<北朝鮮内部調査>隠されしコロナの実態を探る(1) 相次ぐ高齢者・幼児の死亡 判定は発熱の有無だけ 回復者も多数

コロナ発生の非常事態を伝える朝鮮中央テレビの5月14日のニュース

金正恩政権が新型コロナウイルスの国内感染を認めてまもなく1か月。北朝鮮当局は毎日新規の発熱者と回復者、治療受けている人の数を公表しているが、死者数については中断している。公表データが正確なのか不明な上、そもそも発熱者=感染者ではない。情報が全く不足しており、コロナの感染状況や当局の対応の実態はわからないままだ。アジアプレスでは6月上旬、北部地域に住む複数の取材協力者に最新の状況を聞いた。(カン・ジウォン/石丸次郎

◆体温測定が唯一の判定基準だった

詳細な報告を送ってきたA氏は両江道(リャンガンド)で家族とアパート暮らしをしている。B氏は咸鏡北道(ハムギョンプクド)の都市部に居住する労働党員である。

――体温測定はどのようにしているのか?

A 人民班長と「非常防疫組」の人間が人民班の全世帯を回って、1日2~3回体温を測る。熱があると自ら申告するとマスクと薬を支給すると宣伝している。
※「非常防疫組」は政府が新型コロナ感染者発生を認めた後にできた組織で、防疫所の職員、警察、秘密警察、党、行政の職員で構成。家庭訪問の他、無断外出者、規定違反者の取り締まりに当たる。
※人民班は最末端の行政組織。20~40世帯を管理する。

――発熱した人はどうなるのか?

A 隔離になり家から一歩も出られない。その家の訪問も中断して扉の外から声をかけて状態を尋ね、1週間ほど経ってまた体温を測りに行く。熱が引いていれば完治者として登録するが、有熱者(発熱者)として登録されている間は、人民班長も一切接触を禁止になって熱も測りにいかない。

――隔離はどのような方法で行うのか?

A 基本的に自宅で隔離させる。一人暮らしの場合は隔離施設に入れる。隔離期間は特に定められておらず、当局は1週間から10日経てば症状は落ち着くと説明していて、熱が引いたら終わる。

◆「私もコロナかかった」

――発熱の有無だけで判断しているようだが、PCR検査など感染判定検査はしないのか?

A 何もない。熱を測るだけ。呼吸困難や症状が深刻な場合にだけ病院に連れて行くが、特別な治療はなく点滴で解熱剤、風邪薬を与えるのがすべてだそうだ。

――あなたは大丈夫なのか?

A 私もコロナにかかった。熱が出て大変だったが、8日間で回復した。人民班を通じてパラセタモールという薬を一つもらった。熱を出した人はものすごく多い。でもほとんどは回復している。封鎖は一日も早く解くべきだという雰囲気だ。緊張は当初より緩んだ。
※実際にコロナに感染したのかどうかは検査がないため本人も知る由はない。パラセタモールは一般医薬品の解熱鎮痛剤。

――あなたの住む区域の状況を教えてほしい。

A 人民班長から6月6日に聞かされたのだが、うちの人民班には重症者が6人、完治した人が12人で、症状のある人が7人だそうだ。
※一人民班の構成は40~100人程度と思われる。

◆栄養失調と病弱な高齢者が死んでいた

――死者は出ているか?

A 亡くなる人があちこちで出ているが、具体的な数字は分からない。6月4日から6日までの間だが、近くに暮らす知人で亡くなった人が4人いる。栄養失調や病気がちの人がコロナにかかって死んでいるそうだ。幼児も死んでいる。

人民班長から手書きの通知文が回ってきた。「死んだのはもともと病気があった人たちだから仕方がない。コロナは全世界が苦しんでいる病気なのだ。具合が悪いのにすぐに申告せずに死んでしまったのだからどうしようもない」という内容だった。

――死亡した場合はどうするのか?

A 死亡者はすべて火葬するが家族は立ち会えない。費用は中国のお金で150~200元が徴収されていたのだが、今は国が負担している。ただ、油がなくてしっかり焼けないので、骨片をハンマーで潰して家族に渡しているそうだ。
※100中国元は約2000円。

死者発生については、咸鏡北道の都市部に住むB氏が、6月初旬に次のように伝えてきた。

B コロナ患者は大勢出ている。死んでいるのは高齢者と幼児が多い。感染が拡大する以前は、薬がなくてたくさん死んだが、今、生き残った老人がコロナで死んでいる。でも発熱して回復した人も多いので、「コロナはたいしたことない」という認識に変わった。
※これもコロナによって死亡したのか正確には不明である。

――飢えて死ぬ人も出ているというが?

B 5月末に全世帯に15日分のトウモロコシの配布があったので、それ以降、餓死者は出ていないと思う。

※両江道の恵山市でも5月25日頃に15日分の食糧が無償で配布された。
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡取り合っている。

__[**<北朝鮮内部>隠されしコロナの実態を探る\(2\)** 都市封鎖を徐々に緩和 外出可能地区から農村に労力動員](https://www.asiapress.org/apn/2022/06/north-korea/korona-52/)

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