元AV女優のアーティスト「27歳くらいで選択できる業界に」AV新法の思い明かす 盟友を撮った写真集出版

アーティストの「SAKI OTSUKA(サキ・オオツカ)」が10年間にわたって親友の女優を撮影した作品「裸(ra)川上ゆう写真集」(東京キララ社、税別3000円)が6月9日に出版される。日本国内で「AV」と称される映像媒体で有名女優として活動し、引退した2012年に写真家としてデビューしたオオツカが、よろず~ニュースの取材に対し、今回の作品に込めた思いや背景などを語った。

オオツカはAV女優引退を決意した11年から写真を撮り始め、翌年にセルフポートレート写真集を出版した。川上は04年に別名義でAV女優デビュー。07年から現在の名に改めて15年となり、今年3月で40歳になった。業界を代表する現役女優の1人だ。

「私たちは裸で出会った」。オオツカは写真集のあとがき冒頭に記す 最初の出会いはAVの撮影現場。スタッフに名刺を配る川上の姿に「この子はこの業界でどっしりと生き続けるタイプの人」と感じたという。連絡先を交換して友人関係が始まり、その原点である「裸」が写真集のタイトルになった。現場で裸を「ラ」と音読みで隠語的に表現していたことから、読みを「ra」とした。

写真家としての出発点は自身の撮影だったが、今回は親友を被写体として向き合った。「彼女を知りたい」という理由があった。

「ゆうちゃんは明るくて屈託がなく、あっけらかんとした人。プロ意識が高く、カメラを向けたらいつもニコニコしている。とにかく演じる人なので、彼女の存在には謎の部分もあった。この人がどんな人か見てみたいというところから近い距離で撮影を始めました。自分の人生を楽しむことが日々の目標で、『この仕事(AV女優)をしたかった』と話す彼女の感情は素直。裸という素直な姿で人生を楽しんでいて、本当にこの仕事が天職なんだなと。この人はずっと『川上ゆう』として生きていくんだと思った」

「謎」は魅力の裏返し。分からないから、もっと知りたくなる。オオツカは「AV女優という人間の記録として面白いと思った。そして、それが業界にいた私の最後の裸の仕事なのではないかと思った」と、今作を集大成として位置付けた。

一方で、その出会いの場となった業界が今、国会で論議を呼んだ「AV新法」によってクローズアップされている。18歳と19歳が成人となることを契機に新法案が検討され始め、性的被害や搾取、人権侵害対策という基本線から、「AV禁止」という〝極論〟も報じられて物議を醸した。それは被害者救済に傾注したがゆえの発想だが、そこでは「裸で生きる」という自身のスタイルを確立した川上のような存在は考慮されていない。スタッフも含め、同業界で働く人たちの職場を奪うことになると懸念する声もある。双方をケアする道はないのだろうか。

オオツカは自身の経験則から導いた見解を示した。

「私からAV新法について言えることはないのですが、業界に長くいて見てきた個人的な感想から言えば、デビュー時期は27歳くらいが一番いいと思っています。30歳でもいいくらいです。大学に行ったり、社会人の経験を何年も積んで世の中のことが少し分かって、自分でこういうことがやりたいと選択できるのは、ある程度、年齢がいかないと分からないと思うから。私は18歳で業界に入って、周りの大人たちとの間でいろんなことがあったので、実体験として、そう思います。ゆうちゃんも社会人経験があるんですよ。それで、自分の性癖を表現したい、こういう世界が好きだという人だけが出演すればいい。誰かに誘われて、よく分からないうちに出演していたという仕事であってはならないし、お金を稼ぐ受け皿ではダメだと思う。さらに、ネットの動画投稿サイトなどでの肖像権の問題、子どもたちへの性教育など他にクリアすべき問題もある。私の周りのAV女優の友だちはハッピーな性癖だからそこにいるという子たちが多いんですけど、そういう理由でないと、そこにいたらいけないと思う。我慢してやるのはおかしい…そういう世界であって欲しいですね」

慎重につむいだ言葉には、新作のタイトル「裸」の原点であり、盟友と出会った業界が、その仕事を選択した女性たちにとって生(性)を謳歌(おうか)できる場であってほしいという願いが込められていた。裸の人間同士として築いた関係性が写真集から伝わってくる。

出版記念写真展が6月4日から同12日まで東京・神保町の芳賀書店で開催(4日には撮影会やトークショーも)。同19日にはオオツカと川上によるサイン&撮影会が神保町の書泉グランデで行なわれる。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

© 株式会社神戸新聞社