「とんだ暴発」黒田バズーカ 「値上げ許容」発言撤回もくすぶる火種

 立憲民主党が8日、岸田文雄内閣への不信任案提出に踏み切った。「物価高騰への無策」(泉健太代表)が理由だが、黒田東彦日本銀行総裁の「家計の値上げ許容度も高まってきている」との発言も火を付けたようだ。発言は同日の国会審議で撤回したが、野党からは日銀や政府への責任追及が続いた。

 「黒田バズーカ」と評される金融緩和策になぞらえ与党内からも「とんだ暴発だ」(自民幹部)と批判も聞かれる。細田博之衆院議長の「定数10増10減批判」などの発言を巡る問題も重なり、「首相が安全運転をしても周囲に油断があっては火種が絶えない」(同)との危機感も漂う。

◆黒田総裁「買い物は家内が」

 「国民の家庭では苦渋の選択で値上げを受け入れている。(許容とした)発言は撤回いたします」。不信任案提出が目前の8日の衆院財務金融委員会。立憲民主党の桜井周氏からの「認識がおかしい」との撤回要求に総裁は応じた。

 発言は6日の講演会であった。「『お目当ての品が値上げされていてもなじみの店で買う』との消費者が増えてきた」という大学の調査結果を根拠に「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と明言。ネット記事のコメント欄に「誰も受け入れていない!」などの批判があふれた。

 後の反発を増幅した発言が3日の参院予算委員会であった。立民の白真勲氏からの「食料品を買った際に価格が上がったと感じるか自身の感覚、実感を聞かせて」との質問への答弁だ。

 「買い物は基本的には家内がやっている。(値上げを感じるのは)包括的にだ。物価動向を直接買うことによって感じているというほどではない」

◆誤ったメッセージ

 この答弁を聞いた政府関係者は「『買い物は女性の仕事』『現場で物価を知る気はない』との誤ったメッセージを与えかねない」と懸念。「日銀の事務方へは答弁などにあたって総裁へのサポートを強化するようほうぼうから促した」というが、“暴発”を抑えることはできなかったようだ。

 桜井氏に続き質問した立民の野田佳彦元首相は調査を引き「担当した研究者は家庭の『耐性』と評している。『許容』などと呼んでいない」と批判。撤回を踏まえ「個人ではなく日銀とか組織的な思いではないか」と政府の懸念ポイントを攻めた。

 黒田総裁は「『許容』とは不適切な表現だった」とあらためて謝罪したが「日銀内では『苦渋の選択』の意味で用いている」と論点をかわした。財務相も経験した野田氏は「私が知る日銀は言葉はつまらないが意味を正確にとった上で議論をしていた」と皮肉った。

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