【SNS特報班】魚のすり身揚げは「天ぷら」?

魚のすり身揚げを「天ぷら」として提供しているうどん店=宮崎市大坪東3丁目・三角茶屋豊吉うどん

 宮崎市のうどん屋で「天ぷらうどん」を注文すると、魚のすり身揚げが載っている。天ぷらは、エビやイカ、野菜類などを揚げたものではないでしょうか。【宮崎市の高山俊文さん(75)からの質問】
 宮崎市内のうどん店で、魚のすり身揚げのトッピングを「天ぷら」と呼ぶのは珍しくはない。ただ複数のうどん店に聞いても「開店時からこの名前だった」「ほかの店が出しているから」とのあいまいな返事が多い。関係者にも知られていない謎を調べた。
 質問を寄せた宮崎市島之内の高山俊文さん(75)は、大学進学をきっかけに県北部から宮崎市に引っ越した。うどん屋で「えび天」と思って天ぷらうどんを注文すると「載っていたのは県北の郷土料理『あげみ』だった。予想と違って驚いた」と振り返る。独自に調べても理由が分からず、30年以上疑問が消えないという。
 10店近くの店を取材すると、同市の老舗「豊吉うどん」の創業者の孫、奥野千枝子さん(78)から貴重な証言を得られた。70年ほど前から天ぷらうどんがメニューにあり、「魚のすり身揚げを『天ぷら』として売っていた業者が店の近くにあり、仕入れていた」と幼い頃の思い出を語った。
 奥野さんの話を手がかりに、県央部のうどん店と「天ぷら」を取引する高畑商店=宮崎市青島西2丁目=へ向かった。高畑小百合代表は「かつて内海や青島で水揚げされた魚を使ってすり身揚げを製造する業者が多く、『天ぷら』として売っていた」と語った。
 すり身揚げの製造業者が「天ぷら」としてうどん店に販売し、店側もそのままの名称でトッピングに追加。高畑代表は「おいしいと評判になり、県央部で取り入れる店が広がった」と言い、独特な呼び名が根付いた理由が分かってきた。
 確証を得るため、県栄養士会名誉顧問で郷土料理に詳しい山下紘子さん(82)=同市花ケ島町=を訪ねた。ところが「四国のうどん文化が影響した可能性もある」と山下さん。四国では魚のすり身揚げを「じゃこ天」と呼び「何らかの形で『天ぷら』となり、トッピングするようになったのでは」と別の説を唱えた。
 柔らかい麺や「朝うどん」など独自の発展を遂げてきた宮崎うどん。うどんに関わる15人以上を取材しただけで、安易に結論を出すのは難しかった。一方でその奥深さに触れてうどんをすすると、食べ慣れた味が特別なものに変わった。

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