愛知県沖を航行する無人の船…実は千葉市のビル内から遠隔操作していた 自動で衝突回避、GPSやレーダーも活用

「無人運航船」に向けた改修が進む既存のコンテナ船「すざく」=2021年12月、広島県尾道市

 千葉市のビルの一室にある遠隔コックピットで、「船長」が長さ十数センチのジョイスティック動かすと約40秒後、目の前のスクリーンに映し出された全長約100メートルのコンテナ船の軌跡がゆっくりと左に曲がり始めた。船長は陸上、船はここから約280キロ離れた愛知県沖を航行している「無人運航船」だ。(共同通信=澤野林太郎)

 ▽まるで「宇宙戦艦ヤマト」

 衛星利用測位システム(GPS)や最新レーダーを使い無人で海を航行する無人運航船が今年3月、東京湾~伊勢湾を往復する実証実験に成功した。
 「ここで無人運航船を遠隔監視します。何か起きたらここから地球の裏側の船でも操縦できます」。日本郵船グループの日本海洋科学(川崎市)の桑原悟さんが説明する。まるでアニメ映画「宇宙戦艦ヤマト」の船内にあるようなコックピットに座ると、目の前には大小12の画面が設置され、船からリアルタイムに送られてくる周囲の様子が映し出されていた。

遠隔コックピットでジョイステックを使い無人運航船を操舵する桑原悟さん=3月、千葉市

 無人船には高性能レーダーやカメラが搭載されており、周囲の船の位置や速度、進む方向をシステムが自動で把握し、衝突を回避する。岸壁との距離を測って船の速度を調整し、港への離岸や接岸もこなす。目的地を設定するとGPSや海図、海流や過去の運航ルートを参考に最適なコースを自動で決定してくれる。桑原さんは「船長や機関長の頭の中にしか入っていなかった長年の経験や技術をデータにした。経験を重ねた船長が数時間かけて作成していた航路がわずか5分で完成する」と話す。

 ▽担い手不足

 2025年の実用化を目指し、日本財団が主体となり国内の約30社が協力し、「DFFASプロジェクト」と名付けて無人船の研究開発に挑む。
 無人船は造船会社の三和ドック(広島県尾道市)で既存のコンテナ船「すざく」を改修した。多くの船が行き交う海域での航海は危険が伴い、荒天やしけ、船の故障も想定されるため24時間態勢で陸上のコックピットから監視する。安全確認のため当面は関係者約30人が乗り込んだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、巣ごもり消費が増え海上輸送の需要は膨らんでいるが、乗員は人手不足状態。中国から米国への家具や家電の輸送が増え、物流コンテナの不足から世界の海上輸送の料金は高騰している。国土交通省によると、国内の海運を担う船員は約2万8千人。厳しい労働条件や一度航海に出たらしばらく自宅に戻れないなどの理由から担い手の高齢化や人手不足が懸念される。海の上でも自動運転が課題解決の切り札となるかどうか注目される。
 日本財団の海野光行常務理事は「ノルウェーやフィンランドでも無人運航船の開発が進んでいる。多くの日本企業の技術を結集させる」と話している。

無人運航船の実証実験を始めると発表した日本財団の笹川陽平会長(中央)ら=2020年6月、東京都港区

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