生誕100周年!ジュディ・ガーランドのキャリア晩年を飾ったキャピトル時代の名盤・レア盤を振り返る

2022年は、“ミス・ショー・ビジネス”と呼ばれたジュディ・ガーランドの生誕100年にあたるメモリアル・イヤー。この機会にキャピトルのカタログの中から10タイトルがリリースされた。そのうち9作は国内初CD化。市場でなかなかお目にかかれなかったレア盤がまとめて登場したのだから、これは見逃せない。

彼女の晩年を描いた映画『ジュディ 虹の彼方に』(2019)が公開され、主役のレネー・ゼルウィガーがアカデミー賞主演女優賞を受賞したのは記憶に新しい。吹き替え無しで全てを歌い切ったゼルウィガーの熱演は凄かった。伝説の歌姫を知らない世代でも、この映画でジュディ・ガーランドを認識した方は多いだろう。ダイナミックな歌いっぷりは、まるでジュディが憑依したかのようだった。

<YouTube:Renée Zellweger - Over The Rainbow (From 'Judy' / Lyric Video)

ジュディ・ガーランドは、ヴォードヴィル一家に生まれ、幼い頃から2人の姉と一緒にステージに立っている。その後、MGM映画『オズの魔法使い』のドロシー役(撮影時は16歳)で大ブレイク。彼女が歌った「虹の彼方に」は、アカデミー主題歌賞を獲得。フレッド・アステアと共演した『イースター・パレード』(1948)も初期代表作の一つだ。

<YouTube:Over The Rainbow

成功と引き換えに、彼女の私生活はボロボロだった。映画会社から渡された覚醒剤と睡眠薬を常用し、精神的に追い詰められていく。しかし、離婚(生涯5回結婚)、自殺未遂、出演キャンセルなど、多くのトラブルを抱えながらも、その存在は偶像化していった。

<YouTube:Born In a Trunk Medley - Swanee - Born in a Trunk - I'll get By - You Took Advantage

MGMを解雇されたジュディは、コンサート活動に力を入れるようになる。54年、『スタア誕生』の成功で映画界に復帰したがオスカーを逸し、さらに歌手活動へと軸足を移していった。今回のラインナップには、55年から65年の作品が並んでいる(スタジオ録音7枚とライヴ録音3枚)。どのアルバムも持ち味である歯切れの良さが際立つ逸品揃い。円熟期を迎えたジュディの歌を存分に味わうことができる。

『ジュディ・イン・ラヴ』と『ジュディ』は、ネルソン・リドルが伴奏と編曲を担当。リドルはフランク・シナトラを初めとする多くのトップ・シンガーと組んだ巨匠として名高い。ジュディは華やかにアレンジされたスコアをバックに、スタンダードをストレートに歌い切る。

『ジュディ・イン・ラヴ』は、スウィンギーな「ジング!ウェント・ザ・ストリングス・オブ・マイ・ハート(心の糸をかき鳴らせ)」が圧巻。彼女が子供の頃から歌っている十八番のナンバーだ。『ジュディ』では、冒頭の「降っても晴れても」が素晴らしい。このラヴ・ソングは、通常スローで歌われることが多く、ビリー・ホリデイもサラ・ヴォーンもバラード・テンポで歌っている。しかしジュディは、ボンゴの激しいリズムに乗って、パワフルに飛ばすのだ。圧倒的な存在感! 映画『ジュディ 虹の彼方に』の重要なラスト・シーンでも使われていた。

<YouTube:By MyselfBy MyselfBy Myself

『アローン』と『ザ・レター』のパートナーは、ゴードン・ジェンキンス。ジェンキンスもシナトラと多く仕事をした歌伴の第一人者で、甘い旋律を得意とするソングライターでもある(『ザ・レター』は全曲彼のオリジナル)。『アローン』は、タイトル通り「孤独」がテーマのコンセプト・アルバム。これがいい。「バイ・マイセルフ」、「リトル・ガール・ブルー」、「ブルー・プレリュード」などは、他の歌手で何度も聴いているけれど、ジュディの歌は説得力が違う。これが演技派女優の芸なのか。

UHQCD(高音質CD)での復刻だから、臨場感も増しているのだろう。個人的には、これが今回の一押しだ。『ザ・レター』は、別れたカップルの物語をドラマ風に仕立てた異色の企画。歌の間に男性が女性へ宛てた手紙の朗読が挟まれる。

<YouTube:Over the Rainbow (Remastered)

『ミス・ショー・ビジネス』は、キャピトル第1弾で、全米アルバム・チャート5位を記録したヒット作。「虹の彼方に」収録。

MGM時代のアレンジャーと組んだ『ザッツ・エンタテインメント!』は、タイトル曲、「プッティン・オン・ザ・リッツ」、「ジャスト・ユー、ジャスト・ミー」など軽快なナンバーが楽しい。しっとり歌い上げるラストの「アローン・トゥゲザー」も聴きもの。『ザ・ガーランド・タッチ』は、生前最後のスタジオ・アルバム。ロンドン録音やシングル曲などを合わせたコンピレーション的な内容。現在はサッカー・アンセムとして知られる「ユール・ネヴァー・ウォーク・アローン」を壮大に歌い上げている。

<YouTube:Swanee

初のライヴ盤『ガーランド・アット・ザ・グローヴ』は、58年のLA公演の記録。熱い観客に呼応するように「スワニー」を絶唱。『ライヴ・アット・ザ・ロンドン・パラディアム』は、娘ライザ・ミネリ(当時18歳)との共演盤。デュエットもある。ジュディが歌うシャンソンの名曲「ホワット・ナウ・マイ・ラヴ(そして今は)」が見事だ。

『ライヴ!』は、62年のNY公演を収録した貴重な発掘音源。「サムシングズ・カミング(ウェストサイド・ストーリー)」、「ゲット・ミー・トゥ・ザ・チャーチ・オン・タイム(マイ・フェア・レディ)」などのブロードウェイ・ナンバーを多く取り上げている。

■リリース情報

ジュディ・ガーランド 生誕100周年 UHQCD名盤・レア盤セレクション
2022年6月8日リリース

https://www.universal-music.co.jp/judy-garland/

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