〈あゆLOVEフィッシング―上園あゆみ〉
磯の王者とも称されるイシダイ。釣り人の中ではイシガキダイと共に「石物」と呼ばれ、特別な魚として扱われている。それはイシダイが長生きすること、大きくなるのにかなりの時間がかかること、なかなか釣れないことにも起因していると思われる。
餌はウニや貝。ウニのとげは専用のはさみでカットし、貝は硬い殻をハンマーでかち割る。仕掛けはワイヤに金具、頑丈で大きな専用のイシダイ針。あらゆるものが他の釣りとは違う。私がイシダイ釣りに出合ったとき、明らかにそれは「別格」の釣りだった。
釣り人は、敬意を込めてイシダイ専門の釣り人を底物師と呼ぶ。春は産卵の季節を迎えた大型のイシダイが、浅場の磯へとやってくるため、底物師にとって、自身の持つ記録を更新するにはまたとないチャンス。今年は水温の上昇が遅れたが、ようやく水温が安定し、釣果も聞かれるようになった。
イシダイというと、しま模様。その見た目から「シマダイ」や「サンバソウ」とも呼ばれるが、このしま模様は成長するにつれて不鮮明になっていく。特に老成したオスは全身が鈍い光沢がかった紫のような色になり、口周辺は黒くなる。「銀ワサ」「クチグロ」とも呼ばれ、底物師の憧れだ。狙うは60センチ以上の大物。それが釣れると次は70センチを目指す。ただ、ヒット率は極めて低く、幻の魚と呼ばれている。
私自身も10回連続ボウズを食らった経験がある。ただ、その難しさが故に釣れたときの感動はひとしおである。たくさん釣れる釣りももちろん楽しいが、なかなか釣れない釣りにはロマンがある。一筋縄ではいかないイシダイの魅力に魅せられた釣り人は多く、この時期になるとお気に入りの磯へ自慢の釣りざおをもって出掛けていく。
鹿児島は日本でも有数のイシダイ釣りのフィールドを有する。北は長島、甑島、そして坊津、枕崎、桜島、佐多、内之浦、種子・屋久などだ。私も今シーズンは、早々56センチの良型に出合うことができた。イシダイの引きは強烈で、その姿はとても美しい。感動冷めやらぬまま、次のイシダイ釣行のことで頭がいっぱいだ。