なにわ筋線は実験室!?鉄道プロジェクト目白押しの関西で初開催、「鉄道技術展・大阪」レポート(前編)【コラム】

会場風景。本体とグループで出展したJR西日本ブースはもっとも目立っていました。同社の主な出展内容は後編でご紹介します(筆者撮影)

国内唯一の鉄道総合技術展示会「鉄道技術展・大阪」が、2022年5月25~27日に大阪市住之江区のインテックス大阪(4・5号館)で開かれ、1万8348人が来場しました(参考・2021年11月の「鉄道技術展2021」は2万4717人)。2010年に初開催された鉄道技術展は、2021年秋まで7回の展示会を千葉市の幕張メッセで重ねてきましたが、今回初めて会場を大阪に移しました。

会場入り口のボード。多くの来場者がボードをバックに記念撮影していました。これぞ「鉄道技術展・大阪」の映(ばえ)えスポット!?(筆者撮影)

関西エリアでは、大阪のキタとミナミを地下で結ぶ鉄道新線「なにわ筋線」、大阪・関西万博(2025年)の会場アクセスになるOsaka Metro中央線の夢洲(ゆめしま)延伸をはじめ、鉄道プロジェクトが目白押し。関西の鉄道事業者7社が特別協力した技術展では、JR西日本、阪急電鉄、近畿日本鉄道、Osaka Metroの4社幹部がそれぞれの針路を示すなど、関西開催にふさわしい情報が発信されました。

英語名は、「Mass-Trans Innovation Japan Osaka 2022」。産経新聞社が主催し、産業見本市企画のCNTが共催、国土交通省近畿運輸局、大阪府、大阪市、大阪商工会議所が後援、前記4社のほか南海電気鉄道、京阪電気鉄道、阪神電気鉄道の3社をあわせた関西鉄道7社が特別協力しました。

出展者は270社・団体。併催セミナーも、共通テーマの「アフターコロナを見据えた鉄道事業者の攻めの戦略」を中心に興味深いプログラムが並びました。技術展のリポートは前後編の2回に分け、本稿ではセミナーの特別講演から関西鉄道界の針路を探ります。

なにわ筋線から新しい企業価値を創造(JR西日本)

特別講演を終えた緒方JR西日本副社長。JR西日本の針路を「地域共生企業としての使命を果たす」「挑戦し続ける企業になる」の2項目に集約しました(筆者撮影)

併催セミナーで鉄道事業者のトップバッターを務めた、JR西日本の緒方文人代表取締役副社長・鉄道本部長。「めざす未来に向けたJR西日本グループの技術戦略」と題して特別講演しました。2023年春開業を予定する、なにわ筋線の駅から、新しい企業価値を生み出すのがJR西日本グループの基本姿勢です。

まずは「なにわ筋線」のプロフィール。線区名通り、なにわ筋の地下を南北に貫く鉄道新線で、北梅田駅とJR難波駅、南海本線新今宮駅を結びます。ルートは図の通りで、JR難波―西本町間はJR営業区間、新今宮―南海新難波―西本町間は南海営業区間、西本町―中之島―北梅田間はJR・南海共同営業区間と区分されます(一部の駅名は仮称です)。

なにわ筋線路線図。うめきた駅を経由してJR京都線に合流する区間は、正式にはJR東海道線の支線にあたります。なにわ筋線は地上を走る支線を地下化します(資料:JR西日本)

北梅田駅についてJR西日本は、「うめきた(大阪)地下駅」(うめきた駅)と呼称、大阪駅の一部として営業を始める考えです。うめきた駅以北はJR京都線(東海道線)に合流して、新大阪にいたります。

うめきた駅でプロジェクト「JR WEST LABO」を始動

大阪駅北側のうめきたエリア全景。ご存じの方も多いと思いますが、元々は「梅田貨物駅」という国鉄の貨物駅でした(画像:JR西日本)

JR西日本は、うめきた駅の真上に駅ビルなどを建設するとともに、新駅を起点に新しい価値創造に挑戦するプロジェクト「JR WEST LABO」をスタートさせる考えです。現代の鉄道は、多種多様なパートナーと手を組んでの課題解決が求められます。そのLABO(実験場)が、うめきた駅のプロジェクトです。

JR西日本の技術戦略の基本は、「インバウンド」と「アウトバウンド」。優れた部外技術を積極的に取り入れる(インバウンド)一方、自社開発した新規技術を発信・提供(アウトバウンド)して、社会全体の技術進化とJR西日本グループの収益拡大に役立てます。

新しいホームドアや自動スロープ

鉄道ファンには、うめきた駅の新しいホームドアや自動スロープ(ホームステップ)に注目する方がいらっしゃるかも。

うめきた駅にはJR西日本と南海電気鉄道の特急と一般車両が停車します。天井に届くフルスクリーンのホームドアは、うめきた駅に停車する全車両に対応します。緒方副社長は、「ふすまのように自由自在に動く」と表現しました。可動スロープは、ホームと列車の段差やすき間を自動計測して埋めます。

一般車両、特急車両それぞれで開口位置が変わるうめきた駅ホームドア=イメージ=。ドア横の大型サイネージには到着列車の情報などを表示します(画像:JR西日本)

暮らしやすく幸せ感じる沿線づくり(阪急)

続く阪急電鉄。上村正美専務・都市交通事業本部長が、「次世代の鉄道と沿線まちづくり」のタイトルで、暮らしやすく幸せを感じる沿線づくりの取り組みを紹介しました。

阪急電鉄にも、新線計画があります。「阪急なにわ筋・新大阪連絡線(仮称)」は、うめきた~十三―新大阪間の鉄道新線。関空に降り立った訪日客に十三経由で京都、宝塚、神戸を訪れてもらいます。

もう一つの新線が、「阪急大阪空港線(同)」。宝塚線曽根と伊丹空港を結び、梅田―伊丹空港間を直行できます。各線とも開業時期などは未定ですが、上村専務は実現に向けて努力する考えを示しました。

阪急グループの北大阪急行にも新線計画があります。北大阪急行線の千里中央―箕面萱野間約2.5キロの延伸。開業目標は2023年度です。

期待される整備効果は、「道路渋滞の緩和」と「バス交通に比べた所要時間短縮」。北急はOsaka Metro御堂筋線の相互直通路線で、路線延伸で大阪市中心部へのアクセスが大きく向上します。

ある時は架線集電、またある時は第三軌条集電。その正体は?(近鉄)

近鉄の戦略を明かしたのは、安東隆昭取締役常務執行役員・鉄道本部副本部長。「『選ばれる近鉄』に向けた戦略・取り組み」の特別講演で、鉄道ファンが関心を持つのは多分これ。「可動式第三軌条用集電装置」と「フリーゲージトレイン(軌間可変電車=FGT)」でしょう。

本サイトでも技術開発の方向性が紹介された、可動式第三軌条用集電装置は架線電化の近鉄奈良線と第三軌条電化の近鉄けいはんな線・Osaka Metro中央線を直通運転する集電システムです。

可動式第三軌条用集電装置概要(画像:近鉄)

近鉄の部内的な呼び方は「IR列車」。大阪市が、此花区の人工島・夢洲(ゆめしま)への誘致を構想する、IR(統合型リゾート)への来訪客を奈良や京都に誘います。

国交省からの委託で開発に取り組むのがFGT。線路幅1435ミリ(標準軌)の近鉄橿原線と、1067ミリ(世界的には狭軌ですが、日本ではJR在来線など幅広く採用されます)の近鉄吉野線を直通運転できるようにして、京都、奈良(標準軌)などから、吉野方面(狭軌)へ乗り換えなしで向かえるようにします。

近鉄が最近、力を入れるのがざん新な車両デザイン。「青の交響曲(シンフォニー)」には、一般的な工業デザイナーに代わり、店舗デザイナーを起用。「ひのとり」プレミアム車両の本革シートのメンテナンスには、自動車関連メーカーのアドバイスを受けます。

RDEで阪急の観光特急「京とれいん雅絡」のこだわりを語る(アルナ車両)

最後にワンポイントですが、技術展2日目に開かれた「レイルウェイ・デザイナーズ・イブニング(RDE)」。メーカーや鉄道事業者に加え、デザイン事務所、フリーで活動するデザイナーが情報交換する場として今回、8回目を迎えました。

全体テーマは「心地よさをデザインする」。日本鉄道車輌工業会の「鉄道車両デザイン研究会(RDA)プレゼンテーション」では、阪急電鉄が2019年3月にデビューさせた観光特急「京とれいん雅洛(がらく)」をインハウス(社内)デザイナーとして手掛けた、アルナ車両第1事業部営業・技術部(設計)の大村知也部長が、車両へのこだわりを語りました。

大村部長がデザインを手がけた「京とれいん雅洛」(写真右)。神戸線の通勤用7000系電車を改造。コンセプトは「乗車したときから京都気分」で、リニューアル前の3ドアから2ドアに。中央ドア部は丸窓に変えて京扇を表現します(写真:鉄道チャンネル編集部 2019年3月撮影)

雅洛は、「和モダン・京町屋」がデザイン面のモチーフ。料金が不要の特急として、リピーターや雅洛ファンを確保するのがデザイナーのこだわりです。

列車は6両編成ですが、車両ごとにデザインを変えて行きと帰り、さらに乗るたびにフレッシュさを感じてもらう趣向。大村部長は、「七宝紋」「更紗」「業平菱」「鱗(うろこ)文様」といったキーワードを例示。「ぜひ一度ご乗車いただき、列車の魅力を感じてほしい」と参加者に呼び掛けました。

コラム前編はここまで。後編では、出展者や会場で見つけた新技術をご紹介します。ぜひご覧ください。

記事:上里夏生

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