<社説>泊原発運転差し止め 国は脱原発政策へ転換を

 札幌地裁は「津波に対する安全性の基準を満たしていない」などとして、北海道電力泊原発1~3号機の運転差し止めを命じた。事故が起きれば生命や身体の安全が脅かされると訴えた周辺住民らの主張を一定程度認めた判決だ。 2011年の東京電力福島第1原発事故後、運転差し止めの判決は3例目。津波対策を理由に運転を認めなかった初の判決だ。原告のうち、半径30キロ以内に住む44人の請求を認め、事故が起きた際に人格権侵害の恐れが認められるとした。北海道電が安全を立証できない姿勢を批判し、住民の安全性を重視した判断は評価できる。

 北海道電は判決を重く受け止め、再稼働の断念を検討すべきだ。事故から10年以上たっても廃炉のめどが立たず、いまだに多くの住民が県外避難している福島の事故の原点に立ち返り、国は脱原発を国策に掲げ、原発に代わるエネルギー政策に転換し国民の不安を払しょくすべきだ。

 札幌地裁判決は「(既存の)防潮堤の地盤に液状化が生じる可能性がないことを相当な資料によって裏付けていない」とし、新たに建設予定の防潮堤の構造も決まっていないと指摘。津波の際に基準を満たす防護施設が存在しないとして原発は安全性を欠くと断じた。廃炉請求は「具体的な事情が見いだせない」として棄却したが、安全性に対する住民の訴えを一定程度認めた。

 一方、島根県の丸山達也知事は中国電力島根原発2号機の再稼働に同意した。丸山知事は原発が「一定の役割を果たしているのは理解できる」とした上で「不安や心配のない生活を実現するためには、原発はない方がよく、なくしていくべきだ」とも述べ、「苦渋の判断」だったと明かした。島根2号機は福島第1原発と同じ「沸騰水型」タイプで、同型では福島事故後初の再稼働となる公算だ。島根原発は全国で唯一県庁所在地に立地し、避難に支援が必要な高齢者も多く、避難計画の検証が大きな課題となっている。

 原発のある自治体は、国の交付金や電力会社の固定資産税など原発に依存する財政・経済構造が根強くあるため安全性に疑問があっても地域経済の影響に不安がある。この構造が、地方に国が原発を押し付け再稼働にこぎ着けやすい誘導策となっている。

 政府は脱炭素社会の実現をうたうものの、原子力は20~22%を維持する政策だ。ウクライナ危機に伴う原油価格高騰を背景に発電コストに占める燃料費の割合が小さい原発に期待する声が政府与党や電力会社で高まっている。

 だが既存原発の活用は国民の安全や健康を守るという責務や、世界の脱原発の潮流に逆行していないか。事故への不安だけでなくテロや紛争で原発が攻撃対象となる恐怖も拭えない。日本が地震列島であることも踏まえ、福島の事故の原点に立ち返るべきだ。

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