日本では「白くま」と呼ばれ、動物園でも人気で親しまれているホッキョクグマ。
しかし、年々生息数は減っており、国際自然保護連合(IUCN)はホッキョクグマを絶滅危惧種のレッドリストに分類しています。
なぜ、ホッキョクグマが絶滅危惧種になっているか、そして私たち人間が、ホッキョクグマのためにできることを、世界の取り組みと合わせて紹介します。
絶滅危惧種「ホッキョクグマ」の実態
ホッキョクグマは、ユーラシア大陸とアメリカ大陸の北極周辺に生息しています。
メスよりオスのほうが大きな体をしており、体長250cm、体重500kg程度の個体が標準です。
泳ぎも得意なため、陸地だけでなく水中や氷上にも移動し、アザラシを狩って食べます。
メスは、健康な子どもを生むために、たくさん食べて脂肪を蓄えなければなりません。
気候変動によってエサのアザラシが数が減少
しかし、地球温暖化などの気候変動の影響によって海氷が減り、エサとなるアザラシの数が減少しています。
アザラシは海氷で出産や育児を行うため、北極の氷が溶けてしまえば繁殖ができないためです。
エサを十分に食べられなくなり、餓死状態に陥っているホッキョクグマは増えています。
中には、子グマを食べてしまうケースも目撃されました。
ホッキョクグマの共食いは珍しい行動ではありません。特にアザラシが海に出る夏から秋にかけて、ホッキョクグマは子グマを捕食対象として狙うことがあります。
しかし、近年の気候変動によるエサ不足で、共食いが行われるケースがより増えてきたといわれます。
今後も海氷が溶け続けてアザラシが減少すれば、共食いは今後も増えるかもしれません。
また、食べ物を求めて長距離を移動するため、体力の限界や波の荒い海のなかで命を落とすホッキョクグマも増えています。
移動中に体重の22%が失われたとされる母グマも発見されています。
出典:「ホッキョクグマ、687キロを泳ぐ」(ナショナルジオグラフィック)
長距離の海中移動を経て、餌を求めて人間の前に姿を現すようにもなりました。
お腹をすかせたホッキョクグマが人間を襲ったというニュースが、世界各地で聞かれています。
ホッキョクグマが絶滅が危惧されるレッドリストに指定
北極圏の各国は、絶滅が危惧されるホッキョクグマの保護に努めています。
しかし、グリーンランドでは、度重なるホッキョクグマと人間の遭遇から、射殺許可が出たほどです。
現状、ホッキョクグマの生息数は、およそ26,000頭といわれています。
2006年の国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、危急種(VU)に指定されました。
レッドリストのカテゴリーは、以下の9つに分類されます。
絶滅(EX)疑いなく最後の1個体が死亡した種野生絶滅(EW)飼育・栽培下、あるいは自然分布域の外側で野生化した状態でのみ生存している種深刻な危機(CR)野生での絶滅のリスクが極度に高い種危機(EN)野生での絶滅のリスクが非常に高い種危急(VU)野生での絶滅のリスクが高い種準絶滅危惧(NT)「深刻な危機」、「危機」、「危急」いずれの要件も満たしていないが、将来絶滅のおそれがある種低懸念(LC)「深刻な危機」、「危機」、「危急」、「準絶滅危惧」いずれの要件も満たしていない種データ不足(DD)十分な情報がなく、絶滅のリスクを評価できない種未評価(NE)査定が行われたことのない種
生物が一度絶滅してしまえば、再びよみがえることはありません。
ホッキョクグマだけでなく他の生物にも影響
生態系は生き物同士のバランスで成り立っています。
ホッキョクグマが絶滅してしまえば、北極圏の生態系は破壊されてしまうでしょう。
影響を受けるのは動物だけではなく、先住民族であるイヌイットは狩猟ができなくなり、生活が成り立たなくなるかもしれません。
気候変動によって追いつめられるホッキョクグマを救うには、そして私たち人間の生活を守っていくにはどうすればいいか、今一度考えていく必要があるでしょう。
2100年までに絶滅する?ホッキョクグマが絶滅危惧種となった原因
気候変動のスピードが深刻化している今、このまま何も対策をしなければ、2100年までにホッキョクグマは、絶滅するといわれています。
ホッキョクグマが絶滅危惧種となった原因について詳しく見ていきましょう。
地球温暖化
肉食獣であるホッキョクグマの主な食べ物は、アザラシです。
ホッキョクグマは、チーターやオオカミのように、チームワークを生かした狩りや長距離を走る狩り、スピーディーに走って追いかける狩りができません。
そのため、ホッキョクグマは、特徴的な方法で狩りを行います。
アザラシは泳ぐのが早い生き物なので、ホッキョクグマは海氷を上手く利用して狩りをしています。
氷上で子育てを行うアザラシを見つけたら静かに海に潜って氷の縁から近づいて狩ったり、あるときには海氷に穴を掘って、息継ぎをしにきたアザラシを狩ったりするのです。
しかし、近年、地球温暖化によって、海氷が溶ける期間が長くなっています。
海氷がないと、ホッキョクグマは狩りができず、飢餓に陥ります。
栄養不足でやせ細ったり、母乳が出ないために子グマが育たず死んでしまったりする事態が起こっているのです。
ホッキョクグマの個体数は、10年で約40%減少したともいわれています。
関連記事:海面上昇は地球温暖化が原因
環境汚染
ホッキョクグマが生息する北極圏は、環境が厳しく、ほかの地域と比べると人の活動も盛んではないため、環境汚染とは無縁と考えられていました。
しかし、近年の調査で残留性有機汚染物質(POPs)の被害が、北極圏にも拡大していることがわかっています。
例えば、熱帯地域で散布されている農薬です。
気流に流されて、ホッキョクグマの生息地域に流れ着いています。
また、大都市や工場地帯からの汚染水も、河川を流れて北極に流れ着いているのです。
これらの汚染物質は、海水からプランクトンへ、プランクトンから魚へ、魚から哺乳類へ、といった食物連鎖を通して、生物の体内へ取り込まれます。
その間、汚染物質は分解も代謝もされず生物の体内に残留するため、ホッキョクグマのような生態系の上位にいる種ほど高濃度の汚染物質にさらされることになります。
これらはホッキョクグマだけでなく、ほかの野生動物を食べる人間への影響も懸念されているのです。
地球温暖化と環境汚染を防ぐための世界の取り組み
ホッキョクグマが絶滅危惧種になった原因である、地球温暖化や環境汚染を解消する取り組みは、すでに世界各国で行われています。
世界では、どのようなことが行われているのかを知っておきましょう。
温室効果ガス削減目標の取り決め
地球温暖化対策の国際的な取り組みとして有名なのは、2015年に採択されたパリ協定です。
パリ協定では、世界共通の目標として次のふたつを掲げています。
1. 地球の平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃より十分低く保って、1.5℃に抑える努力をする2. できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量を削減し、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスをとる
パリ協定には、190カ国以上が参加していますが、世界共通目標とは別に、国別の温室効果ガス削減目標も提出されています。
以下に、一部の国の目標をまとめました。
国目標アメリカ2025年までに26〜28%削減2005年比EU2030年までに40%削減1990年比日本2030年までに26%削減2013年比中国2030年までに60〜65%削減2005年比インド2030年までに33〜35%削減2005年比ロシア2030年までに70〜75%に抑止1990年比
国別の目標を見ると、日本は、2030年までに26%削減と掲げています。
ほかの国よりも目標が低く見えますが、基準年度や指標が国ごとに異なるため、単に数字だけで判断してはいけません。
<2013年度比にした場合の各国の目標>
国013年比日本26%削減アメリカ18〜21%削減EU24%削減
比較年度を日本が掲げている2013年に合わせて計算した場合、割合でみると 日本の目標値がかなり高い数字であることがわかるでしょう。
残留性有機汚染物質の禁止や制限
2001年5月に、残留性有機汚染物質の製造および使用の廃絶・制限、排出の削減、廃棄物の適正処理に対しての明確なルールを定めた「POPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)」が採択されました。
POPsとは、以下のような性質をもつ残留性有機汚染物質のことです。
- 身体に有害な影響を及ぼす
- 環境中で分解されにくい
- 人や野生生物の体内に蓄積しやすい
- 長距離移動して国外にも影響を及ぼすおそれがある
例えば、大きく分けて農薬や殺虫剤、工業化学品に含まれる化学物質や、ダイオキシンなど副産物として生成される化学物質などがあります。
これらは一度体内に取り込まれると油(脂肪)に溶け込んで蓄積されるため、例え少量であっても月日とともに濃度が高くなっていきます。
さらに食物連鎖では生物濃縮が起こるため、上位の捕食者ほどその影響を強く受けてしまいます。
つまり、人間までたどり着いたときには生態系の中で最も濃度が高く、免疫・神経に悪影響を与えるほか、生殖器の異常や奇形が発生するといった悪影響が及ぶ可能性が高いといえます。
特に哺乳類は赤ちゃんに脂肪分が含まれる母乳を与えるため、母親がPOPsを蓄積していると、赤ちゃんにも悪影響を及ぼしてしまいます。
このように、人間ほど危険性も拡散性も高いのがPOPsの特徴です。
採択当時は、環境や体に悪影響をおよぼす12の残留性有機汚染物質の生産や使用を禁止、制限するものとして発表されましたが、2019年には、対象物質を30物質に増やした条例に改定されています。
日本も条約締結国であり、POPs条約に基づいた国内実施計画を策定して、POPsに関する調査研究や情報公開、モニタリングなどを実施中です。
具体的な取り組みとしては、以下のような対策を進めています。
- ダイオキシンの排出規制
- PCB廃棄物の処理体制の整備
- 埋設された廃農薬の適切な管理に関する指導
- 大気、水、底質、野生生物の濃度を定期指摘に測定
出典:「国内ではどんな取組が行われているの?-POPsパンフレット」(環境省)
ホッキョクグマの絶滅を防ぐために私たちができること
ここまでは、国単位での取り組みや条例を紹介してきましたが、私たち個人単位でも、ホッキョクグマを絶滅から守るための取り組みはできます。
個々ができる取り組みは、小さなことかもしれませんが、より多くの人が普段の生活を少し改善するだけで大きな力になることは間違いないでしょう。
今すぐできる取り組みとしては、以下のアクションがおすすめです。
- 電力プランの見直し
- 冷蔵庫を整理する
- 窓やドアのすき間をテープで埋める
- エアコンは自動運転で設定
- 炊飯器は1度で2食分を炊く
- 洗濯物は重く大きいものを下に入れる
- 農薬を使わないオーガニックの食材を選ぶ
電力プランの見直し
簡単にできるのが、電力プランの見直しです。
ご自宅の電力使用力に応じて、基本料金と従量料金のバランスを考えましょう。
例えば、家族が多いなど頻繁に電力を使用するような場合は、基本料金よりも従量料金の電力単価が低いプランを選びます。
一方、一人暮らしなどの場合は、基本料金が安いプランにするほうがお得といえるでしょう。
冷蔵庫の整理
そして、電力の使用量が多い家電製品№1は、冷蔵庫といわれています。
特に、冷蔵庫に物を入れ過ぎると空気の循環が悪くなり無駄な電力を消費してしまいます。
食材はできるだけ買いためず、賞味期限の近いものから消費しましょう。
また、冷蔵庫内の整理ができれば開けている時間を減らせるので、節電につながります。
さらに、窓やドアのすき間をテープやフィルムでガードして、外気をできるだけ室内に入れないことを心がけましょう。
エアコンの設定温度
エアコンの設定温度が1℃変わるだけでも、消費電力が10~13%削減できるといわれています。
また、エアコンの設定は「弱」よりも、効率の良い運転をしてくれる「自動運転」のほうが節電できます。
炊飯器で節電
炊飯器を使う場合も、1食ずつ炊くのではなく、2食分を1回で炊くようにしましょう。
節電だけでなく、節水にもつながります。
ただし、2食目を長時間保温しているとそれも電力を消費します。
3時間以上保温する可能性がある場合は、冷凍して電子レンジ解凍したほうが節約につながるといわれています。
洗濯機は効率よく使おう
洗濯機が効率よく運転できるように、デニムやニットなど、重くて大きい衣類はなるべく下に入れましょう。
小さな取り組みでも、毎日継続して行うことが大切です。
生活の中で無理なくできることからはじめてみてください。
まとめ
遠く離れた北極圏で暮らす、ホッキョクグマは、窮地に立たされています。
その原因をつくったのは、紛れもなく私たち人間です。
しかし、ホッキョクグマを助けることができるのもまた、私たち人間なのです。
国内では、温室効果ガスの削減や有害物質の規制に取り組んでいます。
私たちも、個人でできる取り組みからはじめてみませんか。