世論調査ではわからない岩盤保守層の自民党離れ|和田政宗 岸田内閣の支持率や自民党への支持が高いことから、夏の参議院議員選挙で「楽勝ムード」も漂っていると指摘されるが、本当にそうなのか。SNSの動向や全国各地での意見交換から感じるのは、自民党にとって極めて厳しい戦いになるということだ――。

安倍政権を必ず支えていた岩盤保守層

本年行われる参議院議員選挙は、6月22日公示、7月10日投開票となる見込みである。岸田内閣の支持率や自民党への支持が高いことから「楽勝ムード」も漂っていると指摘されるが、私は自民党にとって極めて厳しい戦いになると考えている。冷静な分析かつ公約を充実させ、必死の支持拡大が必要だ。

岸田内閣の直近の支持率は66%(日経・5月27日~29日調査)、自民党支持率は51%と極めて高い状態であるが、この数字から読み取れない部分をまずしっかりと分析しなくてはならない。それは何か。SNSの動向や全国各地での意見交換で感じるのは、安倍政権の国政選挙の際には必ず支えていた岩盤保守層約20%が今回そのまま自民党に投票するのかという点である。

岩盤保守層では、岸田政権の外交政策などを明確に支持しないと意見表明をする人が相次いでいる。20%のうち10%弱はすでに自民党支持をやめているとみられ、これらの方々は、参政党や新党くにもりに投票するか、投票に行かないという行動を取るとみられる。その数は、1人区の選挙区で3万人にも及ぶとみられ、「立憲共産」共闘候補と接戦の選挙区では自民党候補はかなり厳しい状況となる。

なお、これら岩盤保守層の方々はマスコミ不信からあえて世論調査に答えなかったり、勤務時間中で答えられなかったりするので、世論調査の数字には反映されにくくなっており、こうした方々の動向を加味して分析することが重要である。これまでは自民に投票していた方々であり、動きを見誤れば手痛い結果となる。

さらに、「立憲共産」共闘の効果を甘く見てはならない。衆院選においてはこの共闘により15の小選挙区で自民候補が共闘候補に逆転された。

懸念は「立憲共産」と日本維新の会

今回の参院選における32の1人区のうち、青森、岩手、宮城、福島、新潟、長野、山梨、三重、愛媛、熊本、鹿児島、沖縄の各県では、共産党が候補予定者を取り下げたり擁立を見送るなどして共闘がなった。山形、大分など国民民主現職が強い選挙区もある。この2選挙区では共産は候補を擁立するが立憲は擁立せず、新人の自民党候補予定者は厳しい戦いとなっている。

1人区における共闘効果は参院選においてこれまでも発揮されてきた。例えば、6年前の参院選より定数が2から1に減った宮城、新潟、長野では、前回、前々回といずれも野党共闘候補が自民候補を破っている。宮城においては共産の基礎票が5万票あるとされ、共産が候補を擁立していれば自民候補が競り勝っていた得票数であったが、5万票が野党共闘候補に乗った分だけ敗れている。

すなわちこれら1人区の中には、自民候補が野党共闘候補の挑戦を受けるという形ではなく、基礎票で上回る野党共闘候補に自民候補が挑むという戦いとなる選挙区がいくつもあるのである。

そして、日本維新の会に自民の票が流れることも懸念される。昨年の衆院選では、大阪において自民党は小選挙区で維新に全敗した。この流れは維新の政党支持率を見てもいまだ続いており、1人区で維新が当選に至らなくても、一定の自民の票を取り込むことが予想される。

それは、岸田政権が「改革」を強く言わないことから、安倍政権、菅政権の強い改革路線を支持していた層が不満を持っており、私が先日お話しした若手経営者からは「岸田政権はアンチ規制改革なのではないか」との疑問も呈された。

規制改革による経済活性化と成長を期待する層は、これまでの自民への投票から維新へ投票するという可能性も考えなくてはならない。

安倍・菅政権にあって岸田政権にないもの

これらの分析からは、自民が「60議席を超える勢い」などと楽観視することは全くできず、場合によって50議席を割る惨敗に終わる可能性もあると考える。それは自民党に所属する議員として、絶対に避けなくてはならない。

これまでは自民支持で今回は自民に投票しないとする層は、岸田政権のどこに不満を持っているのか。それは、実行力である。「岸田政権は結局何もやっていない」という声は多く聞く。安倍政権におけるアベノミクス、菅政権におけるデジタル化や携帯電話料金値下げ、重要土地利用規制法の成立のように、目に見える実績が岸田政権には無いとの声が上がっている。

安倍政権、菅政権は「外科的手術」をする政権であり、それによって国民の一部から反発を買い支持が下がったとしても、「こうした実績がある」ということをもとに、支持率の回復が見込めたし実際にそうであった。一方、岸田政権は高い支持率が下落した場合、反転できるのか。

この下落が選挙戦で起きてしまったらこんなに恐ろしいことはない。参院選前は60%越えの支持率だったのに、投開票日当日には30%などとなったら目も当てられない結果となる。

例えば国民は、新型コロナを感染症法上の2類相当以上から5類相当並みとすることなど、感染防止対策を取りながら社会と経済活動の全面再開を期待している。もう新型コロナの状況は、それだけの水準に十分になっている。そして、GoToトラベルの再開もそうであるし、さらなる補正予算の策定も望まれている。

憲法改正はどうするのか。私は国民の命を守るために、自民党の公約の第一に掲げるべきであると考えるが、何番目となるのか。結局これも弱い打ち出しとなれば、岩盤保守層のさらなる離脱は避けられない。

今から選挙戦に突入するまでの2週間が勝負である。党の公約をはじめとして、どこまで国民の心をつかむことができるか。我が国にとってすべきことの実行を強く促したい。

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和田政宗

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