無料100定食が大反響!もつ煮専門店オープン 翌日泥棒が狙うも数時間並んだ客 託された親子の夢

「テイクアウトもあるので自慢のもつ煮込みを味わって」と話す稲野辺春樹さん=八潮市中央

 埼玉県越谷市の稲野辺春樹さん(39)は20年以上勤めた運送会社を脱サラし、八潮市に念願のもつ煮専門店をオープンした。重度知的障害を持つ長男(14)と「いずれは2人で店をやりたい」と夢を抱くが、グランドオープン数日前にまさかの空き巣被害。苦難の船出にも「励ましを力に、夢に向かって進みたい」と力強く前を向く。

 被害に遭ったのは5月28日深夜から29日にかけて。両日は6月1日のグランドオープンに向けて自慢の味をPRするため、もつ煮定食100食の無料提供を実施していた。初日の28日が大盛況に終わり、手応えをつかんだ矢先の29日朝、出勤時に店のガラスが直径10センチほど丸く割られているのを発見。犯人は店内に侵入できず、幸いにも物的被害はなかった。「オープンへ順調に進んでいる中での空き巣被害。何でこんなことになるのか…」。この日の無料提供を急きょテイクアウトに変更し、数時間並んでくれた客に対応したが、「ショックよりどうして良いか分からなかった」と稲野辺さんは肩を落とす。

 トラックドライバーとして運送会社に20年以上勤務した稲野辺さん。訪れた全国各地の有名店でもつ煮込みを食べては自宅でまねして作るほど、もつ煮込みに魅了された。家族や友人らに振る舞うと評判も良く、「いずれは店を出せたらいいな」との思いがずっと頭の片隅にあった。

 運送会社を脱サラし、初めて飲食業界に飛び込もうと決めた背景には、重度の知的障害を持つ中学3年生の長男の存在があった。学校卒業後に社会で自立できるのか、障害者でもずっと働ける環境があるのか―。父親として長年抱いていた不安。「ならば子どもと一緒に将来ずっと働ける店を」と一念発起。数百万円の借金を背負って開業を決意した。

 店名「やまと商店」は長男の名前「大和(やまと)」にちなんで名付けた。1頭の豚から数百グラムしか手に入らない直腸(テッポウ)のみを使用し、みそにしょうゆを加えた秘伝ベースで長時間じっくり煮込む。肉厚な肉は口に入れると、とろけるほどやわらかく、ご飯が進む。メニューはもつ煮定食のみ。「もつ煮込みは味と人柄が肝心」と、おもてなしの心も忘れない。

 思わぬ災難を乗り越え、ようやく迎えたグランドオープン。稲野辺さんは「また空き巣に入られるのではと不安は消えないが、交流サイト(SNS)を通じての励ましが大きな力になった」と話す。試作を重ねるため家族にもつ煮込みを振る舞うと、「最近は飽きられて食べてくれない」と苦笑いするが、「食べ盛りの長男はすごく食べてくれる」と笑顔。そして「いつか2人で店を切り盛りしたいね」。もつ煮込みに大きな夢を託す。

 営業時間は午前11時~なくなり次第終了。月曜休み。

 問い合わせは、稲野辺さん(電話080.7438.2538)へ。

© 株式会社埼玉新聞社