セントチヒロ・チッチ(BiSH)『BiSH presents PCR is PAiPAi CHiNCHiN ROCK'N'ROLL』- 自分の知らない部分を引き出してもらえた

自然と言葉が出るよう役に取り組みました

――『どこから来て、どこへ帰るの』は、アキオとチヨの大人の恋愛が描かれているドラマ性の強い作品でした。文学的で映画であることの良さを最大限活かした作品だとも感じました。

セントチヒロ・チッチ:

行定節を感じますよね。ほかの5作品はMVでお世話になっていた監督やWACKの社長なので、行定監督もそこは意識していたんだと思います。この作品を通して映画というものを私に教えてくれていたんだと思います。

――初のドラマの映画作品で、行定監督と共演されることにプレッシャーはなかったですか。

チッチ:

行定監督とは以前から仲良くさせていただいていたので、プレッシャーはなかったです。今回のオムニバス作品に行定監督が参加されると決まった時も一緒にやりたいと思っていたので、その願いが叶い嬉しかったです。

――大人の恋愛ドラマということでラブシーンもありましたが、脚本を読まれた際に驚きはなかったですか。

チッチ:

タッグを組むと決まったときに「チッチが一歩踏み出せるように僕も真剣に考えるから覚悟しておいてね。」と言われていたので、脚本をいただく前から覚悟は決まっていました。チヨは私のパーソナルな部分を織り交ぜて作ってくださった役柄だそうです。魅力的で素敵な女の子にしていただけたので、凄く嬉しかったです。

――お芝居をするにあたって撮影を前に作品についてお話をされたことはあったのでしょうか。

チッチ:

「とにかく、自然体のチッチでお芝居をしてほしい。」と言っていただけました。行定監督は私の声を気に入ってくれていたそうで、いつも通りの変わらない声で、自然と言葉が出るよう役に取り組みました。

――中島歩さんとはそれぞれの役についてや、台詞の掛け合いについてなどについてお話しされたことはあったのでしょうか。

チッチ:

作品に関してだけでなくいろいろなお話をさせていただきました。演じられていたアキオも落ち着いている役ですけど、実際の中島さんはもっとフラットで音楽の話など明るくしてくださる方なので、そういった面には凄く救われました。演じていく中で悩んだ時も相談して、アドバイスをいただきました。

――本作はラブストーリーですが恋愛についてのお話しされたのですか。

チッチ:

はい。作品から一歩離れた場所で聞く中島さんの恋愛についてのお話も凄く面白くかったです。趣味などのお話も面白くて撮影とそれ以外の時間とで2回分楽しめました。そうやって私がリラックスできるようにしてくださったので、撮影中もアキオと会話するというより中島さんと会話しているような感じで演じることができました。アキオがどこかに行ってしまうシーンは、泣くシーンではなかったのですがすごく悲しくなってしまって自然と涙が出てきました。

――自然に役にも入っていけたんですね。

チッチ:

はい。行定監督も現場での表情や目のお芝居、1つ1つの間合い、静けさを凄く大事にしてくださったので、より自然と演じることができました。

私の世界が広がると考えていただけた

――言葉もそうですが、画としても綺麗な作品でした。

チッチ:

カメラマンさんたちもこだわっていらして、モノクロの中にも色味の変化がある映像になっていました。そういうこだわりから、私も刺激を受けました。

――初めて女優として演技されていかがでしたか。

チッチ:

LIVE時は“ありのままを表現したものを愛してもらえればいい”と考えているんですが、映画では“誰かになり切ったものを観てもらうこと”になり、まったく逆なので凄く難しかったです。

――全く逆になりますね。

チッチ:

実際にやってみると、違う誰かに生まれ変わる、全然違う世界に入り込んでいくということが面白くて、お芝居が好きになりました。

――素晴らしい。本当に女優は今作が初めてなんですよね。

チッチ:

初めてです(笑)。

――最初に「覚悟しておいてね」と言われていたとのことですが、ラブシーンがあるということも聞いていたのでしょうか。

チッチ:

はい、「濡れ場があるよ、キスシーンあるからね。」ということは言われていました。私もそれを聞いて「やります」と答えました。

――初の女優でその覚悟が持てるのが凄いです。

チッチ:

行定監督は私の第一歩としての映像作品をやるならそういうことをやった方がいい、そういうことができた方が私の世界が広がると考えていただけたんだと思います。その思いを感じていたので、全然いやだとは思いませんでした。逆に恥ずかしがったら失礼だなと思いました。行定監督、中島さん、スタッフのみなさんが凄い方だったからもてた覚悟です。

――だからこそラブシーンは、なによりも綺麗だなという感情を強く感じたんだと思います。

チッチ:

ありがとうございます。行定組のみなさんが「大丈夫、綺麗に撮るから。」と安心できる環境を作ってくださったおかげです。真剣にどう綺麗に撮るのかを考えてくださっていたので、間近で見ていてプロだなと改めて感じました。撮影中は常にカッコいいなと思う日々でした。

私の頭の中からもいろいろな思いが湧き出てくるとても魅力的な作品

――本作は恋愛ですけど、許されない関係じゃないですか。

チッチ:

入り乱れていますよね。私が演じたチヨ以外にもアキオには相手がいて。

――精神的な繋がり・恋愛感情が一番強いのはアキオとチヨの二人。

チッチ:

そうですね。純粋に恋をしているのがこの二人、でもいけない関係。しかもチヨはほかに一番がいるのかもしれないと思っている。すごく考えさせられるお話ですね。

――作中での愛し合う場面でのアキオの誤魔化しやああいうことになってしまった精神面からくる状況は、男性目線で見るとリアルだなと思いました。

チッチ:

そうなんですね。あのシーンは行定監督が、本当に好きな人との時にそういうことがあったそうなんです。だからこそ、生々しく撮れたんだと思います。あの誤魔化すシーンを撮り終えたときに、知っている関係なく誤魔化していることが分かったので「これ、わかりますよ。」って言ったんです。

――分かるんですか。

チッチ:

はい。撮り終えた後に「彼女は気づいていたと思います。」という話をしました。そのことに行定監督も中島さんもびっくりされていました。そのことを受けて「じゃあ、次のシーンはこういう顔だね」って、気づいているけど気づいていないふりをする悲しい顔をするシーンになりました。

――それを伺うとさらに物語の深さが増しますね。本当に大人のドラマですね。

チッチ:

普通の映画でもここまで描かないじゃないですか。凄く密に描かれていて、それでいて大胆ですよね。

――これだけの濃い大人の恋愛ドラマ、完成した作品を観られていかがでしたか。

チッチ:

1つの作品として凄く美しくて、凄く想像力をわきたてる物語なので、私の頭の中からもいろいろな思いが湧き出てくるとても魅力的な作品でした。行定監督だからこそできる作品だと思います。本当は続きのお話があるんです。行定監督も撮影前に「絶対に20分じゃおさまらない」と言っていたんですけど、実際そうでした(笑)。

――確かに余韻が残るお話しで先がありそうな終わり方でしたが、実際にそうだったんですね。

チッチ:

そうですよね。実はまだまだ先があるんです。いつかこの先のお話も映画にできたらと思っています。

――「私自身も知らなかった、私を観ているような気持ち」とおっしゃられていましたが、完成した作品を観られていかがでしたか。

チッチ:

この時にこんな顔をしているんだ、こんな眼をしていたんだ、こんな声で話していたんだと、行定監督に自分の知らない部分を引き出してもらえたんだなと感じたことが印象的でした。本当に自分の知らない自分を観ました。初めて主演を演じた作品で大胆にいろんなことに挑戦できました。心情としても難しい役でしたが、たくさんのことを学ばせてもらえ、撮り終えてまたいろいろとやってみたいなという気持ちが芽生えています。今回は私自身のパーソナルな部分に寄り添って作っていただけたので、今度は全然違ったものになりきるということにも挑戦したいです。

――次に挑戦するのであればこんな作品にという希望はありますか。

チッチ:

このオムニバス6作品のなかではハシヤスメ・アツコの『レコンキスタ』です。個人的にはホラーや世にも奇妙な物語が大好きなので、そういう狂気を感じるものに出てみたいです。

――本当に『BiSH presents PCR is PAiPAi CHiNCHiN ROCK'N'ROLL』は6作品ともそれぞれに色が違っていて見応えのある映画でした。

チッチ:

ありがとうございます。本当にどの作品も綺麗で、音楽もこだわりがある作品なので、映画館の環境で体験してもらいたいですね。この映画はBiSHとしては初めての試みだったので、どうなるかみんな不安でした。こんな面白いと思えるものができたので、やってみてよかったと思います。BiSHを知らない人もBiSHが好きで観てくださる人も、フラットな気持ちで映画を観てほしいです。観終えてどんな気持ちが自分に残ったのか、何を感じたかを聞いてみたいですね。心に残るものがあれば、嬉しいです。

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