【ライヴ・レポート】沖野修也率いるKYOTO JAZZ SEXTETと巨匠ドラマー森山威男がステージ上で激突

Photo by 佐藤拓央

KYOTO JAZZ SEXTET feat. 森山威男
~New Album "SUCCESSION" Release Live
5月26日(木) ブルーノート東京にて開催

世界的なDJ/ミュージック・インフルエンサーの沖野修也が率いるストレート・アヘッドな生演奏コンボが、KYOTO JAZZ SEXTETだ。その新作『SUCCESSION』の真価をさらに広げる公演を、2022年5月26日に見た。“feat. 森山威男”と名義された同作は、日本ジャズ界のリアル・ジャズのアイコンである森山威男が全面的に参加した話題作である。

その森山は1960年代後期に一番血気盛んであった時代の山下洋輔トリオに入ったことを端緒に、自らの澄んだジャズ観を照射する男っぽい表現を送り出してきたリジェンダリーなドラマーだ。そんな森山のリーダー楽曲は英国をはじめとする欧州のジャズDJからも人気で、彼の過去作のリイシューも進められている。自らのジャズ観を投影するKYOTO JAZZ SEXTETで御大に叩いてもらいたいと沖野が考えたのは、そういう時流もあった。そして、『SUCCESSION』は森山の曲をDJ時に回してもいた沖野による、今の耳でセレクトされた森山名曲集という趣もある。

会場はブルーノート東京。ステージ上には、6人のミュージシャンが立つ。その両端には、MCとサウンド・エフェクトを担当する沖野修也とドラムの森山威男が位置する。その2人の間にはトランペットの類家心平とテナー・サックスの栗原健、そしてピアノの平戸祐介とダブル・ベースの小泉P克人がいる。

Photo by 佐藤拓央

森山威男のしなやかにして芯を持つドラミングで始まったオープナーは、『SUCCESSION』と同じく「フォレスト・モード」だ。もう、のっけから6人は世代を超えて覇気ある生一本のジャズを奏でることができる歓びと誉を溢れ出させる。テナー・サックスのソロの際に栗原は横を向き、森山とまさしく対峙。そして、森山を挑発するかのように雄々しくブロウし、巨匠はそれを嬉しそうに受け止め、逆に煽り返すかのようなテンションに満ちたドラム演奏を栗原に返す。おお、そのちょっとしたやりとりだけで、このセクステットの意義が可視化される。

Photo by 佐藤拓央

それは、以下も同様。沖野が森山に書き下ろした濃密な情緒が印象的な「ファーザー・フォレスト」や新主流派的な蠢き感をメロディアスに表出する「風」、名曲の誉れ高い雄大な「渡良瀬」など、ヴィヴィッドにしてエモーショナルなジャズでしかない演奏が続く。はっきりしているのは、アルバム・ヴァージョンから飛躍するインタープレイがそこで繰り広げられたこと。この事実は音楽とは生き物であり、とくにジャズはいかなる予定調和も良しとしない鮮烈な表現であることをリアルに提示していた。『SUCCESSION』を聴き込んだ人ほど、その新たな発展の様に驚かされたのではないか。そういえば、アルバムでは「渡良瀬」だけにサウンド・エフェクトを加えていた沖野だったが、ここで全面的に入れて、新たな手触りを加えていた。

Photo by 佐藤拓央

アンコールでは、坂本九の「見上げてごらん夜の星を」を披露する。藝大打楽器科で学んだ森山はオーケストラのパーカション奏者になるかそれともジャズの道に進むかで迷っていた際に、この曲を聞いて感じ入りジャズの道に邁進しようと思ったと、ステージで発言。なんか曲や音の一つ一つにバック・ストーリーがあるような味や奥行きがありまくり。と、書いてもそれはなんら誇張にならないだろう。森山は現在77歳だが枯れたドラム奏法ではなく、奏者たちを鼓舞し時にアウトしちゃうきっかけも与え、サウンド総体に核を与えまくる強度と瞬発性の高い打音を送り続けていたのは驚異的。しかし、それもKYOTO JAZZ SEXTETのメンバーたちの創意と熱量が触媒となったのは疑いがない。

Photo by 佐藤拓央

<変わらなくていいストロングなジャズの本懐>と<DJミュージックの機知も知る奏者のしなやかなジャズ感覚>の交錯があり、<ジャズ黄金世代のあくなき好奇心や向上心>と<伝説的な存在への、息子世代とも言えるミュージシャンたちの憧憬やリスペクト>の相乗の美が渦巻く。その様は破格で、想像しえる以上のもがあったと言うしかない。そんな彼らにこの先がもっともっとなきゃ、と思わずにはいられなかった。

文:佐藤英輔
写真:佐藤拓央
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【リリース情報】

KYOTO JAZZ SEXTET feat. 森山威男
アルバム『SUCCESSION』
UCCJ-2206 ¥3,300(税込)

DL / Streaming

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