関西から国内、そして世界へ 「鉄道技術展・大阪」レポート(後編)では各ブースの注目展示内容を紹介【コラム】

本稿では「鉄道技術展・大阪」の各社出展内容を紹介します。写真は大阪府東大阪市に本社を置く鉄道車両メーカー・近畿車輛(近車)のブースで展示された小田急ロマンスカー3000形電車のKD18付随台車。2020年12月に創業100周年を迎えた近車は、記念事業として小田急から返却された台車を復元しました(筆者撮影)

2022年5月25日から3日間、大阪市住之江区のインテックス大阪で開かれ、1万8348人が来場した「鉄道技術展・大阪」のレポート後編です。出展者は270社・団体。関西圏の鉄道事業者のほか、全国展開する車両・信号メーカー、それに保線、車両といった鉄道専業のメーカー・商社などに大別できます。

技術展には順不同で、JR西日本、阪急電鉄、近畿日本鉄道、Osaka Metro、南海電気鉄道、京阪電気鉄道、阪神電気鉄道の関西鉄道7社が特別協力。各社はブースを構え、自社技術をしっかりPRしました。ここでは各社の出展内容を紹介、初めての関西開催の意義を考えましょう。

「大阪発銚子行き」、その正体は?

本サイトにも2022年2月に掲載されたこのニュース、ご記憶の方も多いでしょう。「千葉ローカル私鉄 銚子電鉄(銚電)線にJR西日本の最新情報技術を導入、無人駅などで稼働」。技術展にも出展した、JR西日本グループのJR西日本テクシアが開発した駅向けの簡易情報端末を、銚電が採用しました。

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https://tetsudo-ch.com/12199083.html

JR〇〇を名乗る企業は、一般にJR本体が外注化する業務を請け負います。しかし、コロナで状況は一変。本体の経営環境が厳しさを増し、グループ子会社も自立を求められます。JR西日本グループは、2021年11月の「鉄道技術展2021」にも共同出展しましたが、今回は地元開催ということもあり、大型ブースで各社の技術をアピールしました。

新幹線から電気工事まで 本体とグループ合同ブース

技術展に出展したのはJR西日本(本体)、JR西日本テクノス、関西工機整備、大鉄工業、西日本電気システム、レールテック、てつでんなど全部で17社。JR西日本の技術分野をすべてカバーします。社名だけでは、JR西日本グループと気づかない会社もあります。

たとえば大阪府箕面市に本社を置く津田電気計器。鉄道の制御・計測機器や変電所システムを管理する計測機器の開発・製造・販売が主な役目で、JR西日本の外注業務を請け負う協力会社でしたが、JR西日本から出資を受けてグループ企業になりました。

航空測量や建設コンサルタントで知られるアジア航測は、東京に本社を置く技術系企業。JR西日本は2013年、筆頭株主になりました。鉄道事業者を意識した新サービスが「RaiLis(レイリス)」。レーザースキャナーやデジタルカメラをトロ台車(手押し式簡易台車)などに搭載して、レールのひずみなどを計測します。アジア航測は技術展出展を通じて、鉄道を得意分野に育てる意向です。

広島に本社を置くJR西日本グループの広成建設は、社員教育に成果を挙げるVR(バーチャルリアリティー)をデモンストレーション。保線作業時の列車風圧を仮想現実で体感し、安全な作業につなげます(筆者撮影)

利用できる技術は提供してもらう

今、鉄道技術は大きな変革期を迎えています。自動運転、列車の無線制御、水素ハイブリッド電車、AI(人工知能)、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)の活用などなど。鉄道各社はそれぞれの考え方で技術開発しますが、応用できる技術があれば提供を受けるのも得策です。

鉄道は路線が決まっているので、A社とB社が〝ガチでライバル!?〟の事例は多くありません。ICカード乗車券やMaaSのように、業界全体で取り組む方がメリットを発揮できるケースも多い。そうした点からも、技術展のような業界横断イベントの意義は大きく、多くの来場者を集めたのです。

JR西日本は隊列走行のBRTを情報発信

JR西日本の自動運転BRTの隊列走行デモンストレーション。「車車間通信」と呼ばれるバス車両相互間の通信技術を活用して、2台目以降のバスを先頭車に続行させます。隊列走行は空気抵抗を減らすことで省エネにも効果があります(資料:JR西日本)

技術展には、JR西日本本体も出展しました。出展メニューは「自動運転・隊列走行BRT」、「MaaSアプリケーション」など。ソフトバンクと共同開発中のBRTは、自動運転のバス高速輸送システムで、都市、地方それぞれで存在感を発揮します。

前回コラムで取り上げた緒方文人代表取締役副社長・鉄道本部長の特別講演によると、隊列走行は、先頭車だけドライバーが乗車。2、3台目は自動運転で続行します。

さらにJR西日本は、なにわ筋線の新駅・うめきた駅(略称)から新しい価値創造に挑戦するプロジェクト、「JR WEST LABO」への参加も呼びかけました。

「ひのとり」プレミアム車両の電動リクライニングシートを体感・近鉄

近鉄ブースでは名阪特急「ひのとり」のプレミアムシートを展示。電動リクライニングシートの本当の実力がわかるのは、もちろん実際の乗車時です(筆者撮影)

近鉄は、2020年デビューの名阪特急「ひのとり」プレミアム車両の電動リクライニングシートを会場に展示。来場者に、座り心地を体感してもらいました。

ひのとりの先頭部は、飛び立つ鳥のイメージです。安東隆昭取締役常務執行役員・鉄道本部副本部長によると、先頭車の形状や塗装は創意工夫の集合体ということです。

大阪・関西万博を視野に自動運転車をデモンストレーション・Osaka Metro

Osaka Metroが技術展会場前でデモンストレーションした自動運転車。車両は前後同形で、どちら向きにも走行できます(筆者撮影)

Osaka Metroは、屋外で2025年大阪・関西万博での実用化をめざす自動運転バスをデモンストレーションしました。

試乗したフランス製の自動運転バスは、ハンドルなどが一切ない完全自動運転。歩行者飛び出しなど緊急事態には、ナビゲーターが対応します。

出改札機やホームドアの新製品も

高見沢サイバネティックス製の改札ゲートと、ジョルダンモバイルチケットが連携。ガラスを多用し、従来型の改札機に比べ明るい印象を与えます(筆者撮影)

出改札機やホームドア関係では、ジョルダンと高見沢サイバネティックスの専門2社が実機で競演しました。両社はある意味ライバルですが、相互に連携することで駅務機器全体への注目度を高める狙いです。乗換検索サイトのジョルダンは、「すべての人へ移動の新体験を」のテーマをかかげました。

ジョルダンが発信したのはモバイルチケット。チケットシステムに標準搭載の2次元コードを、改札機のカメラで読み取って認証できます。さらに、モバイルチケットで得られるデータ分析コンテンツもPR。チケット利用者には利便性、事業者にも利用客の属性分析などで導入効果を得られるモバイルシステムは、今後ますます普及が進みそうです。

高見沢サイバネティックスは券売機メーカーで、最近は自動改札機、ホームドアを製品化します。技術展では、クレジットカード読み取り機能を備えた自動改札機をお披露目しました。

阪急・阪神・アイテック阪急が共同出展

関西鉄道事業者の出展内容にも、多くの来場者は興味をもったはず。阪急、阪神はグループのアイテック阪急阪神と3社共同でブースを構え、30件近い新規技術や新サービスを売り込みました。

阪神車両メンテナンスは、京都の叡山電鉄700系電車の車両リニューアルを受注しています(2019年完成)。正面窓の大型化などで、印象は大きく変わりました。

グループの技術を売る・南海や京阪

シーエス・インスペクターという会社、多くの方はご存じないはずですが、実は南海のグループ企業。ドローンによる施設点検、橋脚の健全度チェックなどに独自ノウハウを持ちます。

京阪ブースではグループで測量・設計・調査を手がける、かんこう(企業名)が航空レーザー測量技術をPRしました。上空から撮影した画像を立体化、リアルな街づくりのプラン策定に役立てます。

車内のウィルスやカビを99%除菌

海外企業はコロナ禍の影響でほぼ出展見送りでしたが、日本法人を持つドイツのブレーキメーカーのクノールブレムゼ鉄道システムジャパンの大型ブースが目を引きました。

話題の新商品も。空気清浄機能を備えた空調装置「クリーンエア」。エアフィルターと誘電体バリア放電技術を活用した空気ろ過システムで、車内のウィルスやバクテリア、カビを99%除菌できるそうです。

「次回の技術展も大阪で」

「鉄道技術展・大阪」のリポートは以上ですが、私は関西系の出展者に、共通の質問を投げかけてみました。「技術展になぜ出展したのですか?」

帰ってきた答えは全員一致。「大阪開催なので、会社や技術を知ってもらういい機会になると思いました」。これこそが技術展関西開催の意義。「次回もチャンスがあれば、ぜひ大阪での技術展開催してほしい」と思いながら、インテックスをあとにしました。

インテックス大阪の2ホールを使った「鉄道技術展 大阪」の会場全景。通路スペースをたっぷり確保するなど感染拡大防止に最大限配慮しました(画像:「鉄道技術展・大阪」オフィシャル)

記事:上里夏生

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