ヤフーニュースのコメント欄閉鎖、きっかけは秋篠宮家を巡る報道と、書き込み

IT大手ヤフーのニュース配信サイト「ヤフーニュース」

 国内最大級のニュース配信サービス「ヤフーニュース」は、各記事の下に読者が感想や意見などを自由に書き込める「コメント欄」がある。多様な意見が寄せられることで、日々の膨大なニュースに対する共感や批判、反発など、読者がどんな意見を抱いているのかも推し量ることもでき、人気だ。書き込むこと、読むことの双方に根強いファンがいる一方で、人を傷付ける差別表現の温床にもなってきた。
 今回、運営するIT大手ヤフーが、三つのメディアが提供する「エンタメ」記事について、コメント投稿欄を閉鎖したことが5月に判明した。三つとは、小学館の「NEWSポストセブン」、主婦と生活社の「週刊女性PRIME」、東京スポーツ新聞社の「東スポWeb」。
 閉鎖のきっかけは、秋篠宮家を巡る誹謗中傷の深刻化だ。ネット上の誹謗中傷対策は、フジテレビのリアリティー番組「テラスハウス」に出演したプロレスラーの木村花さんが心ない中傷を受けて亡くなるなど、喫緊の課題。一方で、行き過ぎればデジタル社会で巨大な力を持つ「プラットフォーマー」のさじ加減一つで、表現の自由が脅かされる危うさもはらむ。(共同通信=仲嶋芳浩)

 ▽1カ月に230億回閲覧、圧倒的な存在

 ヤフーニュースは1996年に始まった。現在は新聞やテレビ、通信社など約670のメディアが1日計7500本程度の記事を提供している。
 存在感は日増しに高まっており、東京五輪・パラリンピックが開催された2021年8月の閲覧回数は230億回を突破した。
 比較のため、メディアが独自に運営するニュースサイトとして高い集客力を誇る「文春オンライン」の閲覧数を見ると、同じ月で6億回超。ヤフーニュースがいかに圧倒的な存在かということが分かる。
 その大きな特徴の一つが、コメント欄だ。ヤフーは07年から提供を開始した。目的は「多様な意見を共有し合い、新たな視点を得るきっかけを創出する」ことと説明している。読者は、ニュースの内容と、それに対する他の読者の反応の両方を見ることができる。コメント数が多ければ、人々の間で話題になっているテーマであることも分かる。ニュースそのものより、コメント欄を目当てに訪れる読者もいる。

 ▽コメント過熱、強まるヤフーへの風当たり

 コメント欄がない記事は、従来からヤフーニュースにあるが、欄を設置するかどうかは原則としてメディア側が判断していた。今回の措置は、ヤフーが特定のメディアのエンタメ記事だけを閉鎖した点で大きく異なる。
 その背景に何があったのか。ヤフーは「契約に関わる内容なので回答を控える」として詳細を明らかにしていないが、複数の関係者によると、きっかけは秋篠宮ご夫妻の長女小室眞子さんと、小室圭さんの結婚を巡る報道だ。
 週刊誌などは小室家の金銭トラブルや圭さんの米国留学中の生活、容姿などについて繰り返し報じ、ネット上の記事に対しては、コメント欄や交流サイト(SNS)で攻撃的な書き込みが相次いだ。

宮内庁=2008年

 宮内庁は21年10月、眞子さんがネット上での書き込みに心を痛め、複雑性心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されたと明らかにしている。
 ヤフーはこれまでも、木村花さんの件などを踏まえ、中傷対策を進めてきた。コメント欄については、人工知能(AI)を活用して問題がある投稿は削除したり、表示順を入れ替えたりしているという。21年10月中旬には、各記事について「違反コメント」が一定数に達した場合、その記事の全コメントを非表示にする措置の導入も発表した。
 それでも違反コメントを根絶することは難しく、差別的なコメントは現在もある。さらに、皇室報道を巡って中傷が過熱した結果、根絶できないヤフーへの風当たりも強まり、より踏み込んだ対応を迫られることになった。
 臆測に基づく記事や、内容が伴わないのに、読者の関心を引くためだけにつける、いわゆる「釣り見出し」はやめてほしい―。ヤフーは半年ほど前から報道各社に対し、こうした要請を強めた。一部のメディアについては対応が不十分と判断し、内部では記事の提供を受ける契約の解除まで議論の俎上に上ったが、協議の結果、3媒体とはコメント欄を閉鎖した上で契約を続けることで合意した。

 ▽「世論の操作も可能になる」

 今回のヤフーの措置に対する評価は、専門家の間でも分かれている。
 

国際大の山口真一准教授

 ネットの炎上問題に詳しい国際大の山口真一准教授は「世間の批判をあおるような報道で雑誌が部数を伸ばし、テレビが視聴率を稼ぐ動きは以前からあったが、ネット上で誹謗中傷がまん延する現在は、問題がより深刻化している」と指摘する。
 中傷はあっという間に拡散され、当事者の目に触れる可能性がある上、時間がたっても残り続ける。山口准教授は「メディア側が昔と同じように過激な報道を続けていると、悲劇的な結末を迎える可能性があり、配慮が求められている」と強調する。
 一方、巨大なプラットフォーマーであるヤフーが特定のメディアを対象にコメント欄を閉鎖したり、記事を選別したりすることの是非を問う声もある。
 メディアにとってはヤフーから受け取る配信料や、ヤフーを経由して自社サイトを訪れる読者は無視できない規模になっており、ヤフーの価値観や意向に沿う記事を出さなければならないという風潮が強まれば、報道活動の萎縮につながりかねない。
 

法政大の藤代裕之教授

 元徳島新聞記者で法政大教授の藤代裕之氏は、コメント欄は全て閉鎖すべきだとの考え。今後もフェイクニュースやヘイトスピーチの温床になる可能性があるためだ。
 ヤフーが自分たちの考えで記事を選別したり、コメント欄の投稿を削除したりすることで「世論の操作も可能になる」という懸念もある。コメント欄を残すのであれば「問題視する記事の基準を明確にし、読者が判断できるような透明性の高い運営にする必要がある」と訴えている。

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