“映える”一方、選手やチームを悩ませるラリーのウォータースプラッシュ【WRC Topic】

 WRC世界ラリー選手権の2022年シーズン第5戦『ラリー・イタリア・サルディニア』では“ウォータースプラッシュ問題”が浮かび上がった。川や大きな水溜まりを通過するウォータースプラッシュは、写真や映像的には迫力があって非常に魅力的だが、選手やチームにとっては頭の痛いシチュエーションだ。

 サルディニアでは、今季初めて本格的なウォータースプラッシュが出現するとあって、各チームは事前にその対策を進めていた。しかし、結果的に多くの選手がエンジン内に水が入ってしまい、ミスファイヤが発生。通過後、しばらくエンジンが噴けないクルマも少なくなかった。

 ラリー1カーの場合、吸気ダクトから水を吸い込まないように、瞬間的に吸気経路を切り替えるバイパスがエアクリーナーよりも前側に設けられてる。その昔は、ウォータースプラッシュが近づくとコ・ドライバーが「えいや」とレバーを引いて切り替えていた。しかし、最近はスイッチを押すだけでアクチュエーターが作動し切り替わる方式が一般的で、随分とイージーになった。

 ただし、それでも水の圧力は時にすさまじく、吸気経路をバイパスさせてもどこからか水が入り、吸い込んでしまうのだ。全チーム入念にウォータースプラッシュ対策をしているようだが、それでも水の進入を完全に防ぐことは難しい。

川や水たまりを超えていく“ウォータースプラッシュ”は写真や映像的には迫力があり非常に魅力的なシーンだ

 また、ウォータースプラッシュがある場所は基本的に窪地で、下が見えないことからクルマの下まわりを打ちやすく、レッキ(ステージの事前下見走行)の時にどのラインなら大丈夫かを見極める必要がある。フロントのオーバーハングが長いクルマの場合とくにバンパー下を打ちやすく、衝撃でラジエーターがダメージを受けてしまうこともある。

 さらに、最近では随分と少なくなったが、高速で水に突入すると、水圧でフロントバンパーが壊れてしまったり、ヘッドライトが内部からの水圧で外側に押し出されてしまうようなこともあった。かといって、速度を極端に落として通過しようとすると、タイムを失うだけでなく、水に浸かっている時間が長くなって水を吸い込みやすくなるのが難しいところだ。

 今季のWRCで次にウォータースプラッシュが出てくる可能性が高いのは、第6戦のサファリ・ラリー・ケニア。各マシン、ドライバーがどのようなスピード、姿勢でウォータースプラッシュを通過するのか、その部分に注目して映像を見ても面白いはずだ。

ウォータースプラッシュの問題のひとつに、エンジンの吸気ラインへの水の侵入が挙げられる
水圧により車両がダメージを追う場合もある。WRC第5戦イタリアでは勝田貴元のGRヤリス・ラリー1で、事前に損傷していたバンパーが水圧によって内部に押されカーボンパーツがラジエーターに穴を空けた
水深が深く進入スピードが高くない場合は車両が水で覆われてしまうことも。写真は“イエローサブマリン”こと2006年アルゼンチンでのスズキ・スイフト・スーパー1600

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