<南風>無知と好奇心と

 南極は地球温暖化の影響を受けにくいとされてきた。しかし最新の観測や研究は、南極にも地球温暖化の影響が及びつつあることを示唆している。

 国連の気候変動に関する政府間パネルは昨年、「可能性は低くとも起きたら影響が大きい」として、今世紀末に現在より1.5メートル以上海面が上昇する可能性も否定できないと警告した。もし起きたら沖縄の砂浜は消え、沿岸の土地は海に浸かる。その主な原因が南極氷床の大規模な融解だ。

 私が気象庁を志望したのは、高校時代「南極に行きたい」と思ったからだ。気象庁は南極観測隊に毎年最低でも5人派遣している。

 とは言え、元々特に何か高い目的意識を持っていたわけではない。「見たことがないものを見たい」という純粋な「好奇心」が最大の動機で、虫取り少年の好奇心が南極につながった。

 しかし何かに関心を持つことは、多くの人が想像もしない世界を知り、それを尊重する心を育むきっかけになり得る。

 例えば造成された“空き地”。草が茂り、低木が生え、低地は水たまりや湿地になる。日頃から鳥や昆虫に接していると、そんな場所には実に多様な命の営みがあることに気が付く。好奇心のなせるワザだ。

 経済的には一見無駄に見える空き地でも、実は躍動する命の楽園かもしれない。しかしそんな楽園は見る間に商業施設や太陽光パネルで埋め尽くされ、いとも簡単に崩壊する。命の存在を知らずに、あるいは知っていてもそれを尊いと感じずに人類は楽園を葬る。

 無知は恥ずべきことではないけれど、好奇心が人を無知から解放して、違った未来が創造されるかもしれない。経済中心の価値観とそれを支配する欲求が、地球温暖化が南極にまで到達する原動力になってしまったと言えば、それは言い過ぎだろうか。

(河原恭一、札幌管区気象台(前沖縄気象台)地球温暖化情報官)

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