<書評>『民衆史の狼火を 追悼色川大吉』 偉大な歴史家への感謝

 まだ1年も経っていない。偉大な歴史家の色川大吉が逝去したのは、昨年の9月7日であった。文字通り「巨星落つ」だった。私も、19日に急ぎ追悼のコメントを書き、同人詩誌『KANA』第28号の「巻頭言」で公表した。

 そして今回、三木健編集の「追悼文集」である。この『民衆史の狼火を』では、自分史、民衆思想史の開拓者で、東京経済大学の名誉教授であった色川が多面的に紹介・追悼されている。ありがたい1冊だ。

 本書は、大きく2部からできている。第I部は「色川大吉 追悼記事集成」で、第II部が「『沖縄と色川大吉』書評録」である。そして、〈特別寄稿〉に上野千鶴子の「色川さん、ありがとう」が収録されている。

 やはり、圧巻は第I部である。ここには、朝日、毎日、読売、共同、時事、新報、タイムスをはじめとする、北海道から琉球までの11社以上の新聞や、『群像』、『現代の理論』等の諸雑誌へ掲載された追悼文が集録されている。その執筆者は、新井勝紘、成田龍一、渡辺京二、新川明、三木健、我部政男等の碩学を筆頭に40人を超えている。それに、無署名の新聞記事が加わる。

 惜別の情あふれるこれらの追悼文に共通するのは、自分史、民衆史を提唱し研究を領導してきた「色川史学」の歴史家に対する称賛と感謝の言葉である。そして、戦争体験を手放さず、「底辺の視座」から沖縄、水俣、東北、秩父、成田(三里塚)へ通い続け、社会運動まで展開した色川に対する共感と正しい評価である。色川が、北村透谷や宮沢賢治という文学者で思想家たちを研究・論述し、自らも詩を発表していたこともうれしい。

 さて、第II部である。ここで書評されている『沖縄と色川大吉』は、くしくも色川が逝去したその日が発刊日であった。この最後の著書が、沖縄から発出された意義は大きい。この遺著に対し砂川哲雄や伊佐眞一を始め8人余の、重要な書評が収録されている。私も色川を追悼し、色川史学に応えて、自分史を書き続けたいと思う。

(高良勉・詩人・批評家・沖縄大学客員教授)
 みき・たけし 1940年石垣島生まれ。琉球新報社で編集局長、副社長など歴任。2006年退社。著書に「八重山近代民衆史」「沖縄・西表炭鉱史「空白の移民史」など。

© 株式会社琉球新報社