エルトン・ジョン「Rocket Man」解説:様々なアーティストに歌い継がれている名曲

名曲揃いのエルトン・ジョン(Elton John)の作品群においても一際輝きを放つ「Rocket Man」。エルトンの半生を描いた映画『ロケットマン』のサウンドトラックに使用されたタロン・エガートンによるヴァージョンは、この曲の最も新しく注目されたカヴァー・ヴァージョンということになる。

ここでは、優れたカヴァーを生み、今もなお愛され続ける楽曲「Rocketman」の歴史を振り返っていきたい。

スーパースターであるエルトン自身も、エガートンの歌声を大絶賛している。その少し前の2018年には、カントリーの名グループ、リトル・ビッグ・タウンも独創性溢れるカヴァー・ヴァージョンを制作し、豪華アーティストが集結したコンピレーション・アルバム『Restoration: The Songs Of Elton John And Bernie Taupin』にそれを提供した。

また、2017年には、1972年のオリジナル・ヴァージョンの新たなプロモーション・ビデオが公開されている。イランの映像作家であるマジッド・アディンが手がけたその映像作品は、この曲に新たな命を吹き込んだ。

鮮やかな歌詞の描写が魅力の同曲だが、エルトンによるオリジナル・ヴァージョンがリリースされたのは1972年3月31日のこと。UKでは「Holiday Inn」や「Goodbye」を併せて収録した”マキシ・シングル”として、5作目のスタジオ・アルバム『Honky Château』に先駆けて発表された。

A面に配された「Rocket Man」と同アルバムは、どちらもエルトン作品には欠かせないガス・ダッジョンのプロデュース作だったが、同様のテーマを取り上げ、デヴィッド・ボウイのブレイクのきっかけとなった1969年の楽曲「Space Oddity」もまたダッジョンが手がけた作品だった。

宇宙開発時代のシングル曲

ボウイの「Space Oddity」がリリースされたのは、宇宙飛行に世間が熱狂した時代、人類史上初めての月面着陸を成し遂げたアポロ11号の打ち上げ直前のことだった。だが1972年ごろになると、そんな”宇宙開発時代”は終わりを迎えようとしていた。同年の12月に月面へ降り立ったアポロ17号は、アポロ計画における最終飛行となった。

バーニー・トーピンが書いた「Rocket Man」の歌詞は、SF作家として名高いレイ・ブラッドベリの『刺青の男』(1951年) に収録された18の短編のうちのひとつを題材としている。同著は1969年にロッド・スタイガーとクレア・ブルームの共演で映画化されたことで、新たなファン層を獲得。そこには宇宙空間で3ヶ月を過ごすことになった飛行士の生活が描かれている。

エルトンの「Rocket Man」がヒット・チャートを駆け上がる中、デヴィッド・ボウイは自身のヒット曲「Space Oddity」がこの曲に与えた影響について、そして当時まだ若手だった彼はディスク誌の取材に対し、自身の楽曲は時代に受け入れられなかったとも語っている。

「“Space Oddity”を一切なかったことにできたら良いと思っているんだ。だけどエルトン・ジョンがそこから大きな影響を受けて“Rocket Man”を書いたというのは、本当に有難いことさ。俺は時代が追いついていなかったんだと思っている。あのシングルを今リリースしていたら、俺は“時の人”になっていただろうね」

名曲誕生の瞬間

1998年にバーニー・トーピンは、ミュージシャン誌の取材にこう話している。

「かなり前のことだけど、イングランドにある両親の家に車で向かっている途中、“Rocket Man”の最初のヴァースを思いついたんだ。忘れないうちに着かないといけないと思って、田舎道を必死で運転したよ。そして家に駆け込んで、歌詞を書き留めたんだ。そのときには最初の部分が出来上がっていた。”昨晩、フライトに備えて彼女が荷造りをしてくれた/予定時刻は午前9時、その頃にははるか上空にいるだろう (She packed my bags last night, pre-flight/zero hour, 9am, and I’m gonna be high as a kite by then.) “という歌詞がいきなり頭に浮かんできたんだ」

「Rocket Man」は1972年6月の初週に全英2位をマーク。このとき首位獲得を阻んだのは、エルトンの友人であるマーク・ボランが率いたT・レックスの「Metal Guru」だった。7月には全米シングル・チャートで6位を記録。同じ月にはアメリカのシンガー・ソングライター、ハリー・ニルソンがアルバム『Son Of Schmilsson(シュミルソン2世)』をリリースしたが、同作に収録された「Spaceman」は、宇宙開発への関心の低下を歌った1曲だった。同曲にはこんな一節がある。

I wanted to be a spaceman, that’s what I wanted to be
But now that I am a spaceman, nobody cares about me
俺は宇宙飛行士になりたかった、俺の夢だったんだ
だけど宇宙飛行士になってみると、誰も気にかけちゃいなかったのさ

尽きることのないカヴァー

「Rocket Man」のカヴァーがいち早く収録されたのは、『Top Of The Pops』シリーズの第24弾となるアルバムだった。同シリーズは、無名のミュージシャンが旬のヒット曲を短時間でレコーディングした格安のコンピレーション・アルバムだ。皮肉にも1960年代後半には、まだ無名だったエルトン自身が同シリーズのいくつかの作品に参加していた。

当時、娯楽性を重視した大衆的なオーケストラがこぞってレパートリーにしていた同曲だが、ポップ・ミュージックの流行が一巡した頃に再び注目を集めることになる。1991年になって、ケイト・ブッシュが同曲をカヴァーしたのだ。彼女は、人気アーティストが多数参加した同年のアルバム『Two Rooms: Celebrating The Songs Of Elton John & Bernie Taupin』で「Rocket Man」を取り上げた。シングルとしてリリースされた同ヴァージョンは、UKで12位、オーストラリアでは2位を記録するヒットとなった。

1990年代にはブラウン・ダービーズやミー・ファースト・アンド・ザ・ギミー・ギミーズをはじめ、多くのアーティストがこの曲をカヴァー。UKのギター・ヒーローであるハンク・マーヴィンも、自身のアルバム『Heartbeat』で取り上げている。2003年にはニール・ダイアモンドが、1970年から2002年までのライヴ演奏を纏めたCD 5枚とDVD 1枚のボックス・セット『Stages』をリリース。同ボックスには、彼が1978年にステージで披露した演奏が収録された。

2004年には、マイ・モーニング・ジャケットが90年代後半に録音した初期のカヴァー音源が、同バンドの編集盤『The Sandworm Cometh』に収録。2011年にはエルトン自身が、『glee/グリー』アメリカのシンガー/俳優/ダンサーであるマシュー・モリソンとのデュエットで「Rocket Man」と同じく『Honky Château』の収録曲「Mona Lisas And Mad Hatters」のメドレーを発表している。

エレクトロ・ポップの草分け的グループであるヘヴン17も、2015年に印象的なカヴァー・ヴァージョンを発表。彼らのヴァージョンは、80年代を彩ったアーティストたちが多種多様なヒット曲を演奏した同年のコンピレーション『80’s Re-Covered』に収録された。

「Rocket Man」はまた、カントリー界で活躍するリバプール生まれのシンガー・ソングライター、ローラ・オークスのライヴの定番曲にもなっている。オークスは、英国カントリー・ミュージック協会によって年間最優秀アーティストに2度も選ばれている実力派だ。

とてつもないスケールのヒット曲

ローラ・オークス「Rocketman」についてこう話す。

「私にとってエルトン・ジョンはいつだって王様です。14歳のとき、初めて観に行ったライヴが彼のステージでした。それを見て私は“どうしよう、将来はコレがやりたい”と思いました。“Rocket Man”はとてつもないスケールのヒット曲だし、エルトンとバーニーの天才的な曲作りのすごい部分が見事にすべて詰まっている。だからこの曲をカヴァーしたいと思ったんです」

「カントリー・ミュージックの世界に入ると、この曲の聴こえ方も変わってきた。ずっと“これは最高のカントリー・ソングになり得る”と思っていたんです。今ではそれが実現できたし、ライヴの中でも大好きな時間になった。それは最高の作詞・作曲コンビであるふたりのすばらしさをお客さんに伝えられるからでもあるけど、何よりエルトンの音楽が好きな理由を再認識できるから。14歳に初めて彼のライヴを観たときの気持ちに戻れるんです」

上記の動画は、”Under The Apple Tree”というアコースティック・ライヴのシリーズで彼女が披露した同曲のカヴァーだ。これ以外にもオークスは、EP『Nashville Stole Your Girl』の中で、エルトンが「Rocket Man」の数年後に発表した『Blue Moves (蒼い肖像) 』収録曲の「Cage The Songbird」を取り上げている。

直近では、カントリー界の大物グループであるリトル・ビッグ・タウンが「Rocket Man」をカヴァー。ジミ・ウェストブルックがリード・ヴォーカルを取った同ヴァージョンには、思わず目を奪われる未来的なビデオも作られた。

彼らはヨーロッパで開催された2018年のC2Cフェスティバルや、その後のACMアワードのステージでもこの曲を披露している。そのあとには上述の通り、タロン・エガートンが映画でこの曲を歌い、2019年に大きな話題を呼んだ。名曲「Rocket Man」の”旅路”は今もなお続いているのだ。

Written By Paul Sexton

© ユニバーサル ミュージック合同会社