<南風>巨樹古木

 座間味に来ている。あいにくの梅雨空で海は彩りを失っている。潮止まりを狙っての調査で、午前6時半出港。薄暗い水深18メートルで、支援のシュノーケラーに見失われないように背中のタンクに明滅灯を装着した。風のない穏やかな海面下に、見渡す限り青黒い群落が広がる。枝状ハマサンゴは沖縄のサンゴ礁のどこでもみられる種だが、南北400メートル東西100メートルにわたる規模の群落はまれだ。

 大きさには意味がある。ここまで生き延びる年月の間、動くことができないサンゴにとって環境が安定で好適であった証しだ。調査の目的は彼らがいつからここにいて、どのように生きているのかを明らかにすることだ。陸上であれば、巨樹古木はその地の歴史と風土環境を体現するものとして祭りあがめられてきた。

 海中にも人が触れることのできない同様の歴史がある。樹木は死とともに朽ちるが、サンゴは生活痕を石灰質の骨格として残しサンゴ礁を築く。琉球列島から本州までサンゴの分布域には多様な種で巨大な群体や群落が見いだされている。

 西表島のアザミサンゴや大浦のアオサンゴは湾内に、沖永良部島では礁斜面下部からミドリイシ群落が、伊是名村具志川島では常に波洗う礁縁(しょうえん)に100メートルに及ぶハナヤサイサンゴの群落が見いだされている。

 さまざまな手法の調査には応分の困難が伴う。礁縁では波にもまれて、ウエットスーツにかぎ裂きができる。水中でボーリングを行えば、彼らの歴史を知ることができるが、水深のある場所では作業時間が制約される。国立公園でこれを行うには特別な許可が要る。重要湿地として世界自然遺産登録された釧路湿原はボーリングにより1万年の物語が解き明かされている。残念ながら私たちは石西礁湖成立の詳細な物語を持たない。もっと多様性の歴史的重みを考えてみたい。

(中野義勝、沖縄県サンゴ礁保全推進協議会会長)

© 株式会社琉球新報社