SOIL&"PIMP"SESSIONS『PIMPIN'』を聴いて思うサブスク時代だからこそ、この圧倒的サウンドを推す

『PIMPIN'』('04)/SOIL&"PIMP"SESSIONS

6月8日はSOIL&"PIMP"SESSIONSのニューアルバム『LOST IN TOKYO』のリリース日ということで、今週は彼らの1stアルバム『PIMPIN'』を取り上げる。本作発表前のまだアマチュアだった頃に『フジロックフェスティバル』へ出演したという逸話があるが、そのことにも十分に頷ける音楽的独創性と高い志を持った『PIMPIN'』。インストバンドならではアンサンブル、グルーブも感じるわけだが、どうやら近頃のヒット曲は歌以外のサウンドは好まれていないようで、その辺も交えて考えてみた。

イントロなし!? ギターソロはスキップ!?

昨今はイントロ0秒時代だという。2020年のヒット曲で言えば、「夜に駆ける」(YOASOBI)、「紅蓮華」(LiSA)、「白日」(King Gnu)辺りがそうで、昨年2021年では、「Dynamite」(BTS)、「怪物」(YOASOBI)、「群青」(YOASOBI)辺りの曲名が挙がる。他にも「Butter」(BTS)や「うっせぇわ」(Ado)は0秒ではないが、それぞれ4秒、1秒だとか。短い。そうは言っても、「ドライフラワー」(優里)は13秒で、「Pretender」(Official髭男dism)は31秒、「u」(millennium parade × Belle)は32秒と、ヒット曲の全部でイントロがなくなっているというわけでもないようだが、イントロが短くなっている傾向は否めないようではある。業界内でイントロ不要論がまことしやかに出回っていてもおかしくない。

また、イントロのみならず、ギターソロも不人気ではあるようだ。高野 寛のつぶやきが話題となっていたことも記憶に新しい。そのもとは2021年9月の産経新聞WEB版、産経WESTの芸能考察に掲載された岡田敏一氏の“イントロとギターソロを飛ばして聴くのは邪道”なるコラムで、そこからの引用であった。岡田氏曰く、〈イントロが長いと、スポティファイに代表される音楽配信サイトの利用者が「ダルい」と他の楽曲にスキップするのだとか。そして、楽曲の途中にギターソロが登場すると、今度は「テンションが下がる」ので他の楽曲にスキップ…。〉だといい、〈この話を聞いて、怒る気持ちより、若い世代の音楽の聞き方がここまで変わってしまったのかと愕然(がくぜん)とさせられた。〉のだとか。その若い世代がスキップする楽曲にこそ、ハードロックやヘヴィメタルの魅力があるし、日本ではまだこのジャンルは廃れていないので、若い世代もぜひスキップすることなく聴いてほしいと締め括っている。

Marty Friedmanもそのトレンドに反応。自身のTwitterで〈大体ギターソロをスキップされる曲は多分、バンド物じゃなくてアーティスト系だと思う。〉と持論を展開した。大まかに言えば、コストの問題で海外のメインストリームのヒット曲においてもギターソロはほぼ消滅したという。日本はややその例外ではあって、〈ギターソロの存在を外せない〉とは思っているものの、それを〈ヴォーカル休憩の8小節〉程度に考えているので、〈ちょっとした喧しい歪んでるギターソロあったら大丈夫になっちゃう〉と分析する。これではスキップされるのは当たり前。ギターソロはヴォーカルとまったく同じ存在感でなくちゃならない。QueenのBrian Mayのギターソロのような、Freddie Mercuryの存在感に負けないクオリティーであればスキップされることはないはずと、ミュージシャンらしいと言えばミュージシャンらしい考察を展開していた。

他アーティストもそのギターソロの件に反応し、くるりの岸田 繁は〈ギターソロて流行ってないの? オレは曲飛ばしてギターソロだけ聴くけどな〉、King Gnuの常田大希も〈焦るなよ またそのうち ギターの時代が 始まるのだよ #ギターソロ の件〉とツイート。ちなみに筆者も、たまたまお逢いした某ロックバンドのメンバーに直接このイントロやギターソロの件を訊いてみたら、“自分もバンドを始める前までは、イントロ長いなとか、ギターソロがうるさいって思っていたことがあったから、その辺は仕方がないんじゃない”と言っていた。簡単にまとめるのも恐縮ではあるが、リスナーが音楽に何を求めるかによってイントロやギターソロの要不要が出てくるのだろう。歌の旋律や歌詞、演者の歌声を求めている人は、それ以外はいらないと思っているのだろうし、その楽曲にある全てを聴きたいと思う人にとってはイントロやギターソロも欠かせないということになるだろか。まぁ、個人的にはどう考えても、後者が真っ当だと思う。カツカレーを出されて、そこにあるトンカツだけを食べたり、ニンジンだけを食べたりする人もいないだろうし…。どうにかしてカツカレーを食べさせたい人たちはトンカツだけ食べてもらってもいいのかもしれないけど、もったいない話ではあるだろう。(ここまでの〈〉は全てそれぞれの当該記事からの引用)

アジテーターを擁す“デスジャズ”

さて、イントロもギターソロも必要なく、歌だけでいいということになれば、インストバンドはまったくお呼びでなくなる。フュージョンも、歌のないジャズも、ロックにしても歌のないものはナンボだってあるので、それらは絶滅…ということになる。いくら何でもそれはない。T-SQUARE‎や東京スカパラダイスオーケストラが活躍の場を失くすことなどなかろう(スカパラの楽曲には歌もあるけど、それはそれとして…ね)。そして、このSOIL&"PIMP"SESSIONSである。このバンドを聴くと、“歌だけでいい”などということがいかに愚考であるかを思い知らされるだろうし、何なら“むしろ歌はなくて正解!”と思うほどではないかと思う。前述した、イントロが長ければ“怠い”とか、ギターソロが登場すると“テンションが下がる”とか思う人が悪いとは言わない。そういう人が存在することまでは否定しないけれど、歌がなくともこのバンドの演奏の長さを怠いなどとは思わないし、(SOIL&"PIMP"SESSIONSにはギタリストはいないのでギターソロはないけれど)各楽器のソロセクションを聴いていてテンションが下がることはない。もっと聴いていたいとすら思うし、テンションも上がり続ける。

SOIL&"PIMP"SESSIONSのメンバーは、タブゾンビ(Tp)、丈青(Pf、Key)、秋田ゴールドマン(Ba)、みどりん(Dr)、社長(Agitator)に加えて、デビュー時には元晴(Sax)の6名で構成されていた。社長の“Agitator”とは聞き馴染みがない方もいるだろうが、それで正解。文字どおりAgitator=扇動者で、[観客を煽ってライヴを盛り上げる役割を務める]とWikipediaにもある。海外のレゲエやスカにそのルーツがあるという。日本ではほぼ見かけないが、スカパラのファンにはかつてクリーンヘッド・ギムラが担当していたパート…というとピンとくる人がいるかもしれない。アルバム『PIMPIN'』で言えば、M1「Intro」でドラミングをバックに語っているのがそれであろうし、M5「First Lady」、M7「Mature」、M8「16 Blues」で登場するモノローグ(に近いスタイル)が分かりやすい。最も分かりやすいのはM11「殺戮のテーマ」だろう。まさに扇動と呼ぶに相応しいシャウトを示している。いずれも歌ではないのでヴォーカリストではないのは当然としても、こうしたパートを設けているところに、彼らならではの独自なスタイルのうちだしと、それに対する強烈な矜持を感じるところではある。

彼らの音楽はジャンル分けすればジャズとなる。“強いて言えばジャズ”ではなく、どう聴いてもジャズだ。ただ、ロックやヒップホップとは比べものにならない歴史を持つジャズであって、その歴史の中で相当、多岐にわたって進化しているので、ひと口にジャズと言うのも乱暴かもしれない。彼らのジャズは少なくともバーでゆったりと聴くようなタイプでもないし、ディキシーランドジャズやニューオーリオンズジャズ、あるいはスウィングジャズとも異なる。ゆったりと渋く鳴らされるものでもないし、甘く軽快なものでもない。彼ら自身は“デスジャズ”と呼んでいるようだが、その言い方が一番しっくりくる。多くの人が想像するようなジャズというよりは、ジャズ本来の革新性を残しつつ、先鋭的なロック方向にアップデイトしたような感じだろうか。勢いとラウドさ、ヘヴィネスは、パンクにもヘヴィメタル、ハードコアヒップホップにも引けを取らないものであろう。

充実しまくったバンドアンサンブル

前述したようにM1「Intro」はアジテーターによるパフォーマンスが中心ではあって、万人が思うジャズと趣が異なることははっきりとしているので、そちらはともかくとして、実質的なオープニングナンバー、M2「Fuller Love」は、序盤はジャズらしいアンサンブルを聴かせる。ドラムの手数が多くやや派手な印象はあるものの、ピアノ、ホーンの旋律、ベースの動きもそれっぽい。“なるほど、確かにこれはジャズだ”などと思いながら聴き進めていくと、だんだんとこのバンドの本性が露わになっていく。まず55秒を過ぎた辺りから入るサックスがかなり凶暴に鳴り響く。狂乱とも言うべきその鳴りに合わせるかのようにベース、ドラムもさらに激しく動く。そこにアジテーターの叫びも重なる。いったんベースとピアノが引く(演奏しなくなる)が、それゆえにフリーキーを通り越してカオスな様相。しかしながら、だからこそ、そののちに再びベースとピアノが入った時、音楽的な気持ち良さが強く発揮されるように思う。そして、そこからはサックスが引き、ベースとピアノとのアンサンブルへと展開していく。この2名の競演が何ともすごい。まさに競い合っているかのような──変な言い方かもしれないが、お互いがプライドをかけて演奏をぶつけ合っているかのようなアツい演奏を聴くことができる。3分半を過ぎた辺りでリズムレスとなり、ピアノのみの、それこそバーで聴こえてくるような音色が聴こえるが、それも束の間、再びホーンがリードするパートへ。主旋律はメロディアスであって、決して荒々しさだけでないことも分かる。ループするピアノの旋律もポップだし、ダンスミュージックとして十二分に機能していることもうかがえるし、グルーブの要となっているように思う。ホーンとピアノのユニゾンがアウトロに向かってリフレイン。全体で昇り詰めていく…といった感じだ。

M3「Wives And Lovers」もM4「Harbor」もタイプこそ異なるが、いい意味で構造はM2と同様。リズム隊とピアノやキーボードから始まって、そこにホーンズが重なり、さらにサックスがソロで暴れ、それに追随して各パートもフリーキーとなっていく。どちらも荒々しい演奏があるにはあるのだが、かと言って、耳触りが悪いかと言ったらそうでもない。いや、人によっては、それこそうるさいと感じる人がいるかもしれない。だけれども、楽曲全体を通してうるさく感じるかと言ったら、そうでもないのではないかと思う。それは基本的に各パート、特にピアノとホーンが奏でる旋律に十分な抑揚があることを大前提として、それを奏でるタイミングとリフレインにあるのではないかと感じる。前述したように、リズム隊を含めてフリーキーに演奏する箇所があって、それがひとつの方向にまとまった時に気持ち良さがこのバンドにはあるが、それも主旋律がキャッチーであればこそ、より凛としたものに感じられるのだと思う。混沌と秩序。全員がそれをしっかりと理解した上で演奏しているのだろう。また、リフレインの気持ち良さも知っているのだとも思う。しかも、単純に繰り返すのではなく、背後を支えるドラミングが変化していったり、リフレインの度にそれこそ強弱を変えていったりすることで、同じメロディーでも聴こえ方が良いふうに変化していく。そのこともまた、メンバーは演者の本能として理解しているのではないか。いずれもそんな気がする演奏なのである。

スムースジャズっぽい匂いも感じるM5「First Lady」、ゆったりとしたテンポのM6「Pimpnosis」、どこか可愛らしい印象もあるM8「J.D.F」──あるいはラテンっぽいM7「Mature」もそうかもしれないけれど──いずれの楽曲にしても、どのパートも暴れるまくるような箇所はないものの、それゆえにアンサンブルの妙味を楽しく聴くことができるだろう。やはり静と動をしっかりと捉えているようにも思うし、簡単に言えば、バンドが発散するグルーブの何たるかを分かった人たちが演奏していることを感じられるところである。もっと言えば、この演奏は伴奏ではない。歌がないインストバンドではなく、これだけの演奏があれば歌を入れる必要がない──そんな不埒な想像をしてしまうほどに演奏が充実しているのである。冒頭でイントロとギターソロの話をしたが、もし歌だけを欲しがる人がいたとしても、少なくとも歌のメロディーの良さや、それを歌う演者ならでは特徴を捉えることができるのなら、このM5~M8に限らず、アルバム『PIMPIN'』収録曲で披露されている演奏の気持ち良さは実感できるのではないかと思うが…。

アルバムの後半はいずれもモノローグやシャウトが聴こえる、SOIL&"PIMP"SESSIONSならではの楽曲で締め括られる。各パートがエッジの効いたプレイを魅せるM9「16 Blues」。エレピの音がロック的でありつつも不穏な雰囲気を作り出しているM10「CARNAVAL」。そのM10のパンクバージョンとも言うべき、アップチューンM11「殺戮のテーマ」。どれもこれもスリリングで、まったく飽きることがない。初見では次に何が出てくるかワクワクしながら聴かせてもらった。昨今の日本の音楽シーンはイントロ0秒時代で、ギターソロも嫌われているのかもしれない。それほどに歌に寄せたシーンになっているのだろう。しかし、時代が変わったら真っ先に再評価されるのはSOIL&"PIMP"SESSIONSなんだろう。その想いを強くした『PIMPIN'』であった。いや、そんなこと言ってないで、今すぐにもっともっと評価しよう。

TEXT:帆苅智之

アルバム『PIMPIN'』

2004年発表作品

<収録曲>
1.Intro
2.Fuller Love
3.Wives And Lovers
4.Harbor
5.First Lady
6.Pimpnosis
7.Mature
8.J.D.F
9.16 Blues
10.CARNAVAL
11.殺戮のテーマ

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