佐世保・相浦土地改良区「解散先送り」 施設譲渡がネックに 協議継続

相浦土地改良区が所有する広大な農地=佐世保市(小型無人機ドローンで撮影)

 18年前にイオン九州(福岡市)の大型商業施設を誘致する計画が浮上し、長崎県佐世保市を賛否で二分する論争の舞台となった相浦地区の広大な農地。当時、市は商業利用を認めず、計画は頓挫したが、その後も農地は田畑としての活用が見込めず、地権者でつくる相浦土地改良区(約130人)は今春解散する予定だった。だが、保有する農業施設の譲渡先が決まらず、法的な壁をクリアできないまま先送りを余儀なくされている。農地活用が進まず、組織維持の経費も重なる苦しい状況が続いている。

 「行政と協議を続けているが農業施設の譲渡先が見つからない。すぐに解散はできない」。4月下旬の改良区総会。浦久男理事長は地権者に理解を求めた。
 改良区の所有地は約40ヘクタール。国や県、市の支援を受け、1996年度までに約20億円を投じ、水田をつくれる「優良農地」を造成した。だが、農家の高齢化などで耕作が進まず、農地の8割近くが牧草地となっているという。
 2004年にはイオン九州の商業施設を誘致する計画が浮上。だが、競合を懸念する市中心部の商店街などが反対し、賛否の論争が巻き起こった。06年、当時の光武顕市長は農地の転用を認めないと表明し、事態は収束した。
 17年以降も改良区側は市に農業と商業を合わせた土地活用策などを提案。だが、市は農地転用は困難と繰り返し、19年の市議会で朝長則男市長も「非常にハードルが高い」と答弁した。
 改良区は20年度総会で「農業振興の役割を果たせていない」「組織の維持は難しい」などとし、今年春に解散する方針を承認。県や市と協議を始めた。
 ただ、土地改良法は、解散の要件として、保有する農業施設の維持管理を規定。市町などの団体への譲渡を義務付けている。
 改良区は農道や排水溝、給水施設を保有。市は、農道や排水溝は「市民生活や防災に使える」として取得に前向きだが、相浦川の水を農地へ送るポンプなどの給水施設は「公共性が見いだせない」と難色を示し、解散の要件を満たす見通しが立っていない。

相浦川の水を農地へ送るポンプを備えた給水施設=佐世保市木宮町

 一方、国は4月に改正同法を施行。土地改良区が組織変更できる「仕組み」を来年9月までに創設するとする。県は「解散のハードルが下がる可能性がある。国の方針を見極め、(解散を望む)改良区の考えに沿って対応したい」とする。
 農地の活用を巡っては、地権者らが新たな「まちづくり団体」の設立を準備。近隣の老朽化した市総合グラウンドの建て替えを含め、スポーツや農業、商業の機能を持つ複合施設の整備を目指している。浦理事長は「解散は遅れているが、県や市と協議しながら進める方向性は固まった。まちづくり団体と連携した地域活性化も並行して考える」と話している。


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