魚釣れたはいいがキャリーカートが防波堤の岸壁から脱輪…落下止めようとした80代男性が転落 午前3時、暗闇の中の修羅場【敦賀海保日誌】

転落事故の現場(2022年5月・福井県越前町)

2022年5月中旬の午前3時ころ、福井県越前町の漁港にある防波堤から男性が海に転落し負傷したとの情報が消防から敦賀海上保安部に入りました。現場には、すでに救急隊が到着し対応しているとのことで、その後、男性は病院に救急搬送されたのでした。

敦賀海上保安部からは、事故調査のため海上保安官が病院に向かいました。この「事故調査」というのは、海上保安官の大切な仕事の一つで、その事案における事件性の有無を判断したり、事故に至った経緯や原因などを明らかにして再発防止に繋げるという意味合いがあるんです。

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海上保安官が病院に到着すると、事故に遭った男性はすでに処置を終えて病室にいました。 病状を聴くと、ひざ下の骨が完全に折れていて入院手術が必要になるという痛ましいもの・・・ 80代の高齢となるこの男性、意識はしっかりとされていたことから、事故に至った当時の経緯などについて聴きました。

男性は前日の午後5時ころ、知人の男性と2人で愛知県から越前町の漁港に訪れてサビキ釣りを楽しんでいたそうです。 比較的釣果も上がっていたため、日をまたぐ前に帰るつもりが、気付けば深夜2時になっていて、男性は「そろそろ帰ろうか」と、友人とともに荷物をまとめ始めました。 ところで、この男性たちが釣りを行っていた場所は、防波堤の高台になっているところで、海面からの高さは5メートルほど。 同行者は早々に荷物をまとめ、先に高台から降りて駐車場に止めていた車に戻っていきました。 残された男性が、1人で真っ暗な中、魚の入ったクーラーボックスや道具箱を持ち運びやすいようにキャリーカートに乗せて、ロープで縛り、自分の車へ戻ろうとキャリーカートを方向転換させたとき、

「ガコッ」

っと、片輪が岸壁の外側に脱輪してカートが落ちそうに!それを食い止めようとカートを持っていた手に力を込めますが、男性は体ごと引きずり込まれてカートと一緒に下に落ちてしまったのです。 さらに運が悪いことに、この岸壁の2メートルほど下には岩があって、男性はこの岩に激突した後、転がって海に落ちたのでした。 おそらく岩にぶつかったときに足を骨折されたのですが、男性は命からがらなんとか岩場に這い上がり、それをたまたま近くで見ていた釣り中の女性が消防に通報、そして男性の同行者を駐車場まで呼びに走ってくれたのです。 その後、男性が岩の上から防波堤の上に上がれなくなっていたところを救急隊に救出されたということでした。

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この男性、実は当時ライフジャケット(救命胴衣)を着ていなかったんだそう。 以前、息子さんが高齢のお父さんを心配してプレゼントしてくれたライフジャケットは、車の中に積んだままだったそうな。 こんな足の状態で浮力もなく岩場に上がってこられたのは、火事場の馬鹿力ならぬ、まさに“水場の”馬鹿力だったのかもしれません。 いや、でも、すごいという話ではなくて、今回の様にいつも助かる保証は全くありません!やっぱり陸の上であっても海辺でのライフジャケットの着用は必須です! あと、夜間など周りの見通しが悪いときや人気のない場所では複数人で行動することも大切なこと。今回、すぐに発見してもらえたことも奇跡的だったといえるでしょう。

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実はこの男性、数年前にも釣り中に防波堤の高台から飛び降りて両足の踵を同時に骨折したんだそう・・・長い治療とリハビリを経て、ようやくまた釣りを楽しめるようになるまでに回復したのですが、これでは文字通り“骨折り損”。元気になってまた釣りに行くときには、必ずライフジャケットを着てもらいたいものです。 でないと、海に転落してしまった場合にも、ライフジャケットをプレゼントしてくれた息子さんの気持ちも、2つの意味で“浮かばれない”ことになるでしょう。(敦賀海上保安部・うみまる)

 

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