半日前予報

 雨の強い弱い、降り続く長さ、季節、地方によって、雨には数限りない呼び名がある。「雨のことば辞典」(講談社学術文庫)を開けば、強く降るさまは「雨しとど」「雨しぶく」「雨、車軸のごとし」…と数知れない▲辞典に「空の水道」という言葉も見つけた。梅雨、台風、雷雲と、日本の天上のふんだんな“水源”をそう呼ぶらしい。ただし、短時間に強く降ることも多い。「空の水道」の“配管”は不安定でもあるという▲地上の水がめを満たす慈雨にもなれば、天の水道管は時に破裂し、豪雨という乱暴を働く。ここ何年かよく見聞きする気象用語「線状降水帯」は、破れた空の水道管そのものだろう。積乱雲が連なって、同じ場所で、長い間、猛烈な雨をもたらす▲気象庁はきのう、線状降水帯の半日前の予報を始めた。発生が予測される12時間前~6時間前に出される▲かねて夜の避難は危険とされ、早めの予報は早めの避難につながる。いいことに違いないが、予測の的中は4回に1回ほどで、その範囲も「九州北部」「九州南部」とかなり広い▲予報が“空振り”ならむしろ幸いだとしても、自分が住む所が危ないのか、よく分からないのも心もとない。人を浮かない気分にさせる雨、「愁雨(しゅうう)」を招かなければいいけれど-と、梅雨が近い空を仰ぐ。(徹)

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