「あれだけ捕れたアワビが激減」小田原の海に救世主 藻場再生へ始動

漁船に取り付けられる藻場礁=小田原市の江之浦漁港

 2019年の台風19号の被害で海底の海藻が流されて消えた小田原の海に「命のゆりかご」を復活させる試みが6月からスタートした。地元ダイバーや漁業関係者らがタッグを組み、神奈川県水産技術センター(三浦市)が人工培養に成功した海藻「早熟カジメ」を植え付けた苗床を海底に設置し、豊かな海の森を取り戻していく。

◆消えた寝床

 「海底一面に広がっていたカジメが消えた。あれだけ捕れたアワビも10分の1くらいで海藻を寝床にする魚たちもいなくなり、このままでは生活に関わる」。地元で素潜り漁を営む野瀬晃治さんはため息をつく。

 相模湾一帯ではこの10年で藻場が消失する「磯焼け」が拡大。被害を免れていた小田原の海も18、19年に相次いだ大型台風で大量の海藻が流され、江之浦漁港(小田原市江之浦)のアワビの漁獲量は、18年の2.2トンが20年には0.4トンまで激減した。同センターの木下淳司主任研究員は「温暖化で大型台風の上陸が相次ぎ、藻場再生の自然サイクルが間に合わなくなった」と指摘する。

 残った海藻もアイゴなどの魚類やウニに食いつぶされた。温暖化で冬の海水温が上昇して寒さに弱いアイゴが越冬し、食害が加速。アイゴすら不毛の海から姿を消してしまった。

◆藻場礁に工夫

 野瀬さんら地元漁業者が同市などに働きかけ、昨年に地元ダイバーらを加えた再生活動の組織を結成。国や県の支援を受け、人工的な苗床となる藻場礁を海底に設置する計画を立てた。

 藻場礁にくくりつけた苗から周囲の岩場に胞子を飛ばし、藻場の復活を目指す計画も最大のネックはカジメの成長の遅さ。食害のリスクも高く、“救世主”として白羽の矢が立ったのは同センターが昨年、人工の大量培養の技術を開発した早熟カジメだった。

 通常のカジメは1年半をかけ成長するのに対し、早熟カジメは半年で繁殖可能。木下さんは「早熟なので、魚に食べられる前に胞子を飛ばし増えることができる」と解説する。

 藻場礁にも工夫を凝らした。苗を食べられないように金属のケージで囲い、底床には環境活性コンクリートを使用。海中でアミノ酸が溶け出して海藻の成長を促すといい、地元企業が製造した。

◆豊かな海へ一歩

 今月1日の作戦初日には漁師やダイバーら16人が参加。約500キロの藻場礁のコンクリート板4基を水深13メートルの海底に一つずつ設置した。

 今後は海中でブロックにカジメを取り付ける作業を進め、冬から春にかけて新たな芽が出る。繁殖状態はダイバーが日々チェックし、ウニやアイゴが増えた場合は漁師らが駆除する。

 市も藻場礁を順次増設する方針で、野瀬さんは「豊かな海に戻すためのスタート。すぐに結果が出なくてもできることを続けていく」と地道な活動を誓った。 

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