カタコトの「受け子」、覚えるせりふは「宮本です」だけ 特殊詐欺で摘発増える外国人

神戸新聞NEXT(ponta1414/stock.adobe.com)

 高齢者らから、現金やキャッシュカードをだまし取る特殊詐欺。この特殊詐欺事件に関わって容疑者として摘発される外国人が増えている。ほとんど日本語が話せない外国人が逮捕されたケースもある。コロナ禍、孤立、生活苦…。「受け子」として逮捕、起訴された中国人男性の公判を傍聴すると、行き詰まった外国人を取り巻く厳しい事情が見えてきた。

■「受け子」の人材不足

 警察庁によると、2020年に、特殊詐欺事件に関わって摘発された外国人は136人。17年までは60人前後で推移しており、倍増以上の伸びを見せている。

 その約6割が、被害者と直接対面する「受け子」だった。国別では中国籍が7割と多く、ほかは韓国籍(7%)、ベトナム国籍(5%)となっている。受け子以外に、ATM(現金自動預払機)などで現金を引き出す「出し子」役もいる。

 ほとんど摘発者がいなかった兵庫県警でも、20年に5人を摘発。捜査関係者は「詐欺グループも今や人手不足。外国人材に頼らざるを得ないのでは」と指摘する。捕まる可能性が高い受け子や出し子は誰もやりたがらない。詐欺グループが狙うのは、金に困った外国人。妻子と暮らす東京で誘いに応じてしまい、兵庫県警に摘発された中国籍のリュウ(46)=仮名=も、そんな一人だった。

■入り口はコミュニティーサイト

 くせ毛に丸メガネ。法廷で見たリュウは人の良さそうな中年男性に見えた。

 中国東北地方に由来する中国朝鮮族。約20年前に来日し、永住外国人の妻と結婚した。派遣社員として二つの仕事を掛け持ちしながら一人娘を養っていた。

 だが、コロナ禍で給料が減らされ、休みなく働いて月収はようやく26万円。東京での3人家族の生活は決して裕福とは言えなかった。

 何かもっと金になる仕事はないか。いつものように中国朝鮮族のコミュニティーサイトで、求人情報を見つめていると、1本の記事が目に止まった。

 「平日のみ、1件ごとに5万円の報酬。月20万~30万円稼げる」。思わずメッセージを送ると、「乾(チェン)」と名乗るリクルート役の男が仕事の内容を説明した。「会社と話のついた客のところに行き、カードを受け取るだけの仕事だ」

 詐欺じゃないか。当然怪しさは感じた。それでも引き返そうとは思わなかった。

■会話は「宮本です」のみ

 1週間後、リュウは阪急電鉄仁川駅(兵庫県宝塚市)近くのマンションに向かった。指示された通りにインターホンを押し、「神戸支局の宮本です」と名乗る。すぐにドアが開き、電話の受話器を持ったまま出てきた高齢女性に、キャッシュカードの入った封筒を手渡された。受け取った封筒を駅前にいる中国籍の男に託す。そこまでが「受け子」のリュウの仕事だった。

 「被害者に大変な、迷惑を掛けた」。公判でのリュウの日本語は、よく聞けばたどたどしさがあった。

 しかし、被害女性は対面したリュウと会釈を交わしたのみで、ほとんど会話をしていない。「キャッシュカードが不正に使われ、交換する必要がある」。突然かかってきた電話に、女性は動揺を隠せないでいた。電話口の男は会話を引き延ばし、リュウがマンションを訪問してから帰るまで、1度も電話を切らなかった。

 公判では、リュウがさらに2件の詐欺で受け子を務めたと明かされた。検察官は、直後に被害者たちの口座から計200万円が引き出された、と指摘した。

■上位に犯罪集団?

 中国社会に詳しいルポライターの安田峰俊さん(40)は中国人の関与が増えた理由について「外見が日本人と変わらず、違和感を持たれないことが大きいのではないか」と指摘。その上で「中国の特徴として、言語や出身地が同じコミュニティー内で商売や犯罪のノウハウを共有する傾向にある」と説明する。リュウの場合は、中国朝鮮族のコミュニティーサイトがそうだった。

 サイトでは写真の共有から、求人情報の公開や通販など幅広い交流ができるが、時に違法なアルバイト情報が紛れ込んでいるとみられる。

 捜査当局も手をこまねいているわけではなく、例えばフェイスブック上で犯罪をにおわせるベトナム語の書き込みを監視することもあるという。しかし、ある捜査関係者は「各国ごとに使うサイトやアプリが異なり、外部から閲覧できないツールも多い。全てを把握するのは難しい」と明かす。

 安田さんは「本人たちはただの留学生や技能実習生でも、上位にはプロの犯罪集団がいる。アルバイト感覚で犯罪に加担してしまい、痛い目に遭うケースが多い」と警鐘を鳴らす。

     ◆

 「実刑を受ければ在留資格を失い、強制国外退去になる。奧さんや娘さんにも会えないんですよ」。法廷で弁護人にたしなめられたリュウ。「ちゃんと反省して、家族のために頑張りたいです」とうなだれた。

 親族が被害弁償したことや、被害者の処罰感情が強くないことが考慮され、21年6月、リュウには執行猶予判決が言い渡された。(井沢泰斗)

© 株式会社神戸新聞社