【橋下徹研究⑨】「副市長案件」に潜む2つの巨大な闇|山口敬之【WEB連載第9回】 橋下徹氏は「副市長案件」「問題ない」「花田らは完全に炎上商法」の立場だが、罵詈雑言のみでこちらの問いかけにはまったく答えていない。咲洲メガソーラーは、外形上は「月額55万円の市有地賃借契約」であり、通常なら「局長案件」だったはずだ。なぜ、「副市長案件」に格上げされたのか。

松井市長も吉村知事も沈黙を守っていたが…

大阪市の「咲洲メガソーラー」への上海電力の不透明な参入問題について、私が告発を始めたのは3月下旬だが、その後2か月にわたって大阪市長の松井一郎氏と大阪府知事の吉村洋文氏は基本的に沈黙を守っていた。ところが先週、ほとんど同じタイミングで異口同音に発信を始めた。

最初に口火を切ったのは松井市長だ。テレビ東京系のネット番組のなかで上海電力問題について松井氏が初めて語る動画を観て、私は目と耳を疑った。前回の記事では全文を掲載したが、今回は特に、松井氏の現職市長としての問題発言を再掲する。

「日経テレ東大学」

松井市長
メガ発電事業で、これは政府が後押しして「やれやれ」という話だったからね。それに手を挙げたのが、日本の会社をトップとするグループだった。そのグループがその後入れ替わって、そこに上海電力が入ってた。これだけのことです。

ひろゆき
それで、契約条件としては他の地域と一緒で、たぶん同じ値段で電気を買い取るだけで、何か(上海電力に)特別な便益を与えているわけではないんですよね?

松井市長
これは、まったく他の案件と同じです。

ひろゆき
そしたら、何が具体的にマズいんですか?

松井市長
それが僕はわからない。

私が最も驚いたのは、松井氏が中国国務院の支配下にある上海電力が大阪市でメガソーラー事業を行っても、何の問題もないと言い切ったことだ。私はこれまで「維新」を事実上率いている松井市長に対して次のような認識を持っていた。

(1)国民の生命を守ることを重視する保守政治家
(2)首長として責任を部下に押し付けず、トップとして責任を取る新世代の政治家
(3)意見が対立する相手に対して、礼節をわきまえた議論をする真っ当な政治家

国政においても「日本維新の会」は、たとえば憲法問題では「改正すべし」という立場を明確にし、腰の重い与党とはまったく違う存在感を示すなど、「新しい保守政党」という立ち位置で有権者の支持を集めつつあり、来月に迫った参院選での伸長を予測する政治評論家も少なくなかった。

ところが、上海電力をめぐる松井知事や吉村知事のSNSなどでの発信を見る限り、維新という政治勢力は「国民の生命と安全を最優先する」という、保守政党としての要件をまったく満たしていないことは明らかだ。

インフラの安全を顧みない松井市長

私が「橋下徹・上海電力疑惑」の取材を始めたのは、ちょうどロシアがウクライナに侵攻した3月下旬だった。

ロシアがNATO加盟を目指すフィンランドへの送電を停止する措置に出るなど、有事となれば電気や天然ガスといったエネルギーやインフラが直接的なターゲットになるという戦争の現実を連日見せられるなかで、「日本の公共発電を外国の企業に任せていて大丈夫か?」という問題意識は日増しに強まっていった。

特に中国では、2010年に国防動員法という法律が成立し、中国政府が有事を認定すれば中国国内のみならず世界中の中国人は国務院の指揮の下で、中国政府・中国共産党・人民解放軍への全面協力を義務付けられる。

上海電力日本は「上海電力股份有限公司」という中国の会社の100%子会社で、経営的にも国防動員法的にも国務院の完全支配下にある企業だ。

上海電力問題の最も重要かつ深刻な部分は、「日本のインフラが外国勢力によって人質にされているのではないか」「ひとたび有事となれば突然発電を止められたり異常な電流を流されたりしないか」という、日本国民の生命に直結した「今そこにある危機」である。

ところが松井氏は、中国政府が完全支配する上海電力に日本のインフラをゆだねることについて、「何かマズいんですか?」という対談相手の発言に対して、「それが僕にはわからない」と言い切った。

現役の大阪市長として、中国政府の直接的支配下にある上海電力に公共発電をゆだねても「マズくない」という認識をはっきり示したと言える。

吉村知事も、この関連では「当時の副市長に確認した」「橋下氏からの指示はなく、橋下氏への相談もなかった」などと手続き論に関する発信に終始し「インフラの安全を確保する」という首長としての問題意識や方針には一切触れていない。

松井市長や吉村知事は、国民・市民の生命と財産の保全よりも、維新結党時の功労者である橋下徹氏の擁護を優先した。言い換えれば「保守政治家」「保守政党」とは程遠い存在であると自ら暴露したに等しい。

大阪市長は何をすべきだったか

橋下氏や松井氏は、
「手続きに違法性がないから問題ない」「外国企業だからと言って排除できない」「地方自治体の首長の仕事ではない」という。

しかし、法的手続き的に上海電力を排除できなかったとしても、上海電力の参入を知った段階で、大阪市のインフラを守るために大阪市長としてできることや、やるべきことはたくさんあったはずだ。

上海電力が咲洲メガソーラーに関与するということを大阪市が確実に知ったのは、いちばん遅くても2014年3月16日、咲洲メガソーラーの着工式の日だ。

何しろ入札に参加せず、完全な無契約・無関係な存在だった上海電力の社長がこの日、突然、咲洲メガソーラーの着工式に現れ、落札者である伸和工業と仲良く並んで鍬入れ式を行ったのである。

橋下徹市長は上海電力の参入を着工式以前から知っていた可能性が高いが、少なくともこの日以降は、「上海電力の参入は知らなかった」「副市長案件だから知らなかった」という言い訳は成り立たない。

何しろ鍬入れ式には大手マスコミが取材にやってきて、朝日新聞や新華社通信など内外のメディアが大きく報道したのだ。

私がまず問題にしたいのは、「橋下徹市長は上海電力の参入を知ってどう行動したか」ということである。たとえ制度的に上海電力の参入を防ぐことができなかったとしても、
・まず市民に上海電力参入の事実を伝え、
・国防動員法とのかかわりについて上海電力に質問状を送ったり、協議を行って念書を交わしたりするなど、市民の心配を払拭する努力をなぜしなかったのか。

大阪市のインフラの安全確保に向けて、市長にはできること、やるべきことがいくらでもあったはずだ。そもそも維新は「徹底的な情報公開」を売りにしてきた政党ではなかったのか。なぜ上海電力の参入が確定した段階で、市民にアナウンスしなかったのか。

もし国防動員法の観点からも問題がないと判断したのであれば、その見解と根拠を発表して、市民を安心させるべきだった。

しかし橋下氏は上海電力の参入を市民にアナウンスしなかった。「徹底した情報公開」という掛け声とは裏腹に、なぜ真逆の「隠蔽」という判断をしたのだろうか。

お得意の「徹底的な情報公開」はどこへ行った?

橋下氏・吉村氏・松井氏という3人の維新の歴代大阪市長は、今日に至るまで、上海電力の事業参加について大阪市民に一切のアナウンスをしていない。

その一方で、3氏はネット動画やツイッターなど非公式な媒体で「手続きに問題はなかった」「橋下氏は関与していない」など手続き論をつぶやくばかりで、インフラの安全確保について大阪市の方針を市民に伝える気などまったくないのだ。

橋下氏に至っては、批判者を口汚く罵り、上海電力問題とは無関係なことで誹謗し、醜悪な人格を余さず露呈している。残念なことだ。

中国に国防動員法という法律があるからこそ、今回の上海電力問題が大きな注目を浴びているのだ。

今からでも遅くはない。大阪市は、上海電力のメガソーラー参入が国防動員法に照らして問題がないというなら、その根拠と見解を市民に示すべきだ。

問題があると認識しているのであれば、上海電力側と協議を続けるなり、契約解除の方法を模索するなり、市民の安全確保のために考えうる全ての措置をとった上で、維新お得意の「徹底的な情報公開」に邁進すべきだ。それがまともな政治、まともな政党の選択だ。

国民・市民の生命財産を守るために全力を尽くさないどころか、情報公開を渋り、自己弁護に走るような集団に、大阪やこの国の政治を託すわけにはいくまい。

「副市長案件」という闇

インフラの安全についてまったく触れない松井氏らが、ここへきて繰り返し主張しているのが「副市長案件」「港湾局長決裁」という2つの単語である。

彼らが言いたいのは、「咲洲メガソーラーに関する決定は橋下徹市長ではなく、橋下市長によって副市長に抜擢された田中清剛氏が行った」ということのようである。

全ての決裁をしたのは当時の副市長・田中清剛氏であり、咲洲メガソーラー自体が「副市長案件」だったというわけだ。

田中清剛氏は建設局長を最後に2011年に大阪市職員を辞め、 2012年2月に橋下徹新市長が副市長に抜擢した時には、外郭団体「都市技術センター」に理事長として天下っていた、大阪市職員OBだった。

「天下り根絶」を掲げていた橋下氏が、天下りしたばかりのOBを副市長に抜擢したことで、当時は大いに物議を醸した。

そして田中氏はその後7年の長きにわたって副市長を務めたあと、2019年4月には吉村洋文知事によって、何と大阪府の副知事に大抜擢された。橋下氏や維新にとって「かけがえのない」特別な人材であることがわかる。

ここでもう一度、吉村知事のツイートを見てみよう。

要するに、松井市長も吉村知事も、咲洲メガソーラーについての重要事項は全て田中清剛副市長が判断したのであって、橋下市長には相談せず指示も受けていないというのである。

そう言えば橋下氏も「年間数万もある案件の全てを市長が把握できるはずがない」との主旨のツイートをしている。「市長が何万件もの入札や決裁をすることは不可能」という論理だ。ところがこの説明には、実は決定的に不自然な所が2つある。

なぜ「局長」でなく「副市長案件」に昇格したのか

咲洲メガソーラーは、外形上は「月額55万円の市有地賃借契約」である。それなら、通常なら「副市長案件」ではなく、「局長案件」だったはずなのだ。

たとえば大阪市は今年2月、咲洲メガソーラーがある此花区で同様の市有地賃借の入札を行なっている。

入札予定価格と落札価格を咲洲メガソーラーと比較すると、次のようになる。

[此花区桜島]
入札予定価格 658,909円
落札価格 1,100,000円

[咲洲メガソーラー]
入札予定価格 550,000円
落札価格 550,001円

桜島物件の決裁を行ったのは大阪市契約管財局長。副市長や市長に報告したかどうかは別だが、決裁の最後のハンコをついたのは局長だ。こういうものを「局長案件」と呼ぶ。

桜島物件も咲洲メガソーラーも、市有地の賃借に関する「制限付き一般競争入札」だ。もし大阪市が「局長案件」と「副市長案件」と「市長案件」を金額の大きさで決めているのであれば、桜島よりも予定価格も落札価格も低い咲洲は「副市長案件」「市長案件」ではなく「局長案件」だったはずだ。

咲洲メガソーラーを扱った港湾局は、フェリーやコンテナ船のバースなど巨額の賃借契約を担当するため、特に2012年当時は局長の権限が強く、咲洲のような月55万円程度の不動産賃借は間違いなく局長の裁量で決裁できたという。

金額的には安い咲洲物件が「局長案件」ではなく「副市長案件」に格上げされたのはなぜなのだろうか。

それはもちろん、金額以外のことが考慮されたからである。その決め手となった人物こそ、2011年12月に市長に就任した橋下徹氏だった。

橋下市長に報告しなかったはずがない

2012年9月19日、橋下市長は市議会でこんな発言をしている。

蓄電池、それから太陽光発電等について、今非常に喫緊の課題となっている電力の問題について、ベイエリアを中心にしっかり国際戦略総合特区の中でアジアの拠点になるように引っ張っていこうと思っています。ですから、あの地域にメガソーラーを引っ張ってこれることになりました。(中略)

本来あれはもうどこでも貸せば、みんな借りたい、借りたいという業者が山ほど出てくるんですよ。ただ、以前もうある業者に決めてしまってたので、それをひっくり返すことはできないということを、僕は報告聞きましたから、それだったら、今やもうその業者にしなくても、どこでもみんなが賃料を払ってでもやりたいとかいろいろなことを言ってくる中で、もう既に過去に決まってたからといってその業者にするんだったら、地元還元か何かするような仕組みを考えてよと。

要はあれ、もうかるんですよ。メガソーラーをやれば今はもうもうかる仕組みになってます。その利益をやっぱりそれは地元還元するような仕組みを考えてということを担当部局に今指示を出しています。

僕は一般財源から特定の配慮ということではなくて、此花というところは環境都市、夢洲・咲洲・舞洲は環境都市、そういう軸でくくっていこうという中で、メガソーラー、一方、これはプラスのある意味環境戦略ですね。

(2012年9月19日、橋下市長発言)

新しい市長が咲洲や夢洲など大阪湾でのメガソーラー事業について熱く詳細に語っていたのである。

この橋下市長の発言を精査すれば、咲洲の隣の「夢洲メガソーラー」については、大阪市の幹部が橋下市長に詳細に説明していたことがわかる。

これに対して橋下氏も「いったん決まった業者を変えられないのか」とか「地元還元するように考えろ」など、非常に細かい要求をしていた。

それなのに南隣の咲洲メガソーラーについては、田中清剛副市長だけがすべてを決め、橋下氏には一切相談もせず、橋下氏からも何の指示も出なかったというのか。

そもそも、書類上の決裁が副市長だからといって、重要な案件なら市長に「報告」「連絡」「相談」するに決まっている。「決裁が副市長だった」ということを盾に、「橋下徹氏は咲洲メガソーラーについて何も知らず、何も指示を出していない」という証明にはならないのだ。

松井市長・吉村知事の「全ての決裁は田中清剛副市長」という弁明は、「橋下徹氏は何も知らなかった」ということの証明にはまったくなっていない。

もうひとつの大きな疑惑

一方で、大阪市は「咲洲メガソーラーの決裁、すなわち書類上の処理は全て『田中清剛副市長が行った』」と主張している。
私はその説明まで虚偽説明だとは思っていない。

逆に、もし田中副市長が咲洲メガソーラーに関する全ての決裁の責任者にさせられていたとすれば、それこそが深い闇の入り口だと見ている。

橋下徹市長は、2012年8月には咲洲メガソーラーの様々なリスクを熟知しながら事業をゴリ押しし、だからこそ自らの身の安全のために副市長に全てを決裁させたという疑惑である。

大阪市の幹部は、事業規模的には「局長案件」という扱いで十分な咲洲メガソーラーの不動産賃借契約を「副市長案件」に格上げした。

その一方で大阪市港湾局と田中副市長は、咲洲メガソーラーに関する強い思い入れについて議会で熱弁した橋下市長には、一切の報告も相談もせず、指示も受けていなかったことにし、決裁も「副市長案件」という体裁を取った。

橋下市長がもし、咲洲メガソーラーについての説明は聞いていたが、決裁は副市長にやらせていたとすれば、そこにどういう意図があったのか。

橋下市長が咲洲や舞洲のメガソーラー事業について議会で熱弁を振るった2012年9月といえば、大阪市港湾局内部で咲洲メガソーラーの計画が具体的に進み入札に向けた準備が急ピッチで進められていた時期だ。

その3か月後には「伸和工業」と「日光エナジー開発」という、太陽光ビジネスの実績がまったくない2社で作る企業連合体だけが応札し、しかも入札の条件である納税証明書を提出できなかった日光エナジー開発の書類不備が見逃され、ついに成約に至るという異常事態が起きた。

大阪市の幹部にとって、本来は入札段階で書類で弾かれるはずの企業と契約を結んでも自分には何のメリットもないどころか、自らが逮捕されることもありうる極めて危険な行為だ。誰の指示でそんな危険な行為に手を染めたのだろうか。

しかも、2013年7月1日までに発電を開始するという契約は無視され、工事すら一向に始まらなかった。ここで、大阪市は伸和工業らとの契約を破棄すべきだったが、この時もやるべきことをやらず契約不履行を看過した。この異常な判断を指示したのは一体誰なのか。

そして、2014年3月16日にようやく行われた着工式に突然登場したのが、この時点では無契約無関係の上海電力だった。大阪市港湾局は入札の意味を完全に無視したこの事態も黙認した。

極めて不透明な入札の果てに実績ゼロの企業体が落札し、工事大幅遅延の末に上海電力が登場するという異常な展開を見せた咲洲メガソーラーのイカサマ性を最初から知り尽くしていたとしたら、自分のハンコは撞きたくないというのが人情だろう。

橋下徹氏や松井一郎氏は「入札など行政手続きには問題はまったくなかった」といつまで言い続けていられるだろうか。

(つづく)

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山口敬之

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