早川めぐみデビュー!80年代にビーイングが行った “メタルクイーン実験” とは?  今こそ注目! ジャパメタ人気と並走したメタルクイーンたち

ジャパメタ人気を背景に始まったアバンギャルドな音楽実験

つい40年前の日本では、メジャーシーンで活躍をする女性のロックミュージシャンが存在しなかった。そんな時代に、音楽制作会社・アーティストマネジメント会社のビーイングは、ある先鋭的な実験を行っていた。極めて短期間に、イニシャルが、“Heavy Metal” の略と同じ “H.M”、もしくは、“Hard Rock” の略と同じ “H.R” となるような芸名のHR/HM系女性ソロボーカリストを続々とデビューさせていたのだ。

しかも、そこにはLOUDNESS、X-RAY、BOW WOW(当時)、44MAGNUM、ACTIONなど、当時、大きな波になっていた “ジャパメタ” の主役たちが関与していた。

本稿ではこの試みを、便宜上「メタルクイーン実験」と名付けたい。

キョンキョン、中森明菜と同学年、本城未沙子降臨

「メタルクイーン実験」はまず、1982年10月に本城未沙子が、高崎晃(LOUDNESS)のプロデュースによるアルバム『魔女伝説~Messiah's Blessing』で世に送り込まれたことから始まった。「VIRGIN DEVIL PRINCESS」なるキャッチフレーズが付けられた彼女は当時17歳。同じ82年にデビューした同学年の小泉今日子、中森明菜の曲ではありえない、「処刑台」「黒ミサ」「悪の宴」といった歌詞をシャウトした。 

次に、金属的なハイトーンボイスを誇る浜田麻里が、1983年4月にアルバム『Lunatic Doll~暗殺警告』でデビューする。こちらは樋口宗孝(LOUDNESS)によるプロデュースだった。なお、本城、浜田のアルバムにはいずれも、その後、10代の天才ギタリストとして注目される湯浅晋(X-RAY)も参加している。

早瀬ルミナ、橋本ミユキもメタルと融合

浜田と同じ年の9月にアルバム『甘い暴力』でデビューしたのが当時15歳の早瀬ルミナである。曲や演奏は、BOW WOW、樋口宗孝(LOUDNESS)、織田哲郎、鳴瀬喜博(のちにカシオペア)ら錚々たる面々が担当。それに対し、早瀬のボーカルは幼さを感じるもので、全曲を亜蘭知子が手掛けた歌詞は10代の不安定なメンタルを表現したものが多かった。方法論は異なるが、BABYMETALがデビューする28年も前にメタルと未成熟なものとの融合実験が行われていたのだ。

1984年になると、44MAGNUMのプロデュースによるアルバム『One Night Angel』で橋本ミユキがデビュー。こちらは、ジャケットはパンク風、曲はポップ寄りの傾向があった。彼女はその後、広瀬さとし(44MAGNUM)と結成したユニット・TOPAZとしての活動の方が有名かもしれない。

“歌謡メタル・エンジェル” 早川めぐみ「横須賀17エレジー」でデビュー

翌1985年1月、いよいよ実験は最終段階に入る。作詞が売野雅勇、作曲が芹澤廣明と、一連のチェッカーズ楽曲や中森明菜の「少女A」と同じ作家陣によるデビュー曲「横須賀17エレジー」で、早川めぐみが投入されるのだ。彼女は「歌謡メタル・エンジェル」というキャッチフレーズを掲げ、いわば、歌謡曲風のメタルを歌うアイドルとして売り出された。積極的なテレビ出演、水着姿のジャケットなど、その活動はHR/HMの大衆化実験といえるものだった。

以後、歌謡メタル・エンジェルには驚きのリリースラッシュが待っていた。デビュー翌月には、山本恭司(VOW WOW *BOW WOWから改称)、北島健二(のちにFENCE OF DEFENSE)、松本孝弘(のちにB'z)、難波弘之ら豪華メンバーが参加したアルバム『秘密警察 SECRET POLICE』を発売。そこから、1年3ヶ月の間にリリースしたアルバムは実に5枚。全曲洋楽カバーだったり、高橋ヨシロウ(ACTION)・本田恭章が楽曲提供したミニアルバムだったり、ポップなカラーを強化した内容だったりとすべてが実験的だった。しかし、残念ながらそれらがヒットした事実はなく、彼女はやがて表舞台を去り、実験は打ち止めとなった。

メタルクイーンたちの今

一連の「メタルクイーン実験」は80年代後半に、楽曲にポップ色を強めた浜田麻里が大ブレイクし、日本初のメジャーな女性ソロロックボーカリストとなったことで見事に結実したといえる。音楽業界に多大な影響を与えた浜田は以後、現在まで継続的に活動中だ。

嬉しいのは、他のメタルクイーンたちのほとんどが、その後も何らかの形で音楽に関わっていることである。本城未沙子は一時、音楽業界を離れていたが、今はHR/HMを歌い続けている。作詞家としても活動する橋本ミユキ(現:はしもとみゆき)は近年、TOPAZを再始動させた。また、つい最近、某ミュージシャンのSNSにマスクを装着した早川めぐみの近影がアップされていた。彼女はコーラスシンガーとしての活動を経て、本名で “歌謡メタル” とはかけ離れた路線の歌手活動を展開した実績もある。

カタリベ: ミゾロギ・ダイスケ

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