【客論】同志社大大学院総合政策科学研究科教授 大和田順子 課題解決へ山村と企業連携

 持続可能な開発目標(SDGs)を理解する上で、「SDGsウエディングケーキ」という考え方に注目しています。SDGsの基盤は自然資本(目標6水、13気候、14海の生態系、15陸の生態系)であり、その上に社会や経済が成り立っているという図ですが、自然資本は農山漁村に多く存在しています。
 4月に『SDGsを活かす地域づくり』(晃洋書房)を出版しました。2章「農山村におけるSDGsの活かし方」では椎葉村の焼畑、諸塚村の林業立村、農山村と企業の連携事例として諸塚村と大阪に本社のあるスーパーホテルの取り組みを紹介しました。
 スーパーホテルは、全国で169店、ビジネスホテルを展開しています。同社を知って10年以上がたちますが、環境問題に熱心に取り組んでこられました。2011年に環境大臣から「エコ・ファースト企業」にホテル業界で唯一認定されています。健康と環境に配慮したホテルとして、朝食に有機野菜を提供。企業活動で排出される温室効果ガスを相殺する「カーボン・オフセット」にも取り組んでいます。
 一方の諸塚村を知ったのも10年以上前のこと。春はいつも、村全体が濃い緑と明るい緑のパッチワーク状ですが、明るい緑はクヌギでシイタケの原木になることを教えてもらいました。村民はシイタケを「ナバ」と呼んで愛しています。
 森林の大部分が約20~30ヘクタールの中規模な自伐林家で、スギやヒノキは切ったら植えることが鉄則となっていること。また、第二次世界大戦後に最優先で組織された「自治公民館」が今も継続されていることなどを知るにつれ、正統な山村とはこういうものなのだろう、と思うようになりました。
 同社に紹介した理由は、こうした確かな歴史を有し、その森林が森林管理協議会(FSC)の森林管理認証を受け、世界農業遺産に認定されたからです。
 その後、宮崎県内の2店舗ではカーボン・オフセット付き宿泊サービス「ECO泊」をスタートさせ、温室効果ガス排出削減を目指す諸塚村の「J-クレジット」を採用しています。
 17年にリニューアルした宮崎天然温泉店は、増築した温泉建屋の内装材や食堂のテーブルにFSC認証のスギ材を使用。全国の店舗で使う木製備品なども製作を依頼しています。
 19年から、企業などと協力して社会的課題の解決に取り組む「包括連携協定」を進める諸塚村と同社は3月、協定を締結しました。
 新入社員対象の研修で同村の矢房孝広企画課長は「いざというときに頼れる存在を複数つくることが地域の自立につながる。交流しながら関係人口を増やしたい」と語りました。
 CSR(企業の社会的責任)やCSV(共有価値の創造)に取り組む企業が増えています。自治体は地域固有の価値を可視化し、磨き、パートナーとなる団体や企業と出合い、地域課題の解決に向けて連携し、持続可能な地域づくりやSDGsの達成につながる取り組みを進めていくことが期待されているのではないでしょうか。
 おおわだ・じゅんこ 1959年東京都生まれ。世界農業遺産等専門家会議委員として、高千穂郷・椎葉山地域の認定に関わった。京都市。

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