった曲にも衝撃を受けた。

「ライラが父親の家に監禁され、マジュヌーンに恋い焦がれる場面で、『私は月、汝は輝く太陽』という一節に出会った。彼女のアイデンティティは、彼との関係においてのみ存在するようです」

それから数日間、ディクソン(2018年末にバンドに加入)は「I Am The Moon」を書き、最終的にはテデスキと一緒に、70年代のアル・グリーン・バラードのアレンジで恋人たちのやりとりのように歌い、最後にトラックスのソロで天を仰ぐことになるのだ。

「『どのようにして女性向けにこんなに完璧に書いたの?』と思った。とても美しくて、皮肉な曲だった」とテデスキは言い、トラックスは彼女が「その曲をギターで弾きながら、家の中でいつも歌っていた」と記している。

『I Am The Moon』の作曲について、ディクソンは「何か決まった公式リリースとかがあったわけではなかった」と言う。彼はあの曲を完全なデモとして送っていたのだ。

『III. The Fall』に収録のブルース「Yes I Will」はテデスキがトラックスにギターを弾かせるために書いた曲で、『IV. Ascension』に収録される教会の賛美歌のような「So Long Savior」はトラックスがアコギ、テデスキがドラムを叩くだけでスタートした曲だ。

残りの多くは、『IV. Ascension』の「Ain’t That Something」のワウ・ワウ・ストレーク・ファンクや、『I. Crescent』収録のダイナミックな唯一のインストゥルメンタル曲「Pasaquan」など、2020年8月から同年末にかけて月に数日、バンドの中核、トラックス、テデスキ、ディクソン、マティソン、グリーンウェル、そしてベーシストのブランドン・ブーンがジョージアの田舎にあるトラックス家の農場でまとめて開発したリフやアイデアに由来している。

レコーディングの始まり

2021年1月、フロリダ州ジャクソンヴィルにあるテデスキとトラックスのホーム・スタジオ、スワンプ・ラーガでレコーディングが始まったとき、バンドは新しいセカンド・ドラマーをオーディションで探していた。

アイザック・イーディは最初の週に現れて、すぐにアルバムに参加し、『II. Ascension』収録のインド・ジャズが広がる「All The Love」、『IV. Farewell』に収録されている蛇のようなアフロ・ブルースの「D’Gary」の2曲を最初の日に演奏した。

5月までに、メインのトラッキングは完了した。そして、その後テデスキ・トラックス・ファミリーの残りのメンバー、シンガーのマーク・リヴァースとアリシア・シャコール、そしてサックス奏者のケビ・ウィリアムズ、トランペット奏者のエフライム・オーウェンズ、トロンボーン奏者のエリザベス・リーが、その筋肉、威勢、光を持ち込んだのだ。

それまでのコア・バンドとのセッションについてトラックスはこう語る

「曲が要求するものなら何でも、その時に自由に使えるものなら何でもやった。その後、シンガーやホーンとのセッションを行った。そうすることで、それぞれ一口ずつ食べながら物事に集中することができたのはよかった」

『I Am The Moon』を4つのエピソードで構成し、『I. Crescent』からリリースすることについて、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスが1967年にリリースしたLP、『Axis: Bold as Love』を引き合いに出してこう話す。

「自分たちが好きなレコードを考え始めたときだった、収録時間は36分。それがレコードを消化する方法なんだ」

また、本プロジェクトにはヴィジュアルからの入口も用意されている。このフィルムは、ドキュメンタリー映画作家であり、作家、テレビ作家でもあるアリックス・ランバートが監督したもので、各アルバムと収録曲すべてを4つの章に分けて紹介するもの。スタジオや演奏の映像に、雰囲気のある肖像画や寓話的なタッチストーンを組み合わせたこの映画は、それぞれのアルバムと一緒にリリースされ、音楽を途切れることのない連鎖として、自由で共同的な環境の中で表現している。

彼らは『I Am The Moon』を引っ提げて、すぐにツアーに出る予定だ。トラックスはこう語る。

「これらの曲は、もともと僕らが部屋で演奏していたものだから、きっと伝わるはずだ。僕らにできないことはないんだ」

全曲解説『I Am The Moon: I. Crescent』

1. Here My Dear

ディクソンとトラックスがまるで求婚者のようにフィルを交換し、テデスキの悲しげな光沢が別れの際にも音楽がもたらす深い贈り物を呼び起こす、エレガントな登場曲だ。1978年にマーヴィン・ゲイが自身の離婚を綴った『Here, My Dear』にちなんだこのタイトルは、決して偶然の産物ではない。トラックスはこう断言する。

「私たちのお気に入りのレコードの1つです。ゲイのゲイトフォールドLPの内側にある、マニキュアを塗った実体のない手にレコードを渡しているあの絵のことをずっと考えていたんだ」

2. Fall In

ニューオリンズのセカンドラインのようなマーチング・リズムに、トラックスのナショナル・スティール・ギターがデルタの夜風のように吹き抜ける「Where Are My Friends?」と共に、マティソンのアルバム用最初のデモの一つである。マティソンはこう語る。

「この曲は、マジュヌーンという男が、クレイジーな動物たち、つまり彼のグルーピーたちを集めて、砂煙を上げながら砂漠をクルージングするというコンセプトなんだもう1曲はもっと瞑想的な曲。『イケる』と思った2つの例だ」

3. I Am The Moon

ディクソンは、トラックスのソロの最後のスペースとクレッシェンドについて、この曲がコンサートのセットリストに入ったときには、さらに長くなることを約束している。

「デモでは、あれは僕のアイデアだった。僕だけがピアノのフィルを弾いて、そのコードの上で歌っていたんだ。でももちろん、これはどんなに長く感じてもいいソロ・セクションになると思っていたんだ」

4. Circles Round The Sun

グリーンウェルがテデスキとトラックスと一緒に書いたこの曲は、砂漠の砂の上を歩くようなシャッフルのリズムを持つ亡命ブルースで、ディクソンのキーボードの潮流に対抗するトラックスのソロの鋭い高音に、聖歌のようなコーラスが縁取り、ステージでの拡張候補となるもう一つの曲である。

5. Pasaquan

『 I Am The Moon』の中で唯一のインストゥルメンタル曲である「Pasaquan」は、トラックスの農場からそう遠くないジョージア州ブエナビスタにある、フォーク・アーティストの故エディ・オーエンス・マーティンが作った屋敷にちなんだもの。マーティンはシェアクロッパーの家庭に育ち、作品はワシントンDCの国立アメリカ美術館などの主要施設に収蔵されている。トラックスは10代の時に友人で師匠でもあるシンガー故ブルース・ハンプトン大佐を通してマーティンと彼のアートと初めて出会ったという。トラックスのメロディアスなオリジナルのアイデアについて彼はこう語る。

「玄関先にあるドブロのようなものだった。(長いソロ・ギターの序曲は)私が考えていた曲の流れだ。でも、ブランドンは違う方法でその時を聴いていた。ファルコン(・グリーンウェル)が入ってきて、一瞬マウンテン・ジャムっぽい感じがしたんだ。もしかしたら、それが僕に言っていることなのかもしれないって思ったんだ」

ヴィンテージ・オールマンズ、60年代半ばのスピリチュアルなジョン・コルトレーン、サンタナの『Caravanserai』のアフロ・ジャズの激動を取り入れたこの12分間のテイクについて、トラックスはこう言う。

「数週間かけて7、8回やった。しかし、僕たちはそのヴァージョンに戻り続けた。ブッチおじさんたちに対する敬意が込められているんだ」

Written By David Fricke

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