飲水タイムを境に一変したFC東京 サイド攻撃で首位鹿島に快勝

J1 FC東京―鹿島 前半、先制ゴールを決め喜ぶFC東京・渡辺=味スタ

 天気予報では、前日から注意を呼びかけていた。5月29日の東京は梅雨入り前にもかかわらず30度を超す気温になる。猛暑日になる可能性もあるという。

 首位の鹿島アントラーズを味の素スタジアムに迎えたFC東京のJ1第16節。試合展開を大きく変える転機となったのは、暑さのために設けられた飲水タイムだった。

 FC東京のアルベル、鹿島のレネ・バイラー。欧州出身の監督に率いられ、戦術的に規律の取れた試合展開を見せる両チーム。キックオフ直後こそFC東京がボールを保持する時間が長かったが、主導権は徐々に鹿島に移っていった。それでも、ともに大きなチャンスはつくりきれない。お互いが激しくプレスを掛け、スペースを消す作業に忠実だったからだ。

 前半15分、鹿島は自陣から縦パスを送る。このボールを前線で収めようとした上田綺世とGKヤクブ・スウォビィクが競り合ってこぼれたボール。アルトゥールカイキが右足で狙ったがゴール上に大きく外れた。これ以後、ピッチの各局面でのつぶし合いが続き、ゴール前でのスリリングな展開はほとんどない。そこに変化を与えるきっかけとなったのが、前半24分に設けられた飲水タイムだった。

 「前半も後半も20分ほどで鹿島のインテンシティー(強度)が下がることも予想していました。飲水タイムの後、良い形でボールを保持することができました」。立ち上がりから淡泊だった前への意識。それを強く持つように促したアルベル監督の攻めの姿勢が選手に共有されていった。

 前半33分の先制点は、見事なパス回しからの美しいゴールだった。左サイドに張った小川諒也に森重真人から縦パスが入る。その小川の目の前を松木玖生が縦に走ったことで鹿島守備陣は迷った。選択として小川が見ていたのはゴール前だった。試合開始直後よりポジションを内側に変えていた渡辺凌磨に右斜め方向のパスが入る。渡辺は左斜め前にいたディエゴオリベイラにダイレクトでパスを入れ、右のスペースにダッシュ。正確なポストプレーでスルーパスを出してくれたディエゴオリベイラのラストパスを、渡辺は右足ダイレクトでニアサイドへシュート。ゴール右にたたき込んだ一発が自身の今季初ゴールとなった。

 左サイドから攻め、ディエゴオリベイラをポストに使って、渡辺がフィニッシュに持ち込む。前半42分の追加点も同じ形だった。起点となったのは左サイドの小川の縦パスだ。鹿島のブエノにマークされていたアダイウトンが巧みなターンでこれを置き去りにする。そしてゴール前のディエゴオリベイラに横パスを送る。ボールを収めたディエゴオリベイラは鹿島のDFともつれながらも、またも右サイドのスペースに丁寧なラストパス。フリーで走り込んだ渡辺は右足のアウトサイド気味に当てたキックで、今度はファーサイドに豪快なシュートを突き刺した。

 今季、リーグ14試合目にして待望のゴール。しかも2得点だ。チームに勝利をもたらした渡辺のゴールは、考え抜かれたものだった。「GKとの駆け引きに勝てたゴールだった。1点目はファーに蹴るふりをしてニアに蹴って、2点目はニアがGKの頭にあるかなと思ったのでファーに蹴りました。それがうまくはまった2点だった」

 FC東京のサイド攻撃の大きな武器となったのが、左タッチライン際を爆走したアダイウトンのパワーとスピードだ。鹿島の守備陣は、このドリブラーにとにかく苦しんだ。後半7分には松木の縦パスを受けたディエゴオリベイラのフリックしたボール。これに反応したアダイウトンが独走する。置き去りにされたブエノは追走し、スライディングタックルを仕掛けたが、ボールにコンタクトできずに結局はファウルとなった。このPKをディエゴオリベイラが決めて3―0と大きなリードを奪った。

 このほかにも、アダイウトンは独力で鹿島に脅威を与え続けた。前半にも後半にも、ドリブル突破からGKとの1対1になる決定機をつくり出した。フィニッシュはGKに当ててしまったが、シュートの正確性が備われば恐ろしい存在になるだろう。

 一方、鹿島は直後の後半9分、得点王争いトップの上田が10ゴール目を決め1―3とした。しかし、反撃もここまで。前節のサガン鳥栖戦も3点を先取され、結果的に4―4で引き分けるという粘りを見せたが、この日は同じようにはいかなかった。すぐ横に座っていた鹿島のジーコさんも浮かぬ顔だった。

 FC東京はサイドの選手の活躍が目立った。右サイドバックを務めた長友佑都は、鹿島の攻撃の起点となる鈴木優磨を的確に抑え込んだ。ポルトガル1部リーグのクラブへの期限付き移籍が決まっている小川は、ホームでの最後の試合で得点にも絡み、攻守に存在感を見せた。その意味で満足できる「サヨナラ試合」となったのではないか。

 この日、スタジアムの気温は公式記録では28.2度。湿度も低かったので、夕方にはさわやかな風が吹いていた。そして、考える。この日、飲水タイムが設けられていなかったら、試合途中でFC東京にあれだけの変化はあったのだろうか。こういうほんの小さなきっかけで、サッカーというのは展開が変わってしまう。あらためて、そう思いながら帰途についた。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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